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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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しぶとい男

「さて」


 全員が完全にすぐには復帰できないことを確認しながら、グレイは床に転がっている意識のないならず者たちを部屋の端に投げたり、蹴り転がしたりしていく。

 その中でも一番偉そうに女性を侍らせていた男がソファで伸びているのを見つけると、平手打ちをしてその目を覚まさせる。


「この建物に袋に詰められて連れてこられた者はおらんか? ついさっきのことなんじゃが」

「し、知るか、そんなもん……」

「ふむ、本当に?」

「舐めた真似しやがって……、俺たちの後ろに誰がついてるか分かってんだろうな」

「質問に答えんか、馬鹿もんが」


 話す気がないことを悟ると、グレイは瞬時にその男の頬を張り飛ばし、きれいに他のならず者たちの隙間まで転がした。当然男の意識はブラックアウトしている。

 次にグレイはのしのしと震えて地面に座り込んでいる家族たちの下へ向かい、穏やかな表情で笑いかける。今更そんな顔をされても恐ろしいだけだけど。


「お主らは何者かが運び込まれたのを見ていないかな?」

「み、み、みました。大きな袋を担いだ男が、お、奥へ行って、出て来てないです」

「おお、よう覚えておった、偉いのう。ちょっと待っておれよ」


 グレイは勝手に室内をうろつくと、勝手知ったる我が家のようにカウンターの中の中へと入りこみ、鉄板で補強された箱を拳で殴りつけて破壊した。

 そうして中から硬貨をわしづかみにして、情報をくれた家族の男へと差し出す。


「これは礼じゃ」

「こ、こんなものを、いただいては、あ、あとで何をされるか……」

「誰に?」

「それは……」


 先ほどグレイが張り飛ばした男の方へ視線がむく。


「大丈夫じゃよ。二度と悪さができぬようにしておくからのう。……そうじゃろ、クルムよ」


 急に話を振られたクルムは深いため息をついた。

 王宮の中には裏社会を勢力に取り込もうとしている者は山ほどいる。

 それらに目をつけられることになるだろうが、こうなってしまっては今更だ。

 どうせそのうち騎士団の者がやってくる。

 せめてここにいる面々は全員捕縛し、使えない末端構成員たちがしくじったと考えてもらった方がいい。


 少なくとも今グレイに文句を言って、わざわざこの家族を不安に思わせる必要はない。


「……もちろんです。このままのさばらせるつもりはありません。どうぞ、ここから離れていつもの生活に戻ってください」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」


 男は何度も礼を言いながら、家族の背中を押してその場から立ち去っていった。

 

「良いことをしたのう」

「どうでしょう。そんなことよりウェスカです。探しに行きましょう」

「そうじゃな。おい、そこのは入り口を見張っておけ。逃げるものがいたら顔を覚えて、やってきた騎士団に教えるんじゃ。逃げるのを阻止しろとまではいわぬ。良いな?」

「はい……」


 こっそり今のうちに逃げ出そうと企んでいた哀れな酔っ払いは、いつのまにやらすっかり一味扱いされていることに絶望しながら、蚊のなくような声で返事をした。

 今更遅いかもしれないけれど、ここの一味が全員見事に捕まってくれない限り、このすっかり酔いのさめてしまった男の人生もお先真っ暗である。


 グレイはようやく奥へと歩み出したところ、ドアがキーッとなる音がしてぬっと大きな影が現れた。


「うるせぇなぁ、眠れねぇじゃねぇかよぉ」


 身長はグレイよりもやや小さいが、体重はおそらくグレイ以上あるであろう、見るからに力自慢の男であった。しかしその動きはのっそりとしており、およそ戦いに身を置いている者とは思えない。


「……なんだこれ、どうなってやがる。おい、爺、こりゃあ一体全体何があった。部屋の中に嵐でも通り過ぎたってのか?」

「あ、そ、そいつだ! そいつが袋を背負ってたやつです!」

「ほう、お主もなかなか使えるではないか。あとでその辺で拾った金を分けてやろう」


 自分のものではないから大盤振舞である。


「爺、無視するんじゃねぇよ。ええ、コラ?」


 のっしのっしと歩いてきた男は、近づいてグレイの上背にようやく気づき、ぴたりと足を止める。


「……なんか、強そうじゃねぇか」

「うむ、強いぞ」

「……帰れよ。今なら見逃してやるぜ。俺は用があってここを間借りしてるだけなんだ。あの馬鹿どもがどうなろうと知ったことじゃねぇんだ」


 床に転がっているならず者たちを親指で示して交渉に乗り出す大男。

 グレイは「ほっほ」と笑った。


「儂はここに用があって来たぞ。お主がさらった男を取り返しに来た」

「そうかよ!」


 男の返事はぶっとい腕を振り回して繰り出された拳であった。

 グレイが手の甲を使ってパンと下から弾くように払ってやると、拳はグレイの頭上を通過するようにそれて、大男の体がぐるりと回転する。

 形こそ不細工であったが、それだけの威力が込められた一撃だったということだ。

 グレイがその背中に向けて前蹴りを放つと、先ほどと同じ破裂音。

 大男は出てきた扉を壊して吹き飛び、現れた階段を転げ落ちてゆく。


「ふむ、死んだかもしれんな」


 殺すつもりまではなかったが、階段があるとは聞いていない。

 追いかけて階段を下りていくと、床には大男がうつぶせに倒れており、地下牢が五つ並んでいた。


 こつりこつりと階段を下りていく。


「ウェスカ、いますか!」


 クルムが階段の途中で声をあげると、その中の一つからすぐに返事があった。


「クルム様!? 申し訳ありません、ここにおります!」

「今助けます!」


 急いで駆けだしたクルムが、グレイを追い抜いて声の下へ向かっていく。


「これ、待たぬか……!」


 グレイが注意を発した瞬間、すっかり伸びていたかに思われた男が急に体を起こし、クルムに向けて覆いかぶさる様に襲い掛かった。

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― 新着の感想 ―
やったね酔っ払い!王女パーティーの一員だよ!
王女だいぶ隙ありすぎだろ。お兄さま(3人とも)過保護に守りすぎじゃね?危機感とか、慎重さとかないねぇー。指輪を姉ちゃんにバレちゃったやつとかもデカい隙だったしさ。
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