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紅く染まる蝦夷。

明日の投稿はお休みさせてもらうと思います。


期待してくれていた方は、申し訳ございません。



 天文17年(1545年)蝦夷地

 とある開拓民




 蝦夷地に住む人間は主に三種類に分けられる。


 まずは先住民のアイヌ、彼らは独自の文化を持つことから日の本の住人と軋轢が生まれやすい。特に最近は南部家の蝦夷進出が大々的に進められているのでそれが顕著だ。


 一応、南部家はアイヌに対して友好的な政策を取っているので、彼らの中にも和人との共存を望む若者は多い。しかし、従来の文化を大切にする老人達は、今ひとつ決心がついていないのが現状である。


 次に開拓民、広大なフロンティアに夢見て移住したものの、蝦夷では米は作れず、自然は美しくも過酷で、苦労の連続である。蝦夷でも作れる商品作物や、鉱山資源、狩猟による毛皮の採集、それらを本土の穀物と交換し、何とか生計を立てている。


 罪人や浪人、家を継げない農民の次男や三男、迫害を逃れた被差別階級の人間などが開拓民の主な構成になっている。


 最後にこちらも開拓民と言っても良いのだが、開拓民の中には蝦夷の広大な大地を使って遊牧生活をする者がいる。彼らは家畜を育て、馬は南部家に、その他は領民達に高値で売りつけ大儲けしている。彼らは同時に優秀な騎兵でもあり、戦時にはヒャッハーするために海を渡って南部軍に加わる日の本最強の暴走騎馬軍団である。


 彼らにとって度々、略奪許可を出してくれる上に、合戦では的確な指揮で敵を殲滅する南部晴政は信仰の対象ですらある。


 



 ある男が雪に包まれた蝦夷の美しい森の中を、弓矢を片手に散策していた。


 男は山へ狩猟に来た開拓民である。冬に差し掛かった蝦夷では農作業は出来ないため、彼らは基本的に炭鉱で働くか、山で狩りをするかの二択である。


 男は今日もシカやウサギを狙って山に繰り出した。しかしこの日はこれといった成果もなく、落胆してとぼとぼと帰路についているところであった。


 だが男の足取りは重く、暗くなるまでにはしばらく時間もあるので、川べりで休息を取ろうとした、その時だった。


 ふと川筋の先の方を見ると、雪で白く染まった大地によく目立つ大きな影が見えた。


 自分の目がおかしくなったのか?


 鹿……じゃない、馬……よりも大きいかも知れない。


 あれは何だ?


 男の思考はすぐに打ち切られることとなる。黒い塊が下手をすれば馬を上回る速度で、こちらに向かって来たからだ。


 「ひっ‼︎」


 男は恐怖を感じで逃げ出した。あれは恐らく尋常のものではない、物の怪の類だ。


 追い付かれるのも時間の問題だと思った男は、咄嗟に木の影に逃げ込む。


 突進する物の怪に向かって矢を放った。しかし矢は直撃したものの、その強靭な肉に刺さることは無くその体の表面で弾かれてしまう。


 「くそっ‼︎」


 隠れていた木がその腕の一振りで薙ぎ倒される。だが男も焦らず木から木へと移り、何度も矢を放つ。


 初めは3本目の矢だった。当たりどころが良かったのか物の怪に突き刺さり、血が流れる。


 「浅い……、がこれを続けて消耗させれば」


 男に僅かな光明が見えた瞬間のことだった。






 突如、背後から加わった圧倒的な破壊力に、男の首は胴体と泣き別れた。


 



 のしのしと物の怪は男に近付く、そして単刀直入に言って彼は食われた。()()の巨獣の胃袋を満たすには、いささか足りなかったようだが……。


 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「みんな‼︎ この厳しい環境での連日の開拓作業、この南部晴政、感服するばかりだ‼︎ 鯨と酒を持って来たので、今日は存分に楽しんで日々の疲れを癒してくれ‼︎」


 「うおおおぉぉぉ‼︎‼︎」


 晴政は開拓民達の村にて、自腹で宴を開いていた。宴は辺りの村々を巻き込んで、もはや帰りの渡航費用が無くなる程までに大きくなってしまっていた。


 まあどうせその内、信愛辺りが迎えに来てくれるだろう。


 晴政は楽観的過ぎる予想をしていたが、それは大正解である。ご存知の通り信愛辺りが晴政を追跡している。


 「こちらはさっき仲良くなったアイヌのアシリアイノ殿だ‼︎ みんなも仲良くするように‼︎ 何言ってるか全然分からねえけどな、お互い様だ‼︎」


 「@/&@#/‼︎」


 


 「こっちもさっき仲良くなった遊牧民の三郎だ‼︎ 仲良くするように‼︎」

 

