第二百三十九話 召喚魔法
巨大な魔法陣が現れても、援軍のオークたちは一切気にすることなく突撃を敢行する。
理由はさまざまである。
たとえば、突撃以外考えることができないオークもいる。
首領であるオークキングであるケードというまとめ役を失って、とりあえず突撃をする者もいる。
しかし、本能的にあの魔法陣は大した脅威ではないと察知していることが大きいだろう。
マスターが展開した太陽魔法の魔法陣は、背筋が凍りつくような危険度を知らせてくれたのだが、クーリンのそれはまったく脅威に感じなかった。
事実、彼女の展開した魔法陣というのは、強力な魔法を放つためのものではない。
直接、オークたちを殲滅するための魔法でもない。
「――――――来なさい」
クーリンは薄く笑いながら、小さく命令を下す。
このようにうっすらと微笑むのは、彼女もマスターの影響を多大に受けていると言っていいだろう。
クーリンの言葉に従い、魔法陣から出てくる者がいた。
鬼のような形相をして、オークと違って筋骨隆々の肉体を持つ魔物。
城壁にいる騎士たちと同じように甲冑を着ているが、生気を一切感じさせない不気味な騎士。
「お、オーガかっ!!」
「あれは……アンデッドナイトだ!」
目を見張る騎士たち。
存在が確認されると、近くの街に駐屯している騎士団が派遣されるほどの強力な魔物ばかりだ。
王都から精鋭の騎士団が派遣されるドラゴンほどではないが、人類にとって脅威となる魔物である。
しかも、クーリンの魔法陣から出てくるのは一体ではない。
ぞろぞろと、絶え間なくあふれ出てくる。
『オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』
オーガたちの戦意高揚の雄叫びが上がる。
空気を振動させるそれは、オークたちだけでなく騎士や冒険者たちをも委縮させた。
ガシャッ、ガシャッ!
さらに、アンデッドナイトたちも声こそ出せないものの、負けじと武具を打ちあわせて戦意をアピールする。
「ひぃっ!?」
ここで、ようやくオークたちが魔法陣から出てきた魔物の恐ろしさに気づく。
慌てて身をひるがえして逃げ出すが、オーガやアンデッドナイトたちも彼らを追いかける。
そして、かなり接近していたことと、オークの逃げ足が非常に遅いことが重なり、クーリンの召喚した魔物たちにすぐに追いつかれることになった。
「ギャァァァァァァァァァァッ!!」
オークたちの悲鳴が上がる。
アンデッドナイトたちに捕らえられた者は、その錆びた碌に手入れのされていない剣で身体を切りつけられる。
その分、人間の騎士たちのように大切に扱われる剣に斬られることに比べて、無駄な苦痛を味わうことになる。
「ごぺぇっ!?」
「ぎゅあっ!!」
さらに、悲惨なのはオーガに捕まったオークたちである。
オークは人間からしてみれば驚異的な怪力を持ち、ずんぐりと太った身体によって攻撃も非常に効きにくい。
しかし、オーガの怪力はオークのそれを容易く上回っていた。
オーガに掴まれた部位は簡単に骨ごと握りつぶされ、身体を曲がらない方向に折り曲げられる。
「こ、これは……なんという光景だ……」
小国の騎士は目を見張る。
自分たち騎士団をあっけなく壊滅させてしまえるほどの力を持つ大勢のオークたちが、たとえまとめ役であるオークキングを失ったとはいえ、こんなにも圧倒的に蹂躙されるものなのか。
さらに、驚くべきなのはクーリンである。
非常に強力な魔物であるオーガやアンデッドナイトを、一度にこれだけの数を使役するなんて、この世界の魔物使いのいったい何人ができることだろうか?
「あ、あなたは一体……」
「うーん……そうねぇ……」
クーリンは顎に手をやって考える仕草を見せる。
何と答えようか……。
どうせなら、面白い返しをした方がいいだろう。
そんな、マスターが聞いていれば全力で首を横に振るようなことを考え、ニヤリとほくそ笑むクーリン。
「あたしはマスターのギルドのメンバーで……マスターの妻でもあるわ!」
「っ!?」
――――――!?
自信満々に豊満な胸を揺らしてクーリンは言った。
それを聞いたララディとソルグロスはもちろん、騎士たちも驚いてマスターを見た。
マスターも驚いていた。
「そ、そうでしたか。マスターも、奥さんを魔王軍なんぞに捕らえられてさぞ悔しかったでしょう」
「ちげーですよ!マスターの妻はあんな気の強い牛乳馬鹿女じゃあないですよ!ララです!」
「いやぁ、それも違うでござる。まあ、クーリン殿も妻なんぞではないでござるが」
クーリンの都合の良いように解釈した騎士に、ララディが小さな身体を目いっぱい動かして抗議する。
彼女の抗議の内容には、ソルグロスの否定が入るが。
しかし、牛乳と馬鹿にされているのにもかかわらず、クーリンは余裕の表情だ。
普段なら、烈火のごとく怒るくせに。
「ふふん。負け犬がうるさいわね」
「どこが負けたってんですか、この馬鹿!!」
「妄想も大概にするでござる。毒液かけるぞ」
殺気をぶつけ合う『救世の軍勢』メンバー三人。
その濃密な殺気は、実力のある騎士や冒険者たちをもひかせるほどである。
ちょうどトライアングルの真ん中にいるマスターは、死んだ目で天を見上げていた。
ちなみに、こんなことをしている間に、この街に攻め寄ってきていたオークたちは皆殺しにされていたのであった。




