変な奴ら
「あ、いいっすね。なんかうちの大将、色々思うところがあって、既存の勢力には魔物の素材卸したくなかったそうなんすよ。貴族勢力とつながりがあるところが嫌とかで。パクス商会が新しくてそういうのとつながりがないって話なら、帰ったら話してみるっす」
「それは助かります。〈要塞軍〉の街に店を出してもいいですね。うちは何かと便利なものを扱っていますし、魔物の素材があればもっといろんなものも作れるかもしれません」
「いやぁ、話が分かる人でよかったすよ。なんか俺、よくはじめましての人に怒られるんすよね」
それは本人が無礼なせいだが、もはや言うだけ無駄だとわかっているからグレイは言わないし、一応グレイの教え子かつ、大事な商売関係者だということで、パクスも注意しない。
こんな態度でも〈要塞軍〉では大事にされているようだし、それでいいのだろう。
「そろそろ行こうかのう」
グレイが立ち上がって支払いをしようとすると、店員が頭を下げる。
「お支払いでしたら先ほどそちらの方に。どうぞいつでもお立ち寄りください」
「ほう……」
グレイは少しだけ考えてから、パクスが十分に金を儲けていることを考慮して、黙って奢られることにした。
街中を並んで歩くと三人はとにかく目立つ。
目立つが誰も近づいては来ない。
傍から見ても相当変な奴らとなるのだが、本人たちはあまり気にしない。
そのまま元々の会場へと向かうと、少しばかり時間が早いのか、小さな店を営む店主たちが顔見知り同士で集まって喋っていた。
街にあるちょっとした集会所のような場所であるから、店主たちもいつもの寄り合いくらいの気持ちで遊びに来ているのだろう。
彼らからすればクルムという存在は、王女ではあっても遠い存在ではない。
身分が高いにもかかわらず、いつも顔を出して買い物をしてくれる可愛らしい少女なのだ。
そもそも王侯貴族同士の争いなど、結果以外は知ったことではないから、クルムが誕生日のお祝いをするので来てくださいと言えば、奥さんの顔色をうかがいながら顔を出すのである。
もちろん、夫婦そろってやってきている者もいて、一部では奥様方による井戸端会議も始まっているけれど。
そんな和やかな空間に突然現れたのは、長いひげを生やした巨大な老人と、全身黒尽くめで目しか見えない男。追加でどう見ても軍人然とした筋肉の塊のような男。
一瞬でしんとなる。
特に黒尽くめのパクスについては一部の店主もその姿を知っている。
どうしてこんな大物が来たのかと固まってしまった。
「小規模店主ばかりですね」
「分かっておったじゃろう」
「しかしまぁ、いずれは手を組むかもしれぬ面々です。顔くらいは覚えておきましょう」
「ま、これくらいの方が気楽に飲み食いできそうっすよね」
「お主が気楽に飲み食いできない場などなさそうじゃが」
「それはそうすけど、やっぱごちゃごちゃ言われると飯はまずくなるっす」
「原因は自分で作ってそうですけどね」
「なんか皆怒るんすよね」
なんかではない。
明確に理由があるのだが、本人は半分くらい無自覚なのだろう。
端に寄ってしばらく待っていると、何やらしっかりと着飾った男たちが現れて手を大きく振りながら注目を集める。
「本日の会場が変更になっております。ご案内いたしますので、皆さま私たちについて来てください」
イケメンが声を上げれば奥様方が小さな声でキャッキャと喜んで寄っていく。
流石はファンファが集めたイケメン軍団である。
女性には特効を持っている。
一方男性陣はかわいいクルムを拝みに来たはずなのに、男が現れて怪しんでいる。
ざわざわと何だあいつと騒いでるが、大体奥さんの力が強いようで、ぶつぶつ言いながらも付いていっている。
「さて、では私は帰りますので」
「うむ、そうか」
「あれ、一緒に行かないんすか?」
帰ろうとするパクスをロブスが引き留める。
確かにここまでいて帰るのは不自然だが、パクスが残って参加してしまうと、警戒してくる勢力が増える可能性がある。
ロブスだって同様だが、グレイはそれを止めるつもりはなかった。
どんな状況になろうと、それを利用して上手くやれなきゃ、王になることなど土台無理だ。
駄目になったらなった時点で、自分が隣国に隠居するついでに回収してやるつもりである。
パクスも、ロブスがいる時点でどうするべきか少しばかり悩んでいた。
もしファンファの勢力をきちんと取り込んだ上、今まで誰も手を出せなかった〈要塞軍〉まで味方に引き入れられるというのならば、今のうちに動いておくのも悪くない。
パクスはグレイと違って、冷静にものを考えている。
すなわち、実際そんな状況になって、クルムが上手く舵取りできるかを不安視しているのだ。
しかし商売を大きくするというのは、元々博打のような部分もある。
もしパクスが今後〈要塞軍〉との伝手を存分に活用したいのであれば、ここは一緒に顔を出して、はじめから仲間であったとする方が都合がいい。
というか、基本的には困るのはクルムばかりなのだ。
その教育係であるグレイがロブスを止めないのであれば、パクスが参加したって問題はないはずだ。
「……折角だからご一緒しましょうかね」
クルムの聞いていない場所で、参加者が二人勝手に増えた瞬間であった。




