誓いの日
誕生日の当日。
昼過ぎには王位継承争いへの参加申請のために、朝一番から王宮外にある施設へと向かう。
いつもならばウェスカだけで向かうところを、今日はクルムとグレイ、ついでにビアットも共に行く。こういう日は全員で一緒に行動しているのが一番良い。
申請先は王宮からほど近い場所にある教会だ。
国教として遇されているそれは、太陽の神を主神と仰ぐ、いわゆる自然信仰を元にしたオーソドックスな宗教である。
聖人がどうのこうのとか、何の神様がとかごちゃごちゃと色々あるのだが、基本的にグレイはノータッチだ。『神なんか糞』が信条であるから、遥か昔から宗教関係者とはそこはかとなく仲が悪い。
今はこんなでも、昔は割と学業にも力を入れていたため、基本的な知識は持っているが、それ以上は話を聞くと腹が立つので意図的に見ないようにしていた。
もし神がいるのだとすれば、アルムガルド家とその領民が、毎日魔物をぶち殺すような毎日を送ることはなかったはずだ。そうなればグレイだってもうちょっと穏やかな毎日を過ごしていたかもしれない。
仮の話だから実際どうであったかは知る由もないが。
とにかくグレイが教会と縁がないということは確かである。
なんとなく向こうもまた、昔からグレイを避けている雰囲気があったので、余計にいけ好かなかった。
避けられる理由は十分あるはずなのにわがままなことである。
教会にたどり着いた一行は、そこで働く修道女に案内されて奥へ通される。
教会関係者の王子もいるはずなのだが、ここは公平に扱ってくれるようだ。
あるいは、その王子がわざわざ妨害するまでもないと思っているのか。
王都の大聖堂には教皇がいるので、そちらに誓う形で王位継承争いへの参加をすることになる。一応は外部組織が取り仕切るような形になっており、参加者の間で正々堂々としたやり取りを約束させられる。
形式だけで罰が発動されたこともない、誰も守らぬ形骸化した約束でしかないが。
ステンドグラスから差し込む光の中、クルムが片手に誓書を持ち司教を前に宣言をする。司教と居合わせた数人の教会関係者以外で見守るのは、グレイたち三人だけだ。
王位継承争いへの参加の宣言は、元から勢力を持っている王子王女であれば、それは盛大に行われるものである。大勢に見守られ、未来に希望、あるいは野望を持ち、華々しいスタートを切るのだろう。
クルムは宣言をしながら思い出す。
上の兄の宣言を家族とハップス王子、それに母の関係者たちで温かく見守った春の日のことを。
そして下の兄の宣言を、自分と、僅かにその時までは縁があった母方の縁者だけで見守った寒々しい冬の日のことを。
間もなく夏になろうという今日。
降り注ぐ陽の光は温かく、クルムの背中は頼りになる者たちが見守ってくれている。
上の兄の宣言は、静かで穏やかなものだった。
下の兄の宣言は、怒りのこもった早口のものだった。
クルムは、定型文を、感情をこめず、淡々と読み上げる。
「私、ハルシ王が第十一子クルム=ハルシは、偉大なる神の御前にて王位継承争いへの参加を宣言します。私、クルム=ハルシは、この争いにおいて常に正々堂々と結果を残し、他の候補者への妨害行為などを一切行いません。仮に他の候補者に屈することあらば、私は二心を持たずその者に忠誠を誓い、国の発展のために尽力することを誓います」
この宣言はあくまで通過儀礼でしかない。
内容も、誓いも、何一つ意味がないことを、クルムは身をもって知っていた。
「確かに、偉大なる神の御前にて、ハルシ王が第十一子クルム=ハルシの宣言を聞き入れた。今日、この時より、クルム=ハルシは、ハルシ王国の次期王位継承を求むる者の一人として認められた。これは何物にも覆されぬ誓いである」
決まりを守らせる力がないのならば、管理しているような顔などしなければいいのだ。偉そうに宣言をする司教の顔を、クルムは真面目な顔をしながらも、内心では冷ややかに見つめていた。
本来は教皇が宣言を見守るところを、前々から通達していたのにもかかわらず、本日は外せぬ用事で不在、なのだそうだ。
だからと言って日程をずらすわけにもいかず、代わりに司教の一人がクルムの宣言を聞いて承認することになったらしい。
クルム陣営がどれだけ舐められているかが分かる。
下の兄の時にはまだ教皇が出てきていたが、ついにそれもやめたのだ。
これはすなわち、『クルムが女王になることなど絶対にないから、適当に扱ってしまえ』という教会からの宣戦布告に他ならなかった。
クルムははっきりとそれを認識し、もちろんその喧嘩を高値で買うつもりでいた。
もしクルムが女王になった時には教会は覚悟すべきだろう。
意訳するのならば、神なんぞ糞くらえ、である。
師弟揃って物騒な思想をしている。
それでも降り注ぐ色とりどりの光は、宣言をするクルムの姿を神秘的に見せる。
ウェスカは立派な姿に涙ぐみ、ビアットは絵になりそうな美しい光景に息を漏らし、グレイは全身の筋肉に順番に力を込めて、その場で静止したまま筋力トレーニングをするのだった。




