第三百四十九話 救世の軍勢vs.ラルドの残党2
「……で、ララたちは雑魚処理ですか?」
「みたいね」
ララディとクーリンは、目の前にいるラルドの残党たちを見てため息を吐いた。
マスターやソルグロスほどではないが、彼女たちも気配を探ることはできる。
そうすると、現在リース・ヴァンピール組とシュヴァルト・リッター組が正対している相手ほどの力量を持つ敵は、彼女たちの前にいるラルドの残党の中にはいなかった。
とはいえ、彼らはそれぞれが騎士よりも優れた戦闘能力を持っている。
そんな彼らを雑魚呼ばわりできるのは、『救世の軍勢』メンバーだけだろう。
「俺らを雑魚とか、行ってくれるじゃねえか!!」
「そっちも、ガキとエロい身体の女しかいねえくせによぉっ!!」
「ああん!?どっちがガキですか!?まさか、ララのこと言ってんじゃねーですよね!?」
ガキ発言に即座に反応するララディ。
だが、残念ながら彼女である。
「ふっ……認めなさいよ、ララディ。あんたはガキ。あたしは大人なのよ」
「う、牛乳がぁ……っ!!」
ドヤっと優越感に浸る顔をして、わざとらしく胸の下で腕を組むクーリン。
ギルド一の豊満なそれがたゆんと揺れ、ララディの顔が鬼のそれへと変わる。
しかし、ふんっとララディも笑った。
「はっ!そうですね。お前はそのエロエロな身体でだれかれ構わず視線で犯されるビッチですしね。仕方ねーですね」
「はぁっ!?」
唐突なビッチ発言に、クーリンは目を剥く。
「誰がビッチよ!あたし、マスター以外にそんなことするつもりはないわよ!!」
「お前がどう思おうが関係ねーです。実際に起きていることが問題なんですよ、ビッチ」
「ビッチって言うな、ちんちくりん!!」
「だ、誰がちんちくりんですか、ビッチ!!」
『救世の軍勢』でも我が特に強い二人は、やはり敵の眼前でも取っ組み合いをはじめてしまった。
この二人を組ませたのは、アナトの采配ミスかもしれない。
「くはははっ!!俺たちを倒すどころか、仲間割れかよ!話にならねえな!」
二人の仲の悪さを見たラルドの残党たちは、彼女たちをあざ笑う。
数では圧倒的に有利である。
たとえ、ララディとクーリンがどれほど強くとも、数の暴力に押しつぶされないなんてことはない。
実際、リミルを捕獲する時は数の暴力で押しつぶしたのだから。
だが、そんな彼らの考えは根底から間違っていた。
「あー、もう!ウザいわね!じゃあ、勝負しましょう。あいつらを殺した数が多い方が、マスターにふさわしいってことよ!」
「いいですよ!!」
いつの間にか、ビッチやちんちくりん発言からマスターにふさわしいのはどちらかということで激しく揉めていた二人は、クーリンの提案によってラルドの残党たちの命を使った勝負をすることになった。
「テメエら、ふざけたこと言ってんじゃ……!!」
当然、明らかに侮られた言い方をされたラルドの残党たちは怒りを露わにするが……。
クーリンの背後に現れた巨大な魔法陣を見て、顔色を変える。
「さあ、先手必勝よ!!」
召喚魔法で呼び寄せられたのは、やはりオーガやゴブリンといった魔物であった。
一体や二体ではなく、何十体何百体と、もはや軍隊の規模で魔物たちが襲い掛かった。
ラルドの残党の中にも召喚魔法を扱える者がいるが、最も優れた者でも十体程度が限度である。
クーリンはその何倍もの魔物を、大して疲弊をする様子もなく召喚してみせたのであった。
「あぁっ!ララも負けねーですよ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ラルドの残党たちも、強力な魔物と一対一ならいい勝負ができるほどの実力者たちであった。
しかし、地面を崩されればまともに戦うこともできない。
ララディがアルラウネとしての力を振るい、地中から巨大な植物をいくつも召喚したのだ。
まるで、意思を持つかのように襲い掛かってきて、植物によっては人を丸のみにする食人植物も現れていた。
ラルドの残党たちは、大勢いる自分たちにたった二人の女子供が抗えるはずもないと思っていた。
だが、それは大きな勘違いである。
ララディとクーリンは、『救世の軍勢』メンバーの中でも対集団戦に特化したメンバーなのだから。
「はーい、ララの植物がいっぱいラルドを殺しているです!ララの勝ちです!!」
