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【書籍化】闇ギルドのマスターは今日も微笑む  作者: 溝上 良
第三章 勇者パーティー編
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第二十四話 マホの疑念

 









「じゃあ、自己紹介しますね。僕はユウトと言います」


 ユウトはこのパーティーのリーダーみたいだね。よろしく。


「私はメアリーです。天使教のシスターです」


 修道服姿の女性が綺麗に笑って自己紹介をする。

 て、天使教か……。アナトとの相性は最悪みたいだね……。


「俺はロングマンだ!よろしくな、ララディちゃん!」

「ふふ」


 キラリと笑顔を見せて、露骨にララディに好意を向けるロングマン。

 ララディの不自然なまでに綺麗な愛想笑いが炸裂する。


 どうやら、ララディは彼のことが嫌いらしい。

 僕の手を彼らに見えないようにキュッと握って、何かをこらえるようにフルフルと震えている。

 ……彼らをボコボコにしたい衝動とかではないよね?


「……私はマホ」


 そして、ようやく最後の女の子の名前がわかった。

 へえ、ユウトもそうだけれど、マホというのもあまり聞かない名前の響きだ。


 確か、東方の島国ではそんな感じの名前だったような気がするけれど……。

 もしそうなら、随分と遠くから旅をしているんだなぁ。


 ところで、君たちは冒険者なのかい?

 僕がそう聞くと、ロングマンがとても誇らしそうに言ってくれた。


「おいおい、俺たちをそんな普通の奴らと一緒にしないでくれよ。俺たちはあの勇者パーティーなんだぜ!」

「ろ、ロングマン……」


 ほほう、勇者とな……。

 あまり詳しいわけではないけれど、勇者という言葉は知っている。


 そうか。勇者は代替わりをしたのか。

 本当、僕はいつまで生きているのだろうか……。


「……あなたたちの名前は?」


 マホがじっと僕たち……というか僕を見てくる。

 そうだね。自己紹介されたんだから、ちゃんと返さないと。

 僕はちょっとブルーになっていた気持ちを奮い立たせる。


「ララの名前はララディです(あまり、名前は呼んでほしくないですが)。そして、このお方はララのマスターです!すっごくイケメンで、偉大で、素敵です!」


 うぉい、ララディ!?

 自分の自己紹介をそんなにあっさりと終わらせたのに、僕だけ褒め称えていたらおかしいでしょ!?


 それに、マスターとか言っちゃったらダメでしょ。

 僕たちが闇ギルドの人間だって隠すつもりだったのに、どうしよう……。


「ら、ララディさんはま、マスター?さんのことがとってもお好きなんですね……?」

「はいです!(お前が分かったような口を利かないでほしいです)」


 あぁ……メアリーがフォローしてくれるけれど、とっても難しそうな顔をしている……。

 それに、マホの僕を見る目がさらに鋭くなっているし……。

 これは、彼女に疑われたかな……?


「ええっと……マスターっていうのは……?」


 ユウトが不思議そうに僕を見てくる。

 ど、どうする……?


 まさか、僕がギルドのマスターをしているとは言えないし……。

 それを言ってしまうと、当然どこのギルドかと聞いてくるだろう。

 う、うぅん……。


「へー、学者さんなんですか」


 僕はユウトの言葉にコクリと頷く。

 と、とりあえず、これでいいだろう。


 ララディとは知識や技術を教える師弟関係だということにすれば、マスターと呼ばれることもまあおかしくない……はずだ。

 この花畑では珍しい植物が取れるため、それを採取しに来た……ということにした。


「さて、自己紹介も終わりましたし、そろそろ出発しましょうか」

「あ、ちょっと待ってほしいです」


 ユウトが言うと、ララディが制止する。

 ん?どうかしたのかな?


「ちょっと、お花摘みに行ってくるです」


 あー……なるほど。いいよ。一人で大丈夫かな?


「大丈夫です。い、いずれ恥ずかしいところも見せ合う仲になるですが、さ、流石にまだマスターに音を聞かせるのは恥ずかしいです……」


 ポッと頬を染めてもじもじとするララディ。

 いずれ?


「おっ、ララディちゃん!俺も付いて行ってやろうか!?」

「はは。殺されてーですか、この蛆虫」


 うぉぉぉぉぉっ!?

 下心丸出しの顔でセクハラ発言をするロングマンに、ララディがニッコリと素敵な笑顔で返す。


 でも、言っていることが酷いぃっ!!

 分かるよ、ララディ。腹が立つ気持ちは十分分かる。


 けれど、ちょっとだけ我慢してくれると嬉しいなぁ!

