場違いな奴ら
ぞろぞろと連れていかれた先にあったのは、時折商人たちが会合に使うためのホールであった。それも、店主レベルではなく、中規模以上の商会を営む商人たちが使うような場所だ。
話に聞いたことのあった店主たちは、少しばかりの興奮と、本当に入って良いのかという葛藤に悩まされて一歩踏み出せずにいた。
「さぁ、中へどうぞ」
そういわれても入り口で渋ってしまう店主たち。
中には既にある程度の規模の商会長やその代理もいて、やや冷ややかな目で店主たちを見ていた。彼らはファンファの勢力のものである。
嫌みを言ったりしないようによく言い聞かされてはいるが、それでも後から来るものは、ファンファではなく、クルムの招待客だと知っているからか、あまり仲良くしようというつもりはない。
「何をしておるんじゃ?」
「いや、あの、さ、先へどうぞ」
「ふむ、ではまぁ、先へ行くとするか」
道を譲られて堂々と先へ進み、結局一番にホールへ足を踏み入れたのはグレイだった。
店主たちが一張羅を着て集まる中、いつもと同じ格好をしているグレイは特に目立つ。薄汚れたように見えるローブに、フードまで被って白い鬚を長く生やした老人だ。
みすぼらしく思われても仕方のない格好だが、その上背とガタイのよさのせいで迂闊に嘲笑できない凄味がある。
その右にはこれまたいつも通り〈要塞軍〉の軍服を着た男ロブス。
「へぇ、なんか金持ってそうに見える人いっぱいいるっすね」
開口一番無礼者だが、声は先客たちには届いていないようだ。
持ってそうに見える、じゃなくて、持っているのだ。大概は。
そして左には黒尽くめの縁起の悪そうな男パクス。
こちらは商会の人間たちからはよく知られているので、一斉に場がざわつく。
「皆さん、後ろも詰まってますから、前へ前へお進みください」
皆がそれぞれ勝手な噂をしているうちに、ここぞとばかりに、気の利く冒険者が店主たちを会場へと追いやった。店主たちも今がチャンスとある者は壁際からささっと、ある者はグレイの後ろに隠れて、またあるご婦人はイケメン冒険者に「ちょっと怖いわ」などと粉をかけながら会場へ入ることに成功したのだった。
立食パーティ形式らしいその場には、まだクルムもファンファも、その側近全員が姿を見せていない。この大事な日にプラプラと外を歩き回り、ぎりぎりまで街で茶をしばくのはグレイくらいなものだ。
正面から背筋をピンと伸ばして現れたのは、色白の方の筋肉冒険者ニクスであった。手を三度ほど叩いて注目を集め、来場の客人たちへ感謝などの言葉を述べてから、今日の目的について触れる。
「本日は、クルム王女殿下の生誕十三周年祝いの日となります。皆さま気の済むまで飲み、食べ、ご歓談くださいませ。後ほどクルム王女殿下とファンファ王女殿下が挨拶にまわりますので、その際にはお手を止めてお祝いの言葉をくださいませ」
その後もごちゃごちゃと何かを話していたが、グレイにはあまり興味のないことだ。あの色白冒険者は、戦いだけでなく、何でも器用にこなすのだなと感心したくらいである。
忠誠心と言えるかどうかは微妙だが、きちんとファンファのことは慕っているようだし、グレイのこともきちんと敬ってくる。二人ともファンファの言う通り、なかなかの良い男であった。
あの時顔を潰さなかったのは英断であったと、自画自賛。
その間に腹が減っていたらしいロブスは、テーブルに乗っている料理を小皿にとって食べ始めていたが、気付いた二人は当然注意をしなかった。普通は話が済むまでは待つものであるが、ニクスが食べてもいいと取れるようなことを途中で言ったのが悪い。
さて、挨拶が終わると、皆がばらばらと飲み食いおしゃべりをはじめ、会場は一気に騒がしくなる。
店主とその奥様方は、普段味わえないような高級な食事に舌鼓を打ち、ファンファ勢力の商会の者たちは、王女二人を待ちつつ、後ろの方で平然とグレイと喋っているパクスと縁を持つ機会を探っていた。
当のパクスがグレイとばかり話していて、ちらりとも彼らの方を見ないので、上手く機会を得られずにいたが、もちろんこれは意図的なことである。
ファンファ勢力の者ということはすなわち、ファンファの後援をしている大商会の息がかかったものたちだ。パクスを前にすれば腹を見せて降参するかもしれないが、飼い主の下へ戻れば何を言うかわからない。
パクスはそんな奴らを端からまともに相手する気はなかった。
僅かに時間が空いて、ニクスが引っ込んだところから、クルムとファンファが腕を組んで現れた。
ファンファの好むひらひらとしたドレスを纏った二人は、年若いながらも男性の目をくぎ付けにする魅力があった。今日は頬に紅をさしているのか、少しばかり大人っぽくも見える。
「へぇ、二人とも美人っすね」
「そうじゃな」
会場がどよめく中、めちゃくちゃ普通の感想を述べて肉を咀嚼し続けるのはロブス。
その顔の美しさを商売道具的に計算していたのはパクスである。
どちらも情緒というものがあまりない。
教え子の晴れ姿をしばし手を止めて眺めるグレイ。
やがてクルムがグレイの姿に気づき、そしてすぐにその隣にパクスを見つけて表情を一瞬引きつらせたのを確認。
グレイは「ぶふっ」と小さく噴き出して笑い、ようやく置かれた飲み物に手を伸ばすのであった。