「はぁっ!?あたしのオーガたちの方が殺しているんですけど!?」
仲は悪い。
◆
「いやー。本当に派手にやっているでござるなぁ」
「そうねぇ」
「だ、奪還作戦の意味を分かっているのかしら……?」
残っていた『救世の軍勢』メンバーであるソルグロス、アナト、クランクハイトは三人で行動していた。
彼女たちが最もメンバーたちの中でもアジトの中へと入りこめていた。
というのも、この三人は正面から激しい戦闘を繰り広げるというタイプではなく、必要に迫られれば隠密に徹することができるからである。
また、ソルグロスという案内人がいることも大きい。
「う、うわっ!?て、敵がこんな所にまで……!!」
「クランクハイトぉ」
「は、はいはい……」
ばったりとラルドの残党と出くわしても安心。
クランクハイトの幻覚魔法ですぐさま無力化。そして……。
「いただきますでござる」
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ソルグロスの情報食いである。
指をうぞうぞとスライムのものに戻し、耳から突っ込んで直接脳をかき混ぜる。
そうすることで、必要な情報を得ているのである。
流石に、平の構成員がマスターの居場所を知っているということはなかったが、大体どこのあたりにいるということは掴むことができた。
それに従って、アジトの中をとくに緊張することもなく、アナトたちは歩くのであった。
「あらぁ?随分と開けた場所に出たわねぇ」
ソルグロスに案内されながら歩いていると、狭苦しい通路から一気に開けた場所に出た。
そこは、随分と広大な広場になっており、『救世の軍勢』メンバーがぶつかり合うにも十分な広さを誇っていた。
「ここは、ラルドの残党たちが己を鍛え上げるための鍛錬場らしいでござる。拙者たちのギルド本部にあるものと似ているでござるな」
構成員から抜き取った情報で、アナトとクランクハイトに説明するソルグロス。
これほど大きなものではなかったが、『救世の軍勢』のギルド本部にも鍛錬する場所がある。
そこでは、鍛錬ではなくもっぱらメンバー同士のガチの殺し合いが勃発しているのは余談である。
「お待ちしておりましたよ、『救世の軍勢』の皆さん」
アナトたちを出迎えたのは、にこやかな笑みを浮かべているヒルデであった。
もう、ほぼ中枢部とも言えるアジトの広場には、ついにラルドの残党たちの首魁であるヒルデが立っていたのであった。
「あなたはぁ……確かドラゴンの集落にもいたわよねぇ?」
「ええ、そうです。そして、私がラルドの残党を率いております。どうぞ、お見知りおきを」
頭を下げるヒルデであったが、その目は彼女たちを捉えて離さない。
隙を見せれば苦無でも投げてやろうと考えていたソルグロスは、布の下で小さく舌打ちをする。
「まあ、ここであなたたちには死んでもらうので、私の名を覚えていただく必要もありませんね」
「こ、殺されることは前提なのね……」
自分たちも殺す気満々のくせに、そんなことを言うクランクハイト。
「ええ、もちろん!マスターを苦しめるために、あなたたちを殺すのです!!」
ヒルデはそんな彼女の呟きに、過剰なまでに反応する。
目を思い切り見開き、天を仰ぎ見る。
「自分の力の届かない場所で大切な存在がズタズタに引き裂かれていたら、どのような顔をしてくれるのでしょうか!?どのような顔を向けてくれるのでしょうか!?あぁ……想像するだけでたまらない!」
自身の身体を抱きしめ、くねくねと気持ち悪く身体を揺らすヒルデ。
そんな彼を、明らかに引いた目で見ていたアナトたち。
だからこそ、唐突に変貌したヒルデの攻撃に対応するのが遅れた。
「では、早速やってみましょう」
「っ!?」
ヒルデの手から魔力弾が放たれる。
それは一直線にソルグロスの心臓へと飛んでいき……。
「あ、痛いでござる」
そこから身体をずらしたソルグロスの腕を持って行った。
片腕を吹き飛ばされるというのは重傷なのだが、それは人間のお話。
スライムの彼女は、別に大したダメージではない。
ゆえに、悲鳴ではなくただ現状を把握するような冷めた言葉しか出さなかった。
「まったく……マスターにも聞こえるような、大きな悲鳴を上げてもらいたいものですね」
「いやー。別に、拙者コアさえあればいくらでも再生できるでござるしなぁ」
まったく危機感がなかった。
