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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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口だけではない

 半月ほどの旅は順調に進み、途中に現れたのはせいぜい肉食の獣程度。

 魔物と呼ばれるレベルの生き物とは遭遇していない。

 支援魔法の必要もなく、最初にグレイたちと話をしていた男性の斧の一振りで仕留められるような生き物ばかりであった。

 もう数日で〈要塞軍〉の駐屯地に着く。

 相当大きな街と化しているそうで、ロブスがペラペラと街の構造などについて語っていた。拾ってくれた〈要塞軍〉にはそれなりに恩義を感じているらしい。


 ロブスとグレイは、当たり前のように夜の見張りも交代で請け負う。

 パチパチとなるたき火で背中をあぶりながら、二人はぼんやりと暗い森の中を見つめていた。

 家族のうち、今日の見張り担当は比較的無口な青年だ。

 沈黙が続く中、おもむろにロブスが口を開く。


「君のお父さん腕がいいっすよね。俺考えたんすけど、家族丸ごと〈要塞軍〉の一部隊ってことで雇われたりしないっすか? 基本命令とかしないんで、好きに魔物退治してくれるだけでいいんすけど」

「…………俺に言われてもな。父さんに言ってくれ」

「もう君のお父さんにもお兄さんにもお姉さんにも断られた後なんすよね。ちなみにお婆さんはいつも先に寝ちゃうんでまだ話してないんすけど」

「じゃあ余計無理だろ」


 結婚していない方の息子の年齢は、見た目からして二十代半ば程度。

 寡黙だが返事をしない程ではないらしい。

 ロブスのずけずけとした物言いに対しても、腹を立てずに普通に話をしてくれる。


 兄や姉、それに親が賑やかな人なので、単純に口を開く機会が少ないだけなのかもしれない。


「みんな考えてもくれないんすけど、なんでなんすかねぇ」

「………………さぁな」


 長い沈黙だった。

 互いの姿は見ていないので、もしかしたら寝てしまったのではないかと思えるほどの長さであった。

 それから返事をしたせいで、聞いていたグレイやロブスは余計に違和感を覚える。


「何か理由でもあるんすか?」

「うるさい」

「返事、遅かったっすよね」

「だから何だ」

「なんか理由あるんすよね?」

「…………しつこい。理由はあるが言わない」


 嘘が下手らしい。

 降参した上で、言わないとはっきり宣言した。

 

「えー?」

「ロブスよ、その辺りにしておけ」


 どんな事情があるかはわからないが、寡黙な男が語りたがらないことは、大抵意味のあることだ。気にはなるが聞いたところで答えは返ってこず、関係が悪化するだけだ。

 しつこく聞き出そうとしていたロブスをグレイが止める。

 グレイは嘘の下手な男が割と嫌いでない。

 わざわざ関係を悪化させたいとは思わなかった。


「悪いな」

「何、言いたくないことだってあるじゃろ」


 グレイは体を伸ばしながら立ち上がった。

 首を左右に倒して森の奥をじっと見つめながら、ぼそぼそッと口の中で何かを呟く。


「俺、問題があるなら解決して、気持ちよく〈要塞軍〉に来てもらおうと思っただけなんすけど……」

「解決するような問題じゃ……」


 次にロブスが言葉を止めて武器を手に握り、続けて若者も跳ねるようにして立ち上がった。

 この辺りはもう旧アルムガルド領だ。

 横一列に壁を作っているわけではないから、時折はぐれの魔物が、〈要塞軍〉の駐屯地を抜けてうろついていることだってある。

 この辺りの森の道なんかは、潜んで人を襲うにはぴったりの場所だろう。


 ずるりずるりと何かを引きずるような音をさせて現れたのは、手足が異様に長い三メートルほどの高さを持った巨人だった。片手にはこん棒を引きずり、体中に不規則なこぶが盛り上がったその生き物は、グレイたちを視界に収めると、口を開けたままにんまりと笑う。

 臼のような形をした乱杭歯の隙間からはよだれが垂れていて、嫌悪感や恐怖を誘う見た目をしていた。


「トロル……!」


 青年が剣を抜く。

 しかしその時には既に、ロブスが何の躊躇もなく走りだしていた。


「力加減に気を付けるんじゃぞ」


 グレイがロブスに一言。

 すでに全身にバフをかけ終わっている。


「こりゃいいっすね」


 ロブスを叩き潰そうと上から降ってくるこん棒に対して、ロブスはトンファーの短い方を腕と拳を突き出すようにしてぶつけてみせた。

 何かの木からできたであろうこん棒が、木くずを飛ばしながら破損。

 ロブスはトンファーをくるりと回して頭上に舞う破片を弾き飛ばして地面を蹴った。そうして振り下ろされてかがんでいる、頭頂部に遠慮なしの一撃を叩き込んだ。

 

 鈍い音がしてトロルの体がぐらりと揺らいだ時には、ロブスはその肩を蹴ってその場から離れている。出現から討伐まで、ほんの数秒の出来事だった。


「……強い」


 青年が呟けば、ロブスは胸を張る。


「そりゃまあ、慣れてるっすからね。今日は先生の支援もあったっすけど」

「なくても自分で何とかしたじゃろ。人に支援魔法をかけるのは久しぶりじゃな」

「得意なんすか?」

「一昔前はよくやっておった」

「冒険者でもしてたんすか?」

「そうじゃな」

「でも先生は誰かを支援するより、一人で戦った方が強くないすか?」

「うむ」

「意味わかんないっすね、なんで支援してたんすか?」


 遠慮のない男だ。

 当時は色々と事情があったのだが、説明をするのがめんどくさいのでグレイは適当に誤魔化した。

 素直に言えば、先ほどの若者のように余計な問答を繰り返す羽目になる。


「支援魔法の練習じゃな」

「あ、なるほど」


 それにしてもロブスの動きは俊敏だった。

 対人よりも、対魔物の方が動きは良いようである。

 この戦闘でグレイは、ロブスの戦闘評価をもう一段階引き上げるのであった。

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