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ある『付与師』の誕生秘話

 実は僕には一つ特殊な能力があるんだ。

 その能力に目覚めたのはこの高校に入学してすぐの頃だった。


 普通に夜寝て普通に起きて、眠い目を擦りながら朝食を摂りに居間へ行ったら──両親の頭上に「ウィンドウ」があったんだ。

 PCのウィンドウというよりはゲームのメニュー画面とかで色んな情報が表示されるアレ。分かるかな? そうそうそれ。


 それなりにゲームやラノベを嗜んでいたこともあって「僕もついに目覚めたのか!?」ってテンションが上がったんだけど、どうも様子がおかしい。

 そこに書いてあったのは「優しい」とか「優柔不断」みたいな何の変哲も無いいくつかの単語だけ。しかも見えるだけでそれらを選択したりも出来ない。

 一体何なんだコレ……と軽く失望しながら学校へ向かったのをよく覚えてるよ。


 あ、ちなみにウィンドウの表示非表示や透過不透過は任意で切り替えられたね。

 もし表示されっぱなしだったら日常生活への影響が甚大だったろうから、早めに気付けて良かったよ。


 事情が変わったのは授業に身の入らぬまま突入した昼休み。

 書かれている単語が「その人物の性格や特徴」なのはなんとなく分かって来たけど、分かったところでそれが見えてもなーとやはりテンションが上がらぬまま、ウィンドウを表示しつつクラスメイトをぼんやり眺めていた時のことだった。


 耳に入ってくる女子グループの恋バナを聞きつつ「それ絶対相手もまんざらじゃないからさっさと告白すればいいのに」って思っていたら、グループ内の一人のウィンドウに『迅速果断』って文字が追加されたんだ。

 初めての変化に何が起きたのか分からず呆然としていたら、その女子が無言で立ち上がって教室から飛び出して行ってさ。

 数分後戻って来たと思ったらグループメンバーに「OKもらった!」って報告していて、そこからキャッキャと大騒ぎ。


 でも僕は何が起きたか考えるのに必死でそれどころじゃなかった。


 この出来事は間違いなく僕が関係している。じゃあ一体どこまでが僕の影響なんだ? ってね。催眠とか洗脳みたいに相手の意思を奪ってしまったんじゃないかと気が気じゃなかったよ。

 その後の様子を見るにそんなことは無さそうだったけど、その後は家に帰るまでなるべく他人を視界に入れないようにしたり余計なことを考えないようにしたりと気を遣ったなあ……。


 その出来事のあと本腰を入れて僕の能力を調査し始めていくつかのことが分かった。

 ①ウィンドウに表示されるのは、(誰から見ての判断かは分からないけど)「怒りっぽい」とか「悲観的」みたいに平均以上もしくは以下と判断される特徴のみ。

 ②具体的な相手の思考が分かる訳では無い。

 ③付与出来る特徴は「勇猛」「冷静」みたいな性格タイプや「楽しい」「怒り」みたいな感情タイプ。

 ④付与できるのは思考や行動に影響を与える(かもしれない)特徴のみで、「〇〇する」といった行動指定や思考操作は出来ない。

 ⑤追加出来るのは一人につき一個の特徴のみ。

 ⑥複数人への同時付与は可能。人数上限は無さそう。

 ⑦特徴は任意で付与&消去でき、付与後何もしないと一週間ほどで付与した特徴は消える。

 ⑧元々相手が持っている特徴は消去出来ない。

 ⑨成長や心境の変化などで自然と元々の特徴が追加・消失することはある。


 ざっとこんな所だったかな。

 ちなみに鏡を使うと自分で自分に付与出来たから、多人数付与以外は自分で実験したんだよなあ。懐かしい。

 何も切っ掛けが無いのに急に楽しくなったりムカッとしたりするの、結構怖かったなあ……。


 そんなこんなで能力が大方把握出来たんだけど、そこで僕が考えたのはこれで周りの人を少しでも幸せに出来るんじゃないか? ってことだった。

 能力の詳細について知ることで「相手の特徴が見える」という基本能力の重要性が浮き彫りになったというか、相手の問題が分かるならそれを打ち消せる特徴を付与出来ればよい方向に持っていけるんじゃないか? と思ったんだよね。


 え? 悪用は考えなかったかって?