そんなソルグロスの反応にやれやれと首を振っていたヒルデは、クランクハイトを見てニヤリと笑った。
「おや、今私に幻覚魔法を使いましたね?残念、効きませんよ」
ヒルデは自慢するように、懐から玉を取り出す。
「他のメンバーにも玉の力を取り込ませていますが、私はその中でも最も多くの玉を取り込んでいます。必然的に、その力は強大なものとなる」
さまざまな争いの力を込めた玉を、ラルドの残党たちは取り込んでいる。
そして、ヒルデやダニエルなどの幹部クラスになると、マスターの力を吸収した玉をも取り込んでいるのである。
その力は、彼ら本来のものよりもはるかに優れたものとなっており……。
「あら?あなたはもう、私の術中にはまっているのよ?」
「え……」
クランクハイトが艶やかにヒルデに微笑みかける。
その言葉を聞いた途端、ヒルデはガクッと膝をついた。
視界が恐ろしいほど歪んだからである。
「な、何故……?」
「何故?私の幻覚魔法が、あなたに効いているだけよ」
くすくすとおかしそうに笑うクランクハイト。
今は、アスモデウスとしての面が大きく出ていた。
「確かに、マスター本人だったら、私の魔法も効かないかもしれないわね。でも、所詮あなたはマスターの力をかすめ取ったコソ泥に過ぎないのよ」
「ぐっ、く……で、でも、それだけで私に幻覚魔法をかけられた理由には……!」
力が飛躍的に向上したからといって、それはマスターの力のおかげ……言い換えればドーピングみたいなものなのである。
だから、ヒルデ自身はそれほどでもない……としても、マスターの力がある限りいくらクランクハイトの魔力でも簡単に幻覚にはかからないはずなのに……。
「私の……アスモデウスの特異体質で、私は周辺のものから生気を吸い上げることができるの」
「そ、それは知っています。しかし、近くに仲間がいれば全力で吸い上げることはできないはず……!!」
「ええ、そうね。まあ、別に吸い上げてやってもいいのだけれど……」
ヒルデの言うことはもっともだ。
別に、『救世の軍勢』メンバーを吸い殺すことにクランクハイトは何の抵抗も持っていないが、今ここで殺すことはマズイという程度の常識は持っていた。
だからこそ、ヒルデもたかをくくっていたのだが……。
「私がだれかれ構わず吸収する……というのは少し違うわよ。まったく吸わないということはできないけれど、ガッツリ吸う対象とそれほど吸わない対象を分けることはできるようになったの。あなたの持っている私の情報、古いわよ」
「なっ……!!」
楽しそうに微笑むクランクハイトと対照的に、ヒルデの顔は驚愕に染まる。
つまり、クランクハイトはヒルデから力を吸収したのは間違いない。
だからこそ、マスターの力を取り込んでいても、それを吸われれば幻覚魔法に抗うことができなくなった。
周辺から見境なく生気を吸い取ってしまい、その特異体質のせいで過去辛い目にあったクランクハイトであったが、そのアスモデウスとしての力も今では少しとはいえコントロールすることができるようになっていたのであった。
「ぐっ……!!」
ヒルデは幻覚魔法に囚われながらも、それでも何とか逃げようと身体を動かそうとするが……。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
脚に何らかの液体がかかり、ジュッという音と共に酷い火傷を負ってしまい、動けなくなってしまう。
目を向ければ、そこには吹き飛ばされた腕がうぞうぞと回復している過程のソルグロスがいた。
「拙者の腕の仇でござる」
「くっ、くそぉ……っ!!」
最初に浮かべていた笑顔なんてかなぐり捨て、鬼の形相を浮かべるヒルデ。
だが、そんな恐ろしい顔をしても、『救世の軍勢』メンバーの攻勢は緩まない。
「リミルの前にぃ、色々と鬱陶しかったあなたの処理よぉ。『ファンデルフ』ぅ」
黒い槍から、おぞましき光線が放たれる。
それは、一直線にヒルデに向かって行き……。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!この私がぁ、こんなことでやられるとでも――――――!!!!」
幻覚魔法で脳を揺らされ、ソルグロスの毒液で脚を溶かされたヒルデは逃げることもできず、そのような怨嗟の声を撒き散らして『ファンデルフ』の光に飲まれたのであった。




