第二百三十二話 久しぶりの再会
まさか、僕たちの名前を呼ぶ者がここにいるとは思わなかったので、少々驚いてしまう。
僕たちは陰に生きる闇ギルド。表の世界の人たちにもばれないように生きてきたから、僕たちを知る人というのは限られる。
この冒険者たちが集まる場所で僕たちを呼ぶとなれば……。
「久しぶりだなっ、マスター!ソルグロス!」
やっぱり、君たちか。久しぶりだね。
僕はこちらに近づいてきた複数人に向かって笑みを浮かべる。
先頭を歩いて僕たちに輝く笑顔を見せてくれる赤い髪の少年。
彼の名前はルシルといい、かつて僕とソルグロスが依頼を受けて行動を共にしたことがある少年だ。
「おや、ルシル殿。ギルドは存続できていたのでござるか」
「おう!あの後、新人も入ってなっ!」
ソルグロスが聞けば、ルシルは嬉しそうに笑って二人の少年少女を差し出してくる。
二人は緊張した様子で、僕とソルグロスに頭を下げた。
へー、それはよかった。僕も気にはしていたからなぁ。
かつて、ルシルたちを率いていた男、アポロとの約束もあったし……。
うん、何よりだ。
それに、ルシルも少し大きくなったね。
「うわっ、止めろよ!俺、もうガキじゃねえんだから!」
僕が頭を撫でてやると、そう言って身体をばたつかせるルシル。
しかし、ちょっと嬉しそうな表情で手を払いのけようとはしなかった。
「……誰だか知らねーですけど、羨ましいです」
ララディがボソリと呟く。
……あとで、頭を撫でてあげよう。
「あ、あの、お医者さん……!」
……お医者さん?
僕が聞きなれない言葉を聞いて振り向くと、そこにはルシルと同じく赤い髪を持つ少女がいた。
おぉっ、ルシカか。元気になったんだね。
「はいっ!」
僕に輝く笑顔を見せてくれる少女、ルシカ。
ルシルやアポロが僕たちにした依頼というのは、呪いに侵された彼女を助けるためのものだった。
紆余曲折はあったものの、ララディの蜜がエリクサーと判明してそれを渡したのだけれど……。
どうやら、完全に復活したようだ。
「……ばれませんように、ばれませんように……」
イルドも久しぶりだね。
「……はい」
ルシルとルシカの後ろでこそこそとしていた青年に笑いかければ、白目になって返事をしてくれた。
……何故白目?
イルド。かつて、敵であった闇ギルド『鉄の女王』に所属していた幻覚魔法の使い手だ。
彼にはルシルたちの手助けをしてくれるようにお願いをしていたのだけれど、どうやらうまくしてくれているようだ。
「……断ったら殺されていたでしょうし」
「当たり前でござる。マスターの慈悲がなければ、劇薬で毒殺でござる」
「ひっ……!」
ソルグロスが左手の形を崩して、ドロリと液体を垂らす。
水滴が落ちると、地面が音を立てて溶けた。
ソルグロス!ばれたらマズイからっ!
それにしても、久しぶりだね。君たちも、遠征に参加するのかい?
「おう!魔王軍とか、別に興味はないんだけどな。人間を敵だって言っているんだったら、いずれ戦うことになるだろうし……」
「お兄ちゃんがこう言っていますし、放っておけないですから」
ニカッと快活な笑みを浮かべながら言うルシルに、ルシカが困ったように笑いながら後に続く。
うーん……この子たちらしい考えだ……。
「おい!何でお前が俺の保護者みたいなことを言っているんだよ!」
「いやー。歳はルシルの方が上だけど、実際ルシカがお姉ちゃんみたいなものだしね」
「イルド、テメエッ!!」
ルシルとイルドが取っ組み合いを始める。
いや、ここ王城だから。一応、それはちゃんと覚えておいてね。
……それに、ルシカがルシルのストッパーを務めているということは、今までの会話を聞いていてすぐに分かったことだし。
でも、君たち本当に大丈夫?
魔王軍は実際、かなりの強さだと思うよ?
僕の近くにいてくれたら、守ってあげられると思うけれど……。
僕は心配になって彼らに対してこんなことを言っていた。
ルシルやイルドはそこそこの戦闘能力があることは知っている。
しかし、相手は単独で様々な国家と対等以上に戦える魔王軍である。
いくら何でも危険なのでは……。
だけれど、僕のそんな心配を払しょくするように彼らは笑った。
「おいおい、マスター!俺たちはもう立派な冒険者だぜ!?」
「お兄ちゃんみたいに調子に乗るのはダメだと思うけど、私たちも成長したんです。この戦いで、それをお医者さんに見せたいと思います」
僕はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けていた。
……そっか。君たちはそんなことを言えるようになったんだね。
僕はしんみりとした気分になっていた。
うんうん、子供が成長するのは早いね。
それに、あまり心配することもないか。
いざというときはソルグロスが助けてくれるさ。
「……えっ?」
えっ?
目を見開いて、なにそれ知らないといった表情を布の下で浮かべるソルグロス。
えぇ……君、何かルシルたちに思い入れとかないの……?
し、しかし、まさかルシルたちと出会うことになるとはねぇ。
もしかしたら、異世界に帰って行ったマホやユウトとも会えるかもしれないよ。
僕はそう言ってララディに笑いかけると……。
「……えっ」
えっ。そ、その嫌そうな顔はなに……?
露骨に愛らしい表情を歪めたララディに、僕は驚いてしまう。
まあ、マホたちが再びこの世界にやって来られるのは、もう少し時間がかかると思うけれど。
世界をわたるような転移魔法は、なかなか魔力も消費するしね。
そんなことを考えていると、何やらニーナ女王たちがいるところが騒がしい。
「り、リッター!?どうしたというのだ!?」
ニーナ女王の慌てた声が聞こえる。
そちらを見ると、彼女の側に控えているはずのリッターが、無表情ながら迫力のある顔つきでこちらに猛然と走り寄ってきたのだ。
な、何事!?
「ちっ!とうとう我慢できなくなりやがったですね!」
「まあ、マスターにべったりのリッター殿にしてはもった方だと思うでござる」
「マスター……っ!!」
ララディとソルグロスは何故か迎撃体勢である。
リッターは目がグルグル回しながらも、その瞳いっぱいに僕を映している。
……怖い。
『やっぱり、マスターの周りって面白いね』
……まあ、退屈はしないかな。
ペンダントから聞こえてくるリミルの声に、僕はそう返して苦笑するのであった。




