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【書籍化】闇ギルドのマスターは今日も微笑む  作者: 溝上 良
第三章 勇者パーティー編
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第三十七話 余裕の理由と豹変

 










「この二人が闇ギルドって……どうしてそんなことが分かるのよ!」


 マホはロングマンに噛みつく。

 二人が王国から敵視されている組織の人間だと、信じたくないからだ。

 そんな彼女に、出来の悪い生徒に言い聞かせるように話し出すロングマン。


「俺たちが魔王軍の幹部を倒したとき、王様に謁見しただろ?その時、俺たちは初めて闇ギルドのことを聞かされた」

「そんなこと、知っているわよ!」

「まあ、聞けって。その後、すぐに謁見は終わってパーティーが始まったけど、その時は俺だけ偉い人に呼ばれてな。もっと、闇ギルドの詳しい情報を教えられたんだよ」

「な、何であんただけが……」

「それは分かんねえけど、勇者パーティーの中で一番俺が頼りになるってことじゃねえのか?」


 ロングマンはそう言うが、マホは、それは違うと思った。

 おそらく、一番話しやすかったのがロングマンだったのだろう。


 ロングマンはパーティーの中で、一番異世界を楽しんでいる男だ。精神的な余裕も充分にあった。

 逆に、マホなどは精神的余裕がないし、王国に対して強い不信感を抱いているから教えられなかったのだろう。


「まあ、そこで俺は闇ギルドの名前と、構成員の情報を得たってわけだ。構成員の情報に関しては、ほとんど大したものはなかったけどな」


 これを聞いて、マホはユウトたちも聞かされていない理由を知った。

 もし、ララディのような小さな女の子が闇ギルドのメンバーだと言われても、心優しいユウトは戦うことができないかもしれない。

 メアリーもまた、慈悲深い少女だ。ユウトと同じ理由だろう。


「ほとんど情報がなかったが、一人だけ他よりも情報が多い構成員がいてな。そいつが、ララディちゃんにそっくりだったんだよ」

「なっ……!(誰か、ララの情報を売りやがったですね!王国となれば……リッターですかっ!あの、無自覚淫乱騎士めっ!マスターを独り占めにした腹いせにララの情報を売るなんて……っ!!)」


 ララディはロングマンの言葉から、すぐにギルドの仲間(笑)が自分を売ったことを悟った。

 彼女も、マスターを他のメンバーが独り占めしたら何かと邪魔をするだろうから、すぐに分かったのであった。


「今まで確信を得られなかったが、このオーガとの戦いで完全に一致したぜ!植物を使う小さな女となれば、ララディちゃん以外考えられねえ!」

「うっ……!」


 ロングマンの言葉に、何も言い返せないマホ。

 確かに、悪逆非道だという闇ギルドのことで思うところがないというわけではない。


 ララディは生きたまま身体をドロドロに溶かしていくという凄惨な殺害方法で、オーガを殺した。

 それを見ても、眉一つ動かさないほどの冷血ぶり。

 それは、まさに悪いギルドのメンバーのものではないだろうか?


