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転生爺のいんちき帝王学 〜日の目を見ずに生きてきた最強爺、隠居間際で弱小王女に拾われる〜  作者: 嶋野夕陽


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来客

 何事もないまま一週間ほどが過ぎた。

 二人は災禍の指輪の効果に疑いを持ちつつ、いつも通りに訓練を続ける。

 グレイはひそかにクルムの心の強さに感心していた。

 訓練はどれも、いつ音を上げてもいいくらいに厳しくしている。

 それなのに一度も降参したことがないのだ。

 面白がってどんどん厳しくしてもである。

 

 訓練中だけでも厳しく接していれば、グレイを恐れ始めてもおかしくないのに、それどころか毎度毎度きちんと言い返してくることもまた小気味よい。

 クルムが段々とグレイに慣れてきているのと同時進行で、グレイもまた、少しずつこの芯の強い少女のことが気に入り始めていた。


「何も起こりませんね」

「何も起こらんのう」

「精々先生が調子に乗って訓練を厳しくしてることくらいしかありません」


 王女様なのに散々足払いをかけられて投げ飛ばされたり、放たれる魔法をよける訓練をさせられたりしたクルムが愚痴をこぼす。

 ちなみに魔法は空気をとばしただけのもので、当たるとぺしんと叩かれた程度には痛い。ぎりぎり内出血しないくらいなのが、またグレイの腕を証明しているようでなんとなく腹立たしいクルムである。


「そのうち役に立つかもしれないじゃろ」

「かも?」

「戦いに必ずなんてないからのう」

「へぇ、先生も負けることがあるってことですか。ちょっと見てみたいですね」

「ない」

「あるじゃないですか、必ず」


 午前中みっちりしごかれたせいで、やややさぐれ気味なクルムである。

 テーブルに体を突っ伏してジト目でグレイを見つめながら休む姿は、ここ以外では見られないだろう。

 一応二人にとってはくつろぎの時間を過ごしていたそんな時、扉が数度ノックされる。


 クルムは疲れた体に鞭打って何とか姿勢を正し「何用でしょうか」と声を上げた。


「あー……、ハップス殿下が話があるとお出でです」


 やや間延びした喋り方は、年中酒ばかり飲んでいる方の兵士だろう。

 クルムは小さく舌打ちをする。

 先日グレイからさんざん突っ込みをいれられたこともあって、自身がハップスに対して複雑な思いを抱いていることに、クルム自身も気づき始めているのだ。

 まだ気持ちがまとまっていない。

 できれば顔は会わせたくなかった。 


「舌打ちとはマナーがなっとらんのう」

「師に似たようです」

「どうせなら強いところを見習うべきじゃな」


 舌打ち。

 相手をしているときりがないので声を張って返事をする。


「こちらへお通しください」

「承知しました」


 グレイが立ち上がり、自分の菓子(クルムの用意したもの)と、ティーセット

をクルムの横の席まで移動させて座り直す。

 扉の奥では何やらごにょごにょとしたやり取りが聞こえ、続いてすぐにハップスの声がした。


「入るぞ」


 どうやらこの区画の主であるクルムの許可を取る前に、ハップスを近くまで通していたらしい。

 本当に信用できない兵士だとクルムは眉を顰める。

 しかしすぐにため息をついて思い直した。それもこれも全て、自分に力がないのが悪いと。

 クルムのために力のある王族をとどめ置いたりなんかしたら、どんな報復があるか分かったものじゃない。クルムの区画の担当兵士よりも酷い左遷先があるかは知らないけれど、とにかく仕方のないことと割り切って諦める。


「どうぞ」


 他の勢力の者であれば這ってでも扉まで行って迎え入れているところだが、ハップスならばもういいやという感じだ。

 扉を開けてハップスが入ってくると、その肩越しに兵士がさっさと元の位置へ帰っていく様子が見えた。つくづく忠誠心の薄い男である。


「さて、茶でも入れてやろうかのう」

「いや、結構」

「ふむ。儂は茶を入れるのには自信があるのじゃが?」

「手を煩わせたくない」

「気にせんでよい」

「お兄様、お気になさらずどうぞおかけください」


 怪しい爺の茶を飲みたくなかったのか、それとも本当に遠慮していたのか。性格的に半々くらいであったかもしれないが、結局はグレイは勝手に茶を入れ始めた。

 そもそもここはクルムの部屋であるからして、本当に好き勝手している爺である。


「本日はどういった御用件で?」

「……ファンファがどこからか決闘の話を聞きつけたらしく、探りを入れてきた。あれと何か問題があったか?」

「先日廊下で少しお話ししただけです。それで、お兄様は決闘の話をされたんですか?」

「いや、そんなことはなかったと伝えている。しかしあれは信じていない目だった。おそらく既に騎士の誰かから噂を聞き、確信をもって俺のところへ来たのだろう。あれは男を誑し込むのが得意だからな。知っていますという意思表明のようなものだ。そんなもの知られたところで、なんの弱点にもならんが」

「わざわざお知らせくださりありがとうございます」

「茶じゃ」


 二人が真面目に話しているところに、横合いからグレイがハップスに茶を差し出す。ハップスはグレイの強さの一部を知っているから、その顔を見上げ、それから茶をじっと見て「……わざわざすまないな」と一応礼を言った。

 下手に刺激しないほうがいいと判断したのだろう。


「それだけですか?」

「いや、まだある。そちらのグレイ先生にも用があったので丁度よかった」


 胡散臭い爺が着席したところで、ハップスは今度はきちんと正面からグレイと向き合う。

 グレイはまさか大昔の話でも持ち出してくるのかと僅かに警戒しながら、ハップスの灰色の瞳をまっすぐに見返した。

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