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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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〈要塞軍〉の実情

 街の出入り口には、準備万端な商人たちが待ち構えていた。

 スキップが商会の未来をかけて用意した馬たちと、パクスが準備した馬車がずらりと並んでいる。

 加工屋の二人もこぎれいな服を身にまとい、大荷物を持って待っていた。

 二人が来たところで全員揃ったらしく、クルムは促されるがままに馬車に乗り込んでいく。

 同乗者はパクスとその息子、それに加工屋の二人。

 この辺りはほぼグレイの知り合いであり、クルムが話の主導権を握るのは難しい。

 当然グレイが乗ってくると思って笑顔を作りながら待っていたクルムだが、待てど暮らせどグレイは姿を現さない。いよいよがたりと馬車が動き出したところで、クルムは「ちょっと失礼します」と断って、窓を開けてグレイの姿を探した。

 

 するとグレイは馬車のすぐ近くで、先日再会したという〈要塞軍〉のロブスとしゃべりながら普通に歩いて移動をしている。


「……先生、乗らないのですか?」

「乗らん。歩いたほうが気楽じゃ」

「そうですか……」


 言い出したらてこでも動かないのがグレイと言う老人だ。

 クルムはすぐに諦めて、窓を閉じると席に座り直した。

 よく考えてみれば、今までだって話し合いの場でグレイが役に立ったことはほとんどない。

 どうせ自分やパクスが主体で話をするのだから、いてもいなくても同じだった。

 グレイが必要になる時は、大抵暴力を背景に何かをしなければならない時である。

 

 交渉の席はクルムの仕事だ。

 何でもかんでも頼ってはならない。

 クルムは気持ちをきりっと引き締めて、馬車での会話に専念することにしたのであった。



 一方で外をのんびりと歩いているのはグレイだ。

 王国内の主要な街は、馬車が余裕をもってすれ違えるほどの広い道が整備されている。長い歴史があるだけあって、その辺りの流通の重要さはよく理解しているらしく、グレイに言わせれば『糞みたいな王族』も、道の整備には力を入れている。

 

 お陰様で歩きやすく、往来も多いから賊や魔物が出くわす確率は低い。

 もちろん、時折魔物が空を飛んでやってくることもあるし、身分のある者や、金持ちの商人を狙って襲うような賊はいるのだけれど。


「最近の魔物事情はどうなんじゃ、実際」

「どうもこうもないっす。ちょっと前線を押し返したかと思ったら、別の前線に糞つよ魔物が出現して、そっちに顔出してる間に、今度はあっち、てな具合っす。前線を任せられるくらい育ったかと思ったら、大けがしたり殉職したりするし、一進一退っすね。最近ようやく落ち着いてきたから、俺も現場離れてめちゃくちゃ久しぶりに王都に来たんすよ」


 グレイが暮らしていた頃はそこまで魔物たちの活動は活発ではなかった。

 アルムガルド家がある間は、正に谷と山の間に陣取って、毎日のように魔物を狩っていたので、そこまで魔物が増えなかったのだろう。

 言われてみれば、冒険者になってから故郷を訪ねる度、魔物の平均値が上がっていたような記憶がある。


 すぐに要塞軍を発足させていたならばともかく、問題が起きてから発足したせいで、その間に増えた魔物が未だに暴れているといったところなのだろう。


「どれくらい向こうにいたんじゃ?」

「そうすね……十年近く帰ってきてなかったす。ちゃんと仕送りしてるのに、母さんのとこに顔出したら、新しい旦那作ってて、『あんた生きてたの?』って言われたっすからね」

「ほっほっ」

「笑い事じゃないんすよ、本当にー」


 母親に冷たくあしらわれるロブスの姿を想像し、グレイは手を叩いて笑った。

 人の不幸で大笑いする悪い老人である。

 まぁ、十年も帰ってきてなかったのならば、騎士になって以来グレイと一度も会っていないのも納得だ。


「スペルティア様を連れて帰れれば、戦線復帰できるやつも増えると思ったんすけどねぇ」

「確かにそうじゃな。あれはあんな性格はしてるが腕はいい」

「ま、次善の策として先生を呼べたっすから。グレイ先生の訓練によって〈要塞軍〉を強化して、そもそも負傷者を減らす。上手くいけばこっちの方がいいかもしれないっすね」

「ま、やるだけやってみるかのう」


 正直言ってロブスは、グレイが自領で過ごしていた頃に見た領民たちよりは余程腕が立つ。他の〈要塞軍〉の面々だって、それほどひどい腕と言うわけではないはずだ。

 

 ではなぜ一進一退となってしまうのか。

 それは、魔物退治のためのノウハウがないせいである。

 アルムガルド家とその領民には、数百年の間で蓄積されたノウハウがあったが、それらは文献として残されているわけではない。子供のころから魔物に携わることによって、口伝で伝えられてきたものだ。


 それを戦いながら一から組み立て直さなければいけなくなったのだから、一進一退と言うのも無理はなかった。むしろ〈要塞軍〉はよくやっている方と言っていいだろう。

 もちろん、王都に住むような貴族にはきっと理解できない。

 アルムガルド家が当たり前にやっていたことを、莫大な予算を割いても完遂できないのだから、王都で〈要塞軍〉の評価が低いのも仕方がないことなのかもしれなかった。


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― 新着の感想 ―
偉い人には分からんのですよ、ってか。 酷いねえ…
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