「ほ、本当なんですか、マスターさん、ララディ……」

「ユウトっ!」


 オーガに倒されたユウトが、メアリーに肩を借りながら歩いてくる。

 メアリーの回復魔法をかけられたとは言っても、まだしんどそうだ。


 フラフラになりながらも、ユウトが二人に問いかける。

 はっとマスターを見ると、少し悲しげな笑顔を浮かべていた。


「何でよ……。違うって言いなさいよ……」


 マホのすがるような言葉にも、マスターは寂しそうな笑顔を浮かべるだけだ。


「―――――はぁ、鬱陶しいですね」


 シンと静まり返った状況で、ララディの言葉がやけにみんなの耳に届いた。

 全員の注目を集める彼女は、面倒くさそうに半目になっていた。


「マスター。もう、言っちゃってもいいですよね?」


 ララディがマスターを見上げて、判断を仰ぐ。

 マスターは仕方がないといった様子で頷いた。


 その反応を見ると、ララディはニヤリと笑って勇者パーティーを見る。

 まるで、敵対しているかのように距離を開けて。


「そこの役立たず男、正解ですよ。よく分かったですね。まあ、リッター(あいつ)の妨害がなければ、気づいていなかったと思うですけど」

「おいおい、あっさり認めるんだな」

「はっ!お前ら程度にばれたって、どうでもいいことです」

「ははっ!相変わらず俺に対して辛辣だな、ララディちゃん。でも、ここにいるのが、俺たちだけだって誰が言ったよ?」


 ロングマンがそう笑って指を鳴らすと、マホはようやく自分たち以外の人間がここにいることを悟った。

 しかも、その数は非常に多く、三十人近くいた。

 全員厭らしい笑みを浮かべながら、ぞろぞろと集まってくる。


「なっ!この人たちは……っ!?」


 その男たちの中に、何人も見知った顔が入ってあることにマホは驚愕する。

 だが、マスター以外脳の中で占有率が異常に低いララディは、まったく見知らぬ男たちであった。


「あれ、知っているですか、お前」

「何でララディは覚えていないのよ!この人たち、私たちにオーガの討伐を依頼してきた村の人たちじゃない!」


 そう、彼らは村で勇者パーティーと闇ギルドを迎え入れた人々であった。


「こいつらは、村の人間じゃねえぞ。全員、グレーギルドと王国の騎士たちだ」

「なっ!?」

「マスター、素敵です……」


 ロングマンが勝ち誇るように言うと、マホが驚愕し、ララディはどうでもよさそうにする。

 一度彼ら全員の顔を見回した後、飽きたのかマスターの顔を見て陶酔し始める。


 一番危機感を持たなければならないはずのララディがのんきにしているので、また腹が立つマホ。

 彼女はロングマンたちにまったく興味がなさそうなので、仕方なく自分が会話をする。


「本当の村の人たちはどうしたの?」


 その質問に答えたのは、ロングマンではなく村長と自称していたあの男であった。


「ああ、あいつらならとっくに殺しちまったよ。村を貸せって言ったら抵抗しやがったからな。女もいたから、久しぶりに楽しませてもらったぜ」

「なっ……!?そ、そんなこと許されるわけ……っ!」

「ざーんねん。俺たちに依頼してきたのは、王国の王子様だぜ?」


 マホは愕然とする。

 闇ギルドのメンバーを討伐するために、一つの村をグレーギルドと王国騎士は滅ぼしたのだ。

 それも、非道な方法で。


「あんたたちの中に、騎士もいるんでしょ!?国民を守らないでどうするのよ!」

「おー、お嬢ちゃん。そんな物語のような騎士様を求めるんだったら、『王子派閥』の騎士に言ったって仕方ねえぜ?『王女派閥』になら、お嬢ちゃんの求める騎士様はいるだろうがな」


 マホの叫びに、マスターたちを囲む男の中の一人がそう言って笑う。

 王国の騎士は国民を守るべきものだとばかり思っていたマホは唖然とする。

 彼の言葉を信じるならば、少なくとも『王子派閥』とやらの騎士たちは、国民を虐殺することに何のためらいもないのだろう。


「め、メアリーは!こんなことを許してもいいの!?」


 ロングマンはもとより、マスターたちを囲む彼らに何を言っても同じだと判断するマホは、同じパーティーで心優しいメアリーに問いかける。

 彼女なら、このようなリンチを自分と一緒に止めようとしてくれるかもしれない。


「……私も、この方たちが罪のない村の人々を殺害したことはダメだと思います」

「メアリー!」


 ユウトに肩を貸しながら、顔を伏せて言うメアリー。

 ようやく、仲間ができると喜ぶマホであったが、次の瞬間メアリーが一変してしまった。


「でも!闇ギルド『救世の軍勢(イェルクチラ)』のメンバーには天使教の信仰者はいないと聞きます!あまつさえ、天使教ではなく意味の分からない新興宗教を立ち上げているとか!」

「め、メアリー……?」


 カッと目を見開いて、爛々と眼光を輝かせるメアリー。

 その瞳には、いつもの優しくて穏やかな色はまったくなく、攻撃的で盲目的な色しか残っていなかった。


「世界で唯一許容される宗教は、天使教のみ!愚かにも我が宗教と対立する『あの宗教』や、バカバカしい新興宗教なんてクソ喰らえです!信仰する奴らも、皆殺しですっ!!」


 マホはメアリーの豹変に愕然とする。

 優しく思いやりのある子で、怪我をすればいつも暖かい光で癒してくれたのだ。

 その優しいメアリーと、今の瞳孔を開き切って興奮した様子を見せるメアリーの、どちらが本物なのかわからなくなってしまった。


「あー。本当、うちのニコニコ年増もそうですが、狂信者って気持ち悪いですね」


 ララディはメアリーの狂いっぷりを見て、心の底からげんなりとする。

 時折スイッチが入ってわけのわからないことを延々とほざき続けるアナトのことを思い出したのである。


 普段は優しげにふるまっている(演技をしている)アナトだが、何かの琴線に触れるとすぐに礼拝室に閉じこもり、マスターに対して重すぎる感謝や畏敬、愛の念を捧げ続けるのである。

 たまに、無理やり付き合わされるせいで、ギルドメンバーからの不評は半端ではない。

 ただ、天使などというゴミ虫に祈るよりも、マスターに祈りを捧げる方がよっぽど有意義であることには同意していた。


「私は、ララディちゃんとマスターさんが闇ギルドかどうかなんて、本当にどうでもいいんです。ただ、天使教以外の宗教を信仰していることが許せない……ッ!天使様は、絶対にお許しにならない!」

「まあ、ララはマスターの手足となっていた方が幸せですから、天使教は信仰しないですけど……」

「だったら、天罰ですっ!!天使様に代わって、私があなたたちを断罪します!!」

「うわー……やっぱり、狂信者って鬱陶しいったらありゃしねぇです……」


 ララディは心の底から嫌そうな顔をするのであった。




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