 「&@/&#@‼︎」


 「お前は日本語喋れよ‼︎ 何ちゅう津軽弁だ‼︎」




 晴政を中心に和気藹々と宴は盛り上がって行く。人々は最初は自分達の領主で、朝廷から官位すら貰っている天上人たる晴政を、非常に恐れていたのだが、酔っ払って晴政が自分から人々に絡んていくので、すぐに安心して素直に宴を楽しんでいた。


 人々はすっかり酔い潰れてしまい、宴は誰が言うでもなく自然にお開きとなった。


 


 

 しかし翌日、異変が起こる。


 宴に参加した後自分の村に帰っていったはずの、隣の村の村人が晴政のいる村に、何故か大急ぎできびすを返して戻って来たのだ。


 「はあっ、はあっ‼︎ オ、オラの村が、血、死んでっ‼︎ 嫁が、娘が……‼︎ う、嘘だ‼︎」


 「落ち着け、何を言っているのか分からんぞ」


 晴政は落ち着かせるため水をやる。男のただならぬ様子に、村人達が集まって来た。


 「し、死んでるんだ‼︎ 村人が、オラの家族が‼︎ 嵐が通った後みたいに‼︎ いや、嵐じゃねえ‼︎ 人だけ選んで皆殺しにされてる‼︎」


 「何だと‼︎ 野盗か何か⁉︎」


 「分かんねえ、分かんねえよ。馬も牛も金もそのまんまなのに、人だけずたずたにされて殺されてるんだ‼︎」


 「人だけ、ならば私怨か?」






 「人にあんな殺し方はできねえ、食われてるんだよお‼︎」


 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「こいつあ、ひでえな」


 晴政は村人達を引き連れて、その惨状を目の当たりにした。


 頭が吹き飛ばされた死体、手足が吹き飛ばされた死体、腹を抉られて臓物が飛び出た死体。脳や内臓を選んで貪られたような後がある。


 部屋中にばら撒かれた人のパーツや糞尿は、得も言えぬ悪臭を放っていた。寒さのせいで死体は腐らず、赤々とした肉の破片がそのままの状態で残っている。


 戦場に慣れた晴政ですら眉を顰めてしまう程だ。同伴した村人達の中には嘔吐してしまうものまでいた。


 「何をしたらこうなるんだ?衝車(攻城兵器)でもぶつけたらもしかするかも知らんが……」


 大砲や爆弾のない時代に、この死体の状態は異様である。晴政や村人達が呆然としていると、隣に立っていたアイヌのアシリアイノが神妙な面持ちで呟いた。





 「……キムンカムイ、……@#_&@#_ウェンカムイ」





 一同は一斉にアシリアイノの方を見る。


 「アシリアイノ殿、何か知っているのか?」


 必死に身振り手振りで情報を聞き出そうとする晴政。しかしやはりというか、さっぱり会話は出来ない。


 そこで遊牧民の三郎も口を開いた。





 「#@#&/,‼︎」


 「いやだからお前は和人だろ‼︎ 何か知ってるならちゃんと話せ‼︎」


 一同から総ツッコミが入ったところで、家屋の隅から呻き声が聞こえた。


 「うっ、うぅ……」


 「っ‼︎ 生存者だ‼︎」


 声が聞こえた方の穀物の俵をどかすと、酷い怪我の開拓民の男が床に横たわっていた。

 

 「大丈夫か‼︎ 何があった‼︎」


 「ば、化け物に、皆殺された……。あんなでかい生き物、(おか)じゃ見たことねえ」


 「どんな化け物だった?」


 「でかい……、熊だ……。本土の鍋に入れるような奴とは、全然ちがう……、二匹のつがいだった……。あく……ま……、蝦夷は……、人が住んで良いところじゃ……、なかった……」


 男は振り絞るようにそう言い残すと、程なくして息絶えた。


 静まり返る一同、その顔は次第に恐怖に染まって行く。遊牧民の三郎が、ようやく皆に理解出来る言葉で喋り出した。





 

 「オレも遠目に何度か見かけた事がある。自分の目がおかしくなったんだと思って見なかったことにしてたんだが……、晴政様、蝦夷の主はオレ達人間じゃねえ……、


 ここ蝦夷は森の神、蝦夷羆(エゾヒグマ)の縄張りだ」




 

 晴政は真剣な眼差しで、三郎を見つめる。


 ゆっくりと口を開いた。





 「まともに喋れるんなら、最初から喋れ‼︎」


 



 羆戦争、開幕。





晴政脱走の話はさっさと終わらせるはずなだったのに、筆が乗りまくって予想以上に長くなってしまっています……。


戦国時代の合戦や内政を期待されている皆様には、本当に申し訳ない。


前書きでも後書きでも謝るって、どんな状況だよ……。

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