晴政追跡。
活動報告ちょびちょび書いてます。よろしければそちらもお願いします。
北信愛は晴政の足跡を追いながら、南部領を北上していた。
流石に蝦夷(北海道)は冗談だろうと思っていたが、晴政は足跡を見るに迷いなく北へ北へ向かっている。どこぞの大うつけなどと呼ばれる者や、城に引きこもる軟弱な君主と比べ、超優秀な自由人というのはどっちがマシなのだろう。
南部領を歩き回ると、つくづくここは富を生み出す労働者の国なのだと思う。農民、職人、漁民、生業は様々なれど、彼らは価値を生み出す。
商人や我々支配者階級の武士達は、彼らの許しを得て存在しているのだ。
ボロ切れの様な着物で汗水垂らして必死に働く彼らを見て、小綺麗な身なりをした自分が、豊かである自分がどうしようもなく恥ずかしいものの様に思えて仕方がないのだった。
晴政様が常々言っていることが、思い起こされる。
「この南部領において最も価値のない人間は南部晴政であり、一番の罪人も然りだ。
人がそれに気付くのは何百年先になるかは分からないが、専制君主は国で一番豪勢な食事をとった翌日に、大悪人として処刑台の露に消えることになる」
「っ……‼︎」
「ふふふ、何を怖がってんだ信愛。もしかしたら何百年後かにはって話だよ。
それに領民皆が自らの意思で武器を取り、王を引きずり下ろす。それは建国の精神からして今までの日の本に存在した国とは格が違う。
ここだけの話だがな、オレが騎馬と武器の増産に拘り、領民達を広く訓練しているのは、そこへ至るための下地を作っているんだ。願わくは引きずり下ろした君主すら1人の領民として扱われると良い。
易姓革命の血塗られた玉座など、その次も同じ方法で赤く染まるだけだからな」
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「南部様が村にいきなり来るんだもん、オラ驚いちまってよお。何か南部様のこと怒らせちまったのかって、村の皆で震えてたんだ」
「それで?」
「そしたら酒をやるから、一緒に農作業をさせろって言ってよ。オラ達おったまげちまった。隣で南部様が草むしりから、畑を耕すのまで一緒にやってんだ。その日はさっぱり身が入らなくて困ったよ」
「早めに切り上げて皆で酒盛りをしようって言ったのに、もう少し耕してたいってずっと1人で働いてたよ。それに晴政様は酒に口をつけなかったな、それはオラ達にやったもんだからって言ってなあ。ほんに変わったお人だよ」
「……全く持って同感です」
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「そうそうこないだぼさぼさの怖い顔した髭面が、いきなり押し掛けて来てよ。持ってた薙刀も腰に差してた刀も、その辺にほっぽり出して、急に手伝い始めたんだ。この鉱山はいつでも人手が足りてねえ、罪人まで雇ってる程だ。構いやしねえがよ、いや〜わざわざ危ない所に入って行くんだそれが、つるはし振るのも上手だし、こっちは大助かりだったけどな」
「それはそれはご迷惑をお掛けしました……」
「何であんたが謝るんだ?まあ良い、そんであんまり良く働くんで、皆そいつを気に入っちまってよ。ずっとここで働かないかって誘ったんだが、行きたい所があるって言って断られちまった。お礼だって言って逆に酒と猪の肉を置いていった始末だ。全く、変な奴がいるもんだぜ」
「……全く持って同感です」
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「血とか獣とかの混じった、凄え匂いしたオッさんだったな。急にこの刀をやるから手伝わせてくれって言ってよ。武士が自分の刀を人にやるなんてありえねえ。ありゃ気が狂っちまった浪人が何かだろうな」
「はあ……」
「どうしたんだ兄ちゃん?溜息なんかついて」
「いえ、何か道を間違えた様な気がして」
「そりゃいけねえ、心労であの髭面の浪人みたいにおかしくなっちまわないようにな。
そんでその浪人を働かせてみたらこれがなかなか使える奴でよ。製鉄はきつい仕事だ、初めてやる奴は大体暑さでぶっ倒れちまう。でもそいつはたたらを踏んだら十人力、石炭を運ばせたら一人で凄え量担いで行ってよ、その日作った量はウチの釜が一番だったらしい。監督役の侍から褒美が貰えたなあ。刀も褒美も貰えたし、しばらく女には困らねえってもんよ」
「監督役の方はどこに?」
「ああ、それならあっちの小屋にって……、噂をすればこっちに向かって走って来てるな」
「信愛様‼︎申し訳ありません‼︎」
「いや構わんよ、大体事情は聞いた」
「私も必死になって晴政様を止めたのですが、聞く耳持たず……、命令だと言われたら私の様な下っ端武士では引き下がるしかなく……」
「何だ?兄ちゃん、随分偉いお侍さんだったんだな」
「頭領‼︎頼むから黙っててくれ‼︎申し訳ありません、こやつらは何分、礼儀というものを知らず‼︎」
「お前も苦労してるんだな……」
「何だか知らねえが、兄ちゃんも手伝って行くかい?武士さんは力が強いからな、こちとら大歓迎だぜ」
「頼むから黙っててくれ‼︎」
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「見えたぞ‼︎相当でかい鯨だ‼︎取舵一杯‼︎全速前進だ‼︎」
「よっしゃ‼︎全力で漕げ‼︎逃げられちまうぞ‼︎」
「おっさん、あんだけ自信満々に大言抜かしたんだ。しくじったら魚の餌にされても文句はねえな?」
「漁師って怖いな。まあ任せとけ、南部晴政は槍でも銛でも武器の扱いはお手の物だ」
「ああん、今、南部晴政っつったか?冗談は笑えねえぜ、三戸の南部様がこんな辺鄙な所で船に乗ってる訳ねえだろ‼︎言っていいことと悪いことも分からねえのか、この根無し草の素浪人が‼︎」
「やだ……、漁師って怖い……」
「オラぁ‼︎そろそろだ‼︎準備しろ、浪人野郎‼︎」
「応っ‼︎くらえやああああぁぁぁぁ‼︎‼︎」
「ってな感じで、一撃で鯨を仕留めたそいつは、もう港に帰ったら立派な海の男の面構えになってやがった。ありゃ良い漁師になるぜ。ウチの娘をやろうって言ったけど、やらなきゃいけないことがあるって、それ以上何も言わずにあいつは去っていった。くう‼︎痺れるぜ‼︎今からでも考え直して、オレの義息子になってくれねえかなあ」
「鯨が獲れたんですか、それならこのお祭り騒ぎも納得です」
「おうよ、蝦夷の連中も遊びに来て、朝から晩まで大盛り上がりよ‼︎そういやそいつは連中の乗って来た船に、乗せてもらってたな。今頃はもう蝦夷に着いてんじゃねえか?」
「なるほど、ありがとうございます。ところでそちらのお嬢さんはどうして隠れているのですか?」
「女は惚れた男には、奥手になっちまうもんだ。まったく、あの男には目もくれなかったくせに、兄ちゃんみたいな格好良い男が来たらあの有様だよ。あの面食い娘が……」
「ははは、その人の顔そんなに駄目ですかね」
「何だろうな、上手い言葉が見つからねえが、何というか人相が悪かった」
「はは……、そうですか……」
行く先々で顔が怖いと噂される哀れな主君を追い掛けて、遂には日の本の最果て、蝦夷へ渡ることになった信愛。
似たような苦労は、晴政が生きている間ずっと続くことになるのだが、この時の彼はそれを知る由もなかった。
近いうちに毎日投稿を休ませてもらうかも知れません。頑張って書き溜めます。




