緊急事態
あの男の欲が爆っ発! どうなる!?
(エリオット視点)
「エリオット!」
駆けつけてくれたのは姉さん。僕の唯一の家族……
(僕は姉さんのために……姉さんに幸せになって欲しくて頑張っていたのに……)
ダグラス家に仕えていたのも、実験を続けていたのも全ては……
「エリオット! しっかりして!」
姉さんに肩を揺すられ、僕はようやく現実に返った。あの化け物との間には少し距離が空いている。多分姉さんの……
(くそっ……姉さんにあの力を使わせてしまった……)
姉さんの力……僕達が家族と仲間を失った原因でもあるそれには代償がある。だが、僕達の悲願を達成するためには遣わざるを得ない。だから、僕は姉さんのための研究をしていたんだけど……
(とにかく今はあいつだ!)
僕は意識を切り替え、姉さんに経過を説明しながらあいつをチラ見した。
(少し大人しく……それに僕を見失っている……)
恐らく僕の意識があいつから離れたせいだろう。なら、このまま距離を取れば逃げられる……か?
「……なら、私の力を使ってあいつを研究室に転移させる。そうすれば、もうあいつはこっちに出てこられない」
じ、冗談だろ!?
「駄目だ、姉さん! また力を使ったら姉さんの体が……」
「でも、あいつを野放しにはしておけない」
俺達を見失ったあいつは手当たり次第に周りの物を取り込み始めている。取り込む度に大きく、そして存在がより確かになっていく……
「貴方の研究室はこの世界とは位相が違う別空間、だからあいつも……」
「そうじゃない! さっきも力を使ったろ!? また使うなんて絶対駄目だ!」
「私ならまだ大丈夫……当分は休まなきゃいけないかもしれないけど」
くそっ……何でこんなことに……
(実験体の分際でよくも……)
全部……全部こいつが悪いんだ! こいつが! こいつが!
(せっかく上手く行っていたのに……)
ダグラス家の依頼も、完全体の作成もあと一歩のところまで来てたっていうのに……
(全部全部全部……お前のせいだよッ!)
その瞬間……
ブワワワッ!
あいつは突如俺に向かって来る! しまった、気づかれたか!
「危ない、エリオット!」
姉さんは再び力を使う気配がした……
*
(レオ視点)
「「「「救世主兄貴に乾杯ッ!」」」
村長に顛末を報告すると、あっという間に宴が始まった。俺としてはまだことの全容が分かってない上に、あの黒い炎を纏った奴を倒せたかどうかも分からないので解決とは言い難いと思うのだが……
「救世主兄貴! ぐいっとやって下さい! ぐいっと!」
しきりとエンゾが勧めてくる酒を断るわけにもいかず──だって断ったらまだわだかまりがあるみたいになる──とりあえず空気を乱さぬ程度に騒いでいる。
(まあ、村長が言うように“ガス抜き”ってのが必要なのは分かるが……)
ちなみに一応断っておくが、楽しくない訳じゃない。こうやって話してみると、獣人達が裏表のない良い奴らだってことがよく分かるのだ。
(まあ、ちょっとストレート過ぎる傾向はあるから誤解されやすいかも知れないが……)
ちなみにホムラの支部をこの村に置く件については前向きに考えてもらえることになっている。もし、実現すれば大きな戦力になってくれるはずだ。
(トータルで考えると上手く行ってる……のか?)
まあ、あの黒い炎の奴のことを確かめるとか獣人達とホムラの冒険者が円滑に協力出来るようにするとか色々課題はあるが……
「救世主兄貴! こっちですよ! こっち!」
「あ、ああ」
エレインは既に良い感じに酔っている……心配だし様子を見に行くか。
「レオ様。今、レオ様の武勇伝を話していたんですよ」
げっ……
「救世主兄貴、本気で凄いっす! 尊敬です!」
「姉御が崇拝するのも当然ですね!」
酒か雰囲気……もしくはその両方に呑まれた獣人達が口々にそんなことを言ってくる。いや、嬉しいよ? こんなさえないおっさんにこんなことを言って貰えるのは嬉しいけど……ちと呑まれすぎだろ?
「でも、私……そんなレオ様に対して最初は……」
げげっ……このパターンは!?
「レオ様ッ! 私に罰──」
「呑みすぎだ、エレイン。 ちょっと休むぞ」
俺はすかさずエレインの口を塞ぎ、担ぎ上げた。若干乱暴な感じは否めないが、エレインは全く抵抗しない。流石に呑みすぎだと分かっているのか、それとも……
「姉御に優しくしてあげて下さいね! 救世主兄貴!」
「ご褒美タイムですね、姉御!」
こう言う時のお決まりのような揶揄を受けながら俺はその場を後にした。やれやれだよ、全く……
読んで頂きありがとうございました!
次話は来週の昼12時に投稿します。
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