不覚
村を襲いに来た魔物に返り討ちにされたエンゾ。彼の運命は……
(エンゾ視点)
「良かった、エンゾさん! 気がついた!」
ぼやけた視界に写るのは村のガキ……確かミゲルとか言ったか?
「ポーションです。飲めますか?」
差し出された液体に口をつけると見る見る意識がクリアになって……
(なっ……何だ、これは!)
倒れている俺達の前には魔物でも簡単には壊せそうにない頑丈な土壁。そして、その向こうから聞こえてくるのは……
(誰か戦ってるのか!?)
そうだ。俺は妙な雰囲気の魔物(?)にやられて意識を失って……
「っ! まだ起き上がっちゃ駄目だよ、エンゾさん!」
制止の声を振り切って土壁の端から戦いの様子をのぞきみる。すると、そこには……
(あの冒険者の男!)
しかも、男の前には魔物が数体。どいつも手強いやつだ!
(まさか地面に転がってる奴もこいつが……)
転がっている魔物は質、数共に信じられないレベルだ。俺達ではとても……
「レオさん、また!」
後ろにいた女がそう言ったかと思うと新手が現れる。のそりのそりと歩いてくるそいつの姿は……
(あ、あいつは!)
現れたのは、妙な雰囲気を持つ鹿に似た何か。俺が遅れをとった相手だ!
(しかも、俺が遭った奴よりも大分でかい……)
あの大きさ……もしかしたら魔物の群れを率いているボスかも知れないな。
「〈糸弾〉の拘束だけでは厳しいか……」
冒険者の男はそう呟くと、風のように走る!
(は、速い……!)
あっという間に相手に近づくと……
ドンッ!
腹の底に響くような重い音……剣の腹で叩いたのか!?
グラっ
鹿の姿をした何かが大きくよろめいた次の瞬間、何かが巻きついて動きを封じた!
「流石です! レオさん!」
女が歓声を上げる。そりゃそうだろう。俺でさえ見惚れるような手際だ。
(あいつは一体何者なんだ……)
これだけの数の魔物をあっという間にやっつけるなんて……一体どうなってるんだ!?
*
「ミゲル、どうだ?」
「今ので最後みたいだよ、レオさん」
そうか。ふぅ〜
(なら、後片付けだな)
俺が死体を片付けようとするとミゲル達がやってきた。
「レオさん、俺達がやっておくよ」
「そうだよ、休んでおいてよ」
口々にそう言ってくれるけど……子どもに働かせて俺達だけ休むのはな。
「俺達がやろう……」
そう言ってエンゾと仲間の獣人達がのそりと立ち上がった。
「よそ者ばかりに働かせる訳には行かないからな」
回復したとはいえ、エンゾ達は全快という訳じゃない。休んだ方が良いと思うが……
(けど、そんなことを言ったらあんまり良くないかな……)
ここで俺達任せにしないのは彼らなりのプライドだろう。それを無下にするのはいただけない。それにまぁ……そう言うのは嫌いじゃない。
「じゃあ、頼む。みんな、厚意に甘えて休ませて貰おう」
そう言って背を見せて村の方を戻り始めると、ハーディアが話しかけてきた。
“ねぇ、ちょっと相談があるんだけど”
(どうしたんだ?)
ハーディアにしては珍しく真面目な声色だ。もしかしたら初めてかも知れない。
”さっきの子達をエントの元へ戻す前に例の石を外したいんだ“
例の石ってのは確か魔物を亜種にしたり、精霊の眷属を狂わせたりしている黒い石のことだよな。
(それはそうだよな)
“けど、そうするとしばらくはそっちにかかりきりになると思うんだ。魔物退治はレオ任せになると思うけど良いかな?”
(分かった。彼らの治療を優先してくれ)
ハーディアも精霊だし、彼らのことが心配なんだな。
”ありがとう、レオ。例の操られた眷属が出できたらシオンに頼んで。やり方を教えておくから”
そうこうしている間に俺達は村にたどり着いた。
「レオさん……」
「ああ、ハーディアと一緒に彼らの治療を頼む」
表情から言いたいことを察してそう言うと、アイラは軽く頭を下げた。アイラとハーディアが別れて行動するなんて有り得ないからな。
「俺は村長にさっきの戦いのことを報告してくるよ」
「あ、レオ様! 私も行きます」
アイラ達と別れようとすると、エレインがそう言って手を上げた。どうもさっきの話はエレインにも伝わってたみたいだな。
「エレイン、レオさんをお願い。あまり無茶はさせないでね」
アイラがそう言うとエレインは神妙な顔で返事をする。うーん、そんなに無茶してるかなぁ?
読んで頂きありがとうございました!
次話は来週の昼12時に投稿します。
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