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短編

がんばれにゅうさんきんちゃん

 わたし、ビフィドバクテリウム。


 皆にはビフィズスって言われています。


 私達は人間様の腸やどこかしこでがんばって生きています。


 そんなわたしの最近の悩み事。


 実は……ううん。考えている暇はなさそうです。


 今日も悩み事の種が来ました。


「きたぞっ!またあいつらだっ」


「くそっ。なんなんだよ、こいつらっ!」


 お仲間さん達が慌てています。わたしも慌てています。


 病原微生物があらわれました。


「ラクトバシラス!まて、お前だけじゃっ」


「止めるな、エンテロコッカス……俺はあいつの仇を討つんだっ」


「まてっ!……あぁっ!」


 ラクトバシラスさんがやられてしまいました。遠いところから遠征で来てくれていたラクトバシラスさんが……病原微生物にやられてしまいました。


 歴戦の勇者だったといいます。


 だからって無謀だったとおもいます。それもこれも前の戦いで最愛のラクトコッカスさんを亡くしたのが原因なのだと思います。


 ラクトバシラスさんの戦死に、皆が悲しんでいました。でも、悲しんでいる暇はありません。わたし達は多くの犠牲を出しました。それでも、病原微生物はまだ倒せていません。まだまだいっぱいきます。


 毎日の様にきます。


 苦しい戦いです。


 でも、負けられない戦いでもあります。


 ラクトバシラスさんの御蔭で小康状態を保てています。


 それに報いるためにもわたし達はがんばらないといけません。


 ビフィドバクテリウム、ラクトバチルス、エンテロコッカスの3名が先頭に立ちました。


「我々が最後の砦。奴にこれ以上侵攻させられるわけにはいかない」


「そうだ。俺達が、俺達こそが乳酸菌だ!」


 みんなが雄叫びに似た声をあげます。


 そして再びわたし達は病原微生物との戦いに向かいます。


 無限とも思える病原微生物達の数。今まで見た事のない気味の悪い形をしています。そうです。見た事のない病原微生物です。一体全体、人間様に何があったというのでしょう。


 わたしには分かりませんでした。


 他の誰にも分かりませんでした。


 わたし達は兵隊ですから、そんな難しいことはわかりません。


 そのわたしたちのなかでも最年長であるペディオコッカス様が言いました。


「異世界転生だっ!」


「いせかいてんせい?」


「そうだ。異世界転生に違いない!人間様が異世界の食事を食べてしまったのだ!だから、だからこんな見た事もない奴らが次々と現れているだっ」


「なんだって!」


「そんな……」


「ちくしょう!」


 未知の敵を前にわたし達は絶望しました。今までのセオリーが通用しない敵もでてくるに違いありません。


 でも、わたしたちががんばらないと人間様がっ、人間様がっ


「きたぞーっ!」


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 濁流のような病原微生物達が襲って来ました。


 逃げちゃ駄目だ。


 逃げたら、人間様がっ!




 がんばれ、わたし!


 がんばれ、にゅうさんきん!




 明日の人間様の体調はわたし達次第なのだからっ!








―――






 翌朝。


 晴れやかな顔をした人間の姿があった。


「昨日のアレ、美味しかったよね。また食べよっと」


 にこやかに笑いながら、そう言った。





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― 新着の感想 ―
[一言] 皮膚菌や口内菌も血で血を洗う泥沼の戦いをしてるんだろうなあ
[一言] なかなかシュールでとても面白かったです。 予想外のオチで笑ってしまいました
[良い点] ハッピーエンドっぽいところ。 [気になる点] 異世界転生が悪いです。 [一言] オチに、……が、がんばれ!としか言えませんでした。 人間めっ。
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