 ……全然考えてなかった。というか特徴を付与して自分が得できるような方法を純粋に思いつかなかったなあ。

 でももし思いついてたらやってたか? と考えてみると……多分やってなかったんじゃないかなあ。

 結果的に悪い方に物事が転んだりするんじゃなくて、明確に自分で悪い方に持っていくってことでしょ? そういうの耐えられないと思うんだ。僕小心者だからさ。


 と、少し話が逸れたね。


 それで「相手の悩みや問題を知る」「相手の特徴と問題を照らし合わせて不足していそうな部分を付与で補う」という手順と言うか活用法を思いついたんだけど、相手の悩みを知ること自体が割と大きな問題だったんだよね。当時は交友関係もそんなに広くなかったし。

 だからまずは悩みのある友人の話を聞くところから始めてさ。悩みのある人が居るって噂を小耳に挟んだら、その噂とその人の特徴を照らし合わせつつ声を掛けたりもしたなあ。

 慣れない頃はいきなり踏み込み過ぎることもあったから当たり前だけど、「なんだこいつ」みたいな反応をされたことも一度や二度じゃなかったね。ははは。


 なんでそんな目に遭ってまで続けたのかって?

 問題が分かっていて、こうすれば好転するんじゃないかというのも分かっている。そういう状況で苦しんでいる人を見ていられなかったのかな?

 他にも色々あるかもだけど結局、せっかくの能力だし活用したいとか放っておくと自分の気が済まないとか、そんな自分勝手な理由が一番大きかったのかもだね。


 また話が逸れちゃったね。

 まあそんな訳で問題を抱える人の話を聞きつつ付与を駆使してきたんだ。

 勉強に集中出来ない人に『没頭』を付与してのめり込むことの楽しさを実感してもらったり、緊張で実力を出せない運動部員に『不動心』を付与して実力を発揮するコツを掴んでもらったり。

 もちろん上手く行かないこともあったけど、そういう時も『不屈』や『許容』を付与しつつ寄り添って辛さを最小限に留めたり。


 そういう風に色々やっていたら、関わった人が紹介してくれたのか、今までとは逆に悩みを抱えている側の人たちから相談してもらえるようになってきてさ。

 なんだか今までの行動が報われたような気分になりつつも、悩み相談が増えて自分から相手のところへ出向くのが厳しくなってきた時に、保健室の先生から拠点としてここを好きに使ったらいいって言ってもらったんだ。

 ようやく保健室を自由に使えている理由に辿り着いたね。はは。


 今先生が何してるかって? 多分喫茶店でお茶しつつ煙草吸ってるんじゃないかなあ。

 だから僕の存在は体のいい留守番として使ってるのかもしれないね。先生の思惑はともかく、結果的に僕にとっても得のあることだから構わないけど。


 それで大丈夫なのか? 多分ダメだと思うけど……あの先生だよ? 

 美人なのに色々残念過ぎて先生目的の男子生徒はもちろん、サボり目的の生徒すら保健室に一切近づかなくなっちゃった逸話を持つあの。

 ね。納得出来ちゃうでしょ? 


 でも先生には場所を提供してもらった以外にも色々お世話になってるんだ。

 家庭環境が絡む問題の対処とか、ふと目に入った『希死念慮』を抱える人への対処みたいな、個人での対処が難しい問題に出会った時の関係各所への連絡や調整とかでね。

 ああいう時の先生は本当に頼りになるんだけどなあ……。


 それにしても能力前提だから傍目に見たら突拍子の無いハズの僕のお願いなのに、何故か先生は面倒くさがりつつも大して疑わずに聞いてくれるんだよね。

 僕から能力について伝えたことは一切無いし、先生から追及されたことも無いんだけど、先生には僕の能力がうっすらバレてるような気がするんだよなあ。



 さて。ここまでが僕の秘密についての話だったんだけど……実は本題はここからなんだ。

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