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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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暗い王宮

 クルムは息のつまる様な王宮で生まれながらも幸せだった。

 かつてのクルムには温かい家族がいたからだ。


 街一番の劇場から見染められて後宮へ入った美しい母。

 その容姿を引き継いだ静かで賢い上の兄。

 それに父王に似て意思が強く行動力のある下の兄。


 しかし今王宮にクルムの身内は一人もいない。

 年の離れた上の兄は年の近い他の王子と狩りに出て、それきり帰らぬ人となった。

 クルムがまだ六歳の頃だった。

 今のクルムならば理解できる。

 上の兄は自分の死を覚悟して狩りに出かけて行ったのだと。

 ついていきたいというクルムを困った顔で宥め、何度ねだってもくれなかった髪留めをクルムに譲ってから出かけて行ったのだから。

 なんと能天気な小娘だったのだろうと、クルムは幼い頃の自分を振り返る。

 クルムが無邪気に喜んだのはその時が最後であった。


 母は兄の死を聞くや否や、クルムと下の兄を連れて王宮を逃げ出す計画を立てた。

 協力者を作り、その手助けによって夜に紛れて逃げ出す算段だったようだが、なぜか計画がばれて投獄された。

 クルムの母は、クルムが面会に行く前に獄中死した。

 持病が悪化したのだそうだ。

 持病なんてなかったはずなのに。


 頼るべき二人を失った下の兄は、クルムとは違い、いつまでも落ち込んではいなかった。たった一人で立ち上がり、生きる術を探り、知り得たことをすべてクルムに伝えながら、王宮外部に味方を作ろうと奔走した。子供が二人で協力して、なんとか一人だけ味方につけたのが今も共にいるウェスカである。

 ウェスカは優秀な元冒険者であった。

 しかし、たった一人でクルムの下の兄を守ることはできなかった。

 十四歳の冬。

 クルムの下の兄は、街の新興商家のパーティに出席し、その帰りに何者かの襲撃を受けて命を落とした。

 犯人は招待した新興商家。

 取引が上手くいかなかったことの腹いせにクルムの下の兄を殺したのだそうだ。

 新興商家もその際に取り潰され、財産を没収されている。

 そういうことになっているのだ。


 クルムはまもなく十三になる。

 十三になった王の子は成果を見せるために、王宮から一定の予算が出るようになる。つまり、本格的に王位継承争いに参加することになるのだ。

 クルムは第十一子と名乗っているが、本当は王の二十七番目の子である。

 つまり、クルムが十三になるまでに、実に十六人の王の子が命を落としていることになる。そしてそのほとんどが、十三を超えてからの死であった。


 クルムは死ぬわけにはいかなかった。

 なんとしてでも母の、二人の兄の仇を討たねばならない。

 本当は王になってこのくだらない制度の上に成り立っている国そのものをぶち壊してしまいたいところだ。だが、すでに権力基盤を築いている上の王子王女たちをごぼう抜きにして王になることは相当に困難である。


 だからクルムは考える。

 最悪王にはなれなくたっていい。

 その代わりに、母を、兄二人を殺した犯人だけは、この手で必ず地獄に落としてやる。

 十代前半の少女にして、クルムは復讐者であった。

 クルムには才能がある。

 母のような演技力。上の兄のような切れる頭脳。下の兄のような行動力と覚悟。


 もしかすると、生き残るだけならできるかもしれない。

 下の兄を守ることができなかったウェスカは、クルムにそれを望んでいるようだった。

 しかしクルムはそれをよしとしなかった。

 自分とウェスカだけでは足りないとわかっている。

 だから王宮は一人で仮面をかぶってやり過ごしながら、ウェスカに希望を探させた。ほんのわずかな希望でも、見つかればそれに縋るつもりだった。

 クルムは不名誉な死よりも、無為に生きながらえる未来の方が恐ろしい。


 ウェスカが興奮した様子で、しかし慎重にクルムに事を告げたのはほんの数日前のことだった。長く良い報告が得られず、いよいよ自分たちだけで何とかしなければならないのかと、覚悟を決めかけていたそんな時だ。

 ウェスカが見つけたのは【青天の隠者】と呼ばれる冒険者。

 おおよその年齢を聞いてクルムは落胆したが、その人物像を聞いてクルムは一縷の望みを抱く。

 弱きを助け強きをくじく。

 慎み深く、しかし将来有望な若い冒険者を幾人も一流に育て上げてきた。

 出自も経歴も知られておらず、その実力は今や伝説となっているような冒険者たちのお墨付きだとか。


 怪しいことこの上ない。

 そんな大人物が街の隅で静かに暮らしていることも不思議だった。

 それでも、クルムにはもう時間がなかった。

 どうやら天涯孤独らしいし、老い先短い年寄りならば巻き込んでもそんなに罪悪感もない、なんていう邪悪な打算もあった。それはある意味でクルムの優しさでもあるのだけれど。


 それに王宮で暮らす者は、冒険者の事情になんか詳しくない。

 どんなに有名で、どんなに実力のある冒険者だったとしても、【青天の隠者】なんて名前は知らないだろう。そんな老人を連れてきて何がしたいんだと、却って油断を誘えるかもしれない。

 上の王女が体を使って強力な護衛を幾人も侍らせているそうだが、老人ならばそんなハニートラップにも引っかからないし、あと数年してクルムが美しく成長しても妙な下心は抱かないだろう。

 とにかく、これが本当にあたりの駒なのであれば、クルムにとっては願いを叶えるための強力な一手になるはずだ。そこからの決断は早かった。


 どうやら【青天の隠者】が引っ越しを依頼していると知ったので、日取りまでにそれを潰すために業者の悪行を密告。

 もともと引っ越しを請け負っては、都落ちした者を途中で殺すという盗賊まがいの業者であったので、その商家を潰すことに良心は一切痛まなかった。

 もしや【青天の隠者】はそれを知っていてこの業者を選んだのではないかと、ひそかに評価を上げたくらいだ。だとすれば本当に【青天の隠者】は噂通りの人物である可能性がある。


 クルムはバレバレの胡散臭い街の人っぽい格好に身をやつし、王宮をこそこそと出ていく。もちろんわざと目立つようにだ。

 他の王位継承候補者から警戒されるわけにはいかない。

 馬鹿な小娘ですよとアピールするための行動だった。


 クルムの足取りはいつもより随分と軽かった。

 もしかしたら本当に、という期待が自然とそうさせており、クルムもそれを隠そうとは思わなかったからだ。

 それがまた、お忍びの少女らしさを自然と演出しているのはなんとも皮肉であった。



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― 新着の感想 ―
なあにこの修羅の国・・・ チラッと出てきた上の王女様とか哀れすぎる。
おっとっと〜面白くなってきよったわい
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