 ララディの発言に、僕の常時発動型スマイルが少し引きつりそうだ。


「じゃあ、行ってくるです、マスター」


 う、うん。言う必要はないかもだけれど、気を付けてね。

 ララディはロングマンの時とは打って変わって僕に笑顔を見せると、よちよちと歩いてここからじゃあ見えない森の中に消えて行ったのであった。


「お、俺、今凄いことを言われた気がするんだけど……」

「気のせいじゃないですか?それに、さっきはロングマンさんが悪いですよ。女の子に言うような言葉じゃないです」


 ララディの何かを感じてガクガクと震えているロングマン。

 メアリーはそんな彼に嘆息しながら、言葉遣いに関して注意していた。


 ふー……とりあえず、今のところ致命的なミスは犯していないね。

 さっさと村まで一緒に行って、この勇者パーティーから離れないとね。

 闇ギルドと勇者パーティーなんて、水と油みたいな関係だと思うし。












 ◆



「わっ!ちょっと、マホ……?」

「いいから、こっち来て!」


 ユウトの腕を掴んで、グイグイと引っ張るマホ。

 ロングマンやメアリー、そしてマスターから十分な距離を取れたところで、ようやく彼の手を離す。


「ど、どうしたの?」

「どうしたじゃないでしょ!?何であの男の人と一緒に村に行かないといけないの!?」


 のんびりとしていて問題を何も認識していなさそうなユウトに、怒りを爆発させるマホ。

 もともと、気が長い方ではなかった彼女だが、この世界に強制的に連れてこられてからさらに短くなった気がする。


「何でって……僕たちの不注意であの人たちに危険を招いちゃったんだよ?だったら、それを謝罪するのは当然じゃないか」

「そ、それだったら謝るだけでいいじゃない」

「それだけだと、ちょっと酷いと思うよ」

「うぅ……」


 ユウトの声音に、少し咎めるようなものが含まれる。

 マホだって、こんなことを言っているが心優しい少女である。


 マスターとララディの元にオークを向かわせてしまったことに負い目を感じているし、謝罪として彼らを安全な村まで送り届けることに何もおかしなことは感じない。

 ただ……である。


「だって、あの人何だか怖いんだもの……」

「あの人って……マスターのことかい?」


 ユウトの言葉に、コクリと頷くマホ。

 彼はマスターの何が怖いのか、さっぱりわからなかった。


 チラリと、少し離れたところに立っているマスターを見る。

 マスターは非常に整った容姿で、とても格好いい。


 綺麗な金髪に青い目と、異世界人らしい容姿をしているが、今まで見てきた異世界人の中でも最も綺麗に整っている。

 身長も高く、細いが押せば倒れるような弱い印象は与えない。

 そして、いつもニコニコと微笑んでおり、とても柔和そうだ。


「……本当にマスターが怖いの?」


 改めて見てみるが、まったく怖い要素が見当たらない。

 ユウトが半信半疑で聞き返すと、マホはまたもや頷く。


「だって……あんなにニコニコしているのって、何か考えていても分からないじゃない……。か、カッコいいとは思うけど……」


 前者は不気味そうに、後者は少し恥ずかしそうに言うマホ。

 最近、怒っていたり悲しんでいたりする表情しか見ていなかったユウトは、仲間の珍しい顔を嬉しく思いながらも言う。


「それは、マホの考えすぎじゃないかな?」

「で、でも!あの人がオークに襲われているとき、私見たの!」

「見たって……何を?」

「マスターの手に、物凄い高密度の魔力が集まっていたの!異世界に来て魔法の凄いスキルを持っている私でも、絶対に扱えないような凄い魔力!」


 その言葉には、ユウトも驚かされた。

 彼らはこの世界に召喚された際、特別な能力―――スキルが与えられていた。


 ユウトは剣を扱う能力と、この世界でもほとんどない聖剣。

 ロングマンは高い防御能力と、前衛としての才能。


 マホは強力な魔法を扱う能力と、それを十全に使える知識。

 このスキルのおかげで、彼らは短い期間で魔王軍の幹部を追い払うことができるほどの実力を手に入れたのだった。

 そんなスキル持ちのマホでも、扱えないと認めさせるほどの魔力を、あの優しそうなマスターが使おうとしていたというのだ。


「うーん……もしかしたら、マスターは貴族なのかもしれないね」

「貴族?」

「そう、メアリーが言っていたでしょ?この世界では誰もが魔法を使えるけど、高度な魔法を使うことができるのは血が続いている貴族が多いって」


 魔法使いが何代も続いていくにつれて、初期能力はどんどんと高くなっていく。

 もしかしたら、マスターは歴史の長い貴族の出身なのかもしれない。


「でも、学者って言っていたし……」

「家を継ぐのは、多分長男だよ。他の子供たちは、学者や教師になっているんじゃないかな?」

「……そうなのかな?」


 ユウトの推測も、マホを完全に納得させる力はなかったようだ。

 しかし、ヒステリックに叫んでいた時よりは大分落ち着いたように見える。


「マスターやララディと一緒にいるのも、村に入るまでだよ。それまで、我慢してくれる?」

「……うん」


 ユウトの言葉に、マホは不承不承といった様子で頷く。

 そんな彼女の返答に満足したユウト。


「じゃあ、みんなの元に戻ろうか。ララディが戻ってきたら、すぐに出発しよう」

「わかったわ」


 ユウトと、まだいまいち納得しきれていないマホはマスターやロングマンたちがいる場所へと戻っていく。


「…………」


 彼らを監視するように見ていた、目玉のついた花に気づくことなく。





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