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公平

「代価に奴隷が欲しいのか」


 そんな刺すような村長の問いにレオは……

「いえ、違います」


 村長の問いを俺は落ち着いて否定することが出来た。


(ルイーザやメアリーさんに感謝だな)


 実は二人からは俺のアイデアを話した時に”最初は獣人から疑われるかもしれません”と助言を受けていたのだ。


「何度も言いますが、ミゲルをここまで送ったのは当たり前のことをしただけです。対価を貰おうとは思っていません」


「ほぅ……つまり貴方はミゲルを送るためにわざわざこの村まで足を運んだ、という訳ですかな?」


 村長の声色にははっきりと不信の色が混ざる。俺としてはそう言う選択肢もありじゃないかと思うんだが……まあ、信じられないよな。


(だって、獣人は人間に酷い目に合わされた歴史があるもんな……)


 俺も簡単に聞いただけだから良くは知らない。だが、奴隷を欲しがる人間が獣人の村を襲うというのは悲しいことに今も行われていること。人間と見れば警戒するのは当たり前だろう。


「ミゲルを送ったのはたまたまこの村に用があったからです。そう言う意味ではミゲルを連れてきたのは”ついで“と言うべきでしょうか」


 まあ、本当はこんな言い方したくないんだけど……


「なるほど。では、その用とやらをお聞かせ頂けますかな?」


「はい。俺はミゲルからこの村を襲う魔物の群れを倒して欲しいという依頼を受けました。それを受けに来たのです」


「!!!」


 俺の言葉に村長は驚いた顔をして一瞬押し黙る。が、直ぐに立て直して尋ねてきた。


「……つまり、我々を救いに来て下さったということですかな?」


「救いに来た……と言えるかは分かりません。仕事ですから」


「仕事……なるほど」


 今までのやり取りの中で初めて村長は俺の言葉に納得したようだ。


「ミゲルからは魔物退治の報酬や魔物の数や種類を聞けていません。それらを聞いてからこの仕事を受けるかどうかを決めたいと思います」


「それはまあ当然ですな……」


 が、村長はすぐに首を傾げて呟いた。


「しかし、貴方の話は何と言うか……公平すぎる。貴方は私達を対等に扱っているように思えますが……お分かりですかな? 私達は人でなく獣人ですぞ?」


 村長は困惑した顔をしている。それはつまり、人間は常にこの人達に不等な仕打ちをしてきたということだ。


(……分かるな、その気持ち)


 分かるからこそ慰めは言わない。必要なのは同情じゃなく俺の意思を示すことだ


「いけませんか?」

「……くくく。アッハッハ!」


 村長が大きな声を出して笑う。その目に涙を浮かべて。


「いけなくありませんとも! ええ、ええ! 分かりました! 仕事の話をしましょう! おい、誰か! 代えの茶を持て! 早く!」



(ふぅ……今日は色んなことがあったな)


 一日の終わりに俺は誰もいない居間で寛いでいた。すると……


「レオさん、眠れないんですか?」 


 アイラが飲み物を片手に姿を現した。ハーディアはもう寝ているから正真正銘アイラ一人だ。


「そう言う訳じゃないんだが……まあ、ぼんやりと」


「今日は色んなことがありましたからね」


 アイラも俺と同じことを思っていたらしい。


「でも、まぁ、何とかなりそうで良かったか」


 俺達は今、村長の家で世話になっている。あの後の話し合いで依頼を達成するまではここで寝泊まりさせて貰えることになったのだ。


「それにしても、魔物の数や種類はやっぱり確かなことは分からなかったな」


 見晴らしの悪い森の中、敵は突然襲ってきてはいつの間にか去っていく。全部で何人いるかなんて分かるはずもない。


「ええ。でも、魔物以外にも村を襲ってくる存在がいるってことが分かって良かったです」


 どうもアイラやハーディアによれば森にいるような魔物ばかりではなく、操られた精霊の眷属も混じっているようなのだ。


「つまり、この村を困らせている問題は道中で出会ったエントの困り事とも繋がりがある可能性があるってことだよな」


 一石二鳥というか、何と言うかか……


「でも、エントからも助けを得られるかもしれないってのは大きいですよ!」


「確かに」


 森の中で戦うんだ。森の精霊の協力があるかないかでは話が大きく変わってくるだろう。まあ、精霊とどう協力したらいいかなんて俺には分からないが、この辺りはハーディアがやってくれるそうだ。


「ハーディアもやる気みたいですし、後は獣人達の協力がどれくらい得られるかですね」


 この依頼を受けるに当たって、俺達は一つ条件をつけた。それはこの依頼の解決に村人にも協力して貰うこと。これはいわゆる防衛戦。数の少ない俺達だけじゃ難しいからな。


「まあ、それは俺次第……ってことになるのかな」


「ふふふ……そうかも知れませんね」


 ため息混じりに呟く俺にアイラはそう言って微笑する。イタズラっぽいその表情はまるで絵画のようだ。


「大丈夫ですよ。いつも通りにやれば、みんなついてきてくれます。今までだってそうだったじゃないですか」


「そうかな?」


「そうですよ。だから大丈夫です」


 そう言って優しく微笑むアイラは控えめに言っても天使そのもの。こんな枯れたおっさんにも“期待に応えたい”って気持ちを起こさせてくれるんだからな。


(ま、やるだけやってみるか)


 何せ俺には天使の加護がついてるんだ。上手くいくに決まってる……なんちゃって

 読んで頂きありがとうございました!

 次話は来週の昼12時に投稿します。


◆お願い◆

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― 新着の感想 ―
[良い点] まったく信頼がないところ、むしろ差別があるところから、関係性を築くのはとても難しい。 レオはギルド長として、負担の大きい役割を担わされますね。 それでも依頼をこなしていけば突破口は見えてく…
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