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第百九十七話 ドラゴンの出迎え

 










 とりあえず、僕たちは商人たちの護衛を完遂することにした。

 割と近場の街までだったので、これ以上のトラブルに巻き込まれずに達成できた。


 ドラゴンから守ってくれたということで、報酬を少し上乗せしてくれたのは嬉しかった。

 世間一般からすれば、ドラゴンなんて強力な魔物の筆頭格だからね。それに襲われて生きていられることが、信じられないのだろう。


 ……実際は、リースのワンパンで終わってしまったのだけれど。

 商人たちを送り届けた後、僕とリース、それにラスムスは街から随分と離れた所に来ていた。


 魔物たちに襲われるのも面倒なので、軽く殺気をばらまいておく。

 こうすると、オーガなどの強力な魔物はともかく、弱い魔物は近寄って来なくなるのだ。


「よし、じゃあ行くか」


 リースがそう言って行動を促す。

 そうだね。しかし、レオニダ山脈はここから結構な距離があるね。


 まあ、リースなら一瞬で着くだろうし、僕も頑張ればそれに少し遅れて到着することはできるだろうけれど。


「大丈夫だ、マスター。ここに、私たちの脚となってくれる奴がいるぞ」


 リースはそう言って、ラスムスの頭をペシペシと叩く。

 ラスムスはウザったそうにそれを払いのけ、怒りを表す。


「はあ!?俺に飛べって言うのかよ!?嫌だね!俺の背中に、人間なんて乗せられるかよ!」

「じゃあ、ここで死ぬか?」

「と、飛びます……」


 リースの説得(脅し)に、ラスムスは快く了承してくれた。

 ……うん、頷くしかないよね。


 ラスムスは人間形態から赤いドラゴンへと姿を変える。

 おぉ……近くで見ると、やっぱり大きいなぁ。


 彼より大きなドラゴンを僕は知っているけれど、小さくてもドラゴンという迫力があった。


「ほら、さっさと乗れよ」


 すごーく嫌そうな声で催促してくるラスムス。

 うーん……こんなに嫌がられると、申し訳なく思ってしまうね。


 僕は少し後からでもいいから、彼の背に乗らないで行こうか?


「むぅ……それだったら、意味ないじゃないか」


 うん?意味って、何の?


「いや、なんでもない。まあ、これはラスムスに対する仕置きみたいなものだ。私たちを襲っておいて、何の罰もないというのはおかしいだろ?」


 なるほど……。確かに、一度甘い顔を見せてしまえば、何度でも同じことを繰り返してしまうのが子供というものだ。

 ラスムスが人間を殺そうが僕にとってはどうでもいいんだけれど、『救世の軍勢(イェルクチラ)』のメンバーに危害が加わらないとも限らない。


 実際、リッターのように悪魔憑きとはいえ人間がいるし……。

 厳密に言えば、リッターも純粋な人間とは言えないのだけれども、ラスムスはリースを人間だと勘違いするくらいだし。


 じゃあ、遠慮なく乗せてもらおうかな。


「そうだな。汚い所だけど、我慢してくれ、マスター」

「何でお前がそんなこと言うんだよ!っていうか、汚くねえし!!」


 ギャアギャア言いながらも、僕とリースは彼の背中に飛び乗った。

 それから、空の愉快な旅が始まるのであった。












 ◆



 ビュービューと耳の側で風を切って飛ぶ音が凄い。

 今、僕とリースを乗せたラスムスは、かなりのスピードで空中を飛んでいた。


 子供とはいえ、流石はドラゴン。かなりの速度である。

 これだけ速かったら、普通の人なら背中から飛ばされて地面に落ちているところだよ。


 ……これ、確実にラスムスの嫌がらせだよね。


「あー、快適だなー。やっぱり、他人に任せて移動するのは楽だな」


 しかし、僕とリースは落ちるどころか、その暴風を身体に浴びることもなかった。

 というのも、僕の簡単な魔法で風よけしているからである。


 おかげで、僕たちはのんびりと空の旅を楽しむことができていた。


「く、くそぉ……!!」


 リースと僕の様子を知って、嫌がせをしていたラスムスが悔しそうに唸る。

 少しでも苦しませようとしているのに、その相手がのんびりとしていたら腹が立つよね。


「じゃあ、これならどうだぁっ!?」


 おぉっ!?

 ラスムスは速さを追求するのではなく、ジグザグに飛行することにしたようだ。


 急上昇をしたと思えば、急降下。乱高下を繰り返す。

 普通の人なら、間違いなく彼の背中から放り出されていただろう。


 まあ、バランス良くなって振り落とされないような魔法を即興で創って、今僕とリースにかけたから大丈夫だけれど……。


「即興で魔法を創るって……賢者でもできないだろ、それ。……おい」

「ひっ」


 僕を苦笑しながら見たリースは、声音を百八十度変換させる。

 ついでに、背中をドスンと音が出る程度に殴る。


 一瞬、高度を急激に下げるラスムスであったが、何とか再び高度を取り戻す。


「あんまり調子に乗るなよ。マスターの恩情がなかったら、あの時殺していたんだからな」

「わ、わかりまひた……」


 もう、歯の根がかみ合っていない。

 リースの鉄拳教育が随分と効いてきたようだ。


 まあ、いつまでも反抗されても困るしね。

 ドラゴンの集落に着いたらもう関わることもないだろうから、それまで我慢してほしい。


「お、もう少しで着くな」


 リースが下を見ながらそう呟いた。

 僕も見てみるが、いまいち距離が分からない。


 一度、僕はドラゴンの集落に行ったことがあるのだけれど、それはもうずいぶんと昔の話である。

 リースは何度か里帰りをしているようだけれど、僕はギルドで引きこもり生活をさせられていたから、それについていくことはなかったんだよね。


 そんなことを考えていると……。


『グォォォォォォォォォォォォォォッ!!』


 大気を震わせる巨大な咆哮が響き渡ったのだった。

 それは、おそらくドラゴンの咆哮だろう。


 しかし、先ほど聞いたラスムスの咆哮と比べると、大きさも威圧感も段違いなほどあった。


「なんだ?出迎えか?」


 リースはそんな咆哮を聞いても、いつも通りの感じだ。

 ドラゴンの咆哮となれば、様々な生き物を震え上がらせるほどの力を持っているのだけれど……。


 彼女からすれば、まったく大したことがないのだろうか?


「そんなわけないだろ!あれは、俺の父ちゃんの咆哮だ!お前ら、ここに来たことを後悔しても、もう遅いんだからなっ!!」


 ラスムスはそう言って勝ち誇ったように笑う。

 ほほう……彼は父親に篤い信頼を置いているようだ。


 嫌々飛んでいたラスムスは、逆に嬉々として飛び始めた。

 相手のドラゴンもこちらに近づいてきているようで、どんどんと距離が縮まっていく。


 猛スピードで接近してきたドラゴンは、僕たちの前で急停止した。

 ラスムスの父親らしく赤いドラゴンだけれど、その大きさは遥かに大きかった。


「父ちゃん!!」

「ラスムスか」


 嬉々として叫ぶラスムスに、彼の父親は酷く冷静だった。

 おそらく、彼は集落に侵入しようとする外敵を退ける見張り役なのだろう。


 ラスムスの背中に乗る僕とリースをジロリと見て、失望したような目でラスムスを見た。


「どこかに飛び出したと思えば、いきなり帰ってきおって……。しかも、余計なお荷物まで持ってきたようだな」

「ち、違うんだ、父ちゃん!こいつらが、無理やり俺にやらせて……っ!!」


 慌てて言い訳をするラスムス。

 うん、確かにその通りなんだけれど、先に仕掛けてきたのが君だということも説明してくれないかな?


 まるで、僕とリースが極悪人みたいじゃないか。


「愚か者め。ドラゴンともあろうものが、人間風情に力で支配されおって……。ドラゴンの恥だ」

「うぅ……」


 冷たい目で見据えられ、ラスムスはびくりと身体を震わせる。

 うわっ、父親なのに、案外酷い言葉を吐くんだね。


 僕は血の関係はないけれども、娘のように思っている『救世の軍勢(イェルクチラ)』の皆にはそんなことは言えないなぁ。

 ふんっと鼻息荒くラスムスを睨みつけたドラゴンは、今度は僕たちを見る。


「人間。ここから先は、貴様らが入ることの許されない神聖なる場所だ。今回は息子の不手際だと思って見逃してやるから、さっさと立ち去るがいい」


 ……あれ?このドラゴンも、リースが人間ではないということに気づいていないのか?


「……はぁ。しばらく離れていたうちに、どうやら随分とドラゴンの質も落ちたらしいな」

「……なんだと?」


 ……また、一悶着ありそうだなぁ。




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