対話と……
レオの荒療治で姿を現したのは……
「偉大なる森の精霊、エントよ。何があったんですか? 大分お怒りのようでしたが」
アイラがそう言うと、長い髪の女性の姿をした精霊──エントは恥ずかしそうに顔を伏せた。
“ある者の振る舞いがあまりに不合理で、森の生物に害を為していて……”
「森の生物に害を……貴方の力でも排除出来ないのですか?」
アイラが少し驚いた様子でそう尋ねると、エントは顔を伏せたまま頷いた。
”邪な力を持つ者で眷属達は逆に操られる始末……お恥ずかしい“
森の精霊エントの眷属を洗脳する力……一体何者なんだ?
「一体何者なのですか? 姿形は?」
“姿形は分かりません。常に黒い炎のような靄を纏っているので。しかし、その靄に触れると眷属達は正気を失い、操られてしまうのです”
黒い炎のような靄……普通じゃないな。
「他に気付いたことはない? 操られた子に変化はなかった?」
ハーディアが姿を現すと、エントは驚いた様子で慌てて頭を垂れた。
”おおっ、貴方様がこのような場所におられるとは!? まさか──“
「あ、いや……僕のことは良いから。操られた子のことを教えてよ」
何かを言いかけたエントのコトバを遮り、ハーディアが改めて問う。一見すると、脱線しかけた話を元に戻しただけに見えるが……
(ハーディアは何か焦ってる?)
いや、気のせいかも知れないが……
“申し訳ありません。そうですね……額などに黒っぽい石のようなものがついていたような”
黒っぽい石……? それって……
「それってこれのこと?」
ハーディアは例の亜種騒動の時に、アウルベアについていた石をエントに見せた。すると……
”こ、これは! 眷属についていた物に似ています!“
エントが驚いた顔をするのを見て、ハーディアは顔をしかめた。
“も、申し訳ありません。無作法な真似を……”
「いや、違うんだ。ちょっと気になることがあってね……」
気になること……確かに気になるな。
(俺がアイラとロザラムへ戻る前に戦った亜種やロザラムの祭器を狂わせた謎の黒い石、それに似たものがここにも……)
そうなるとロザラムやホムラを混乱させた原因なり元凶なりがここにいる可能性もあるな。
「この石は別の場所で起こった事件に関わりがあったもので、ボクは今調べているところだ。後で詳しいことを聞きたいな」
”畏まりました。いつでもお呼びくださいませ“
そう言うとエントは姿を消した。
「さあ、先を急ごう! 気になることも出来たしね」
「ああ」
ハーディアに応えながら俺は馬車に乗り込んだ。何だか嫌な予感がするな……
*
「母ちゃん、帰ったよ!」
「お前っ、ミゲルか! 良く無事で……」
「どうなったかと心配してたんだぞ! おい、誰かマヌエラさんを呼んでこい!」
俺達が村に着くと予想通り大騒ぎになった。まあ、村を一人で出た子どもが帰ってきたんだから当たり前って言えば当たり前だが。
(まあ、でもこれを見れただけでもここに来たかいはあったな)
母親らしき獣人が涙を流してミゲルを抱きしめるのを見ながら俺はそんなことを思った。
「ありがとう、人間の冒険者さん」
「ありがとう……」
周りにいた獣人達が次々に俺達に礼を言ってくる。ミゲルの家族って訳じゃなさそうなのに……
(互いを思いやる良い村だな)
村全体が親族……みたいな感じなんだろうか。
「人間の冒険者様、この度はミゲルがお世話になりました」
礼を言う獣人達の中から歳をとった獣人が現れ、俺に声をかけてきた。
「私はこの村の村長をしています。お礼の話もあるので私の家へ」
「分かりました」
お礼は要らないけど……といいそうになったが、話がややこしくなりそうだったので黙ってついていく。すると、他の家に比べて少し大きな家へと案内された。
「お口に合うかは分かりませんが」
家にいた獣人はそう言って飲み物を出してくれた。失礼のないように頂くと……これはハーブティーかな?
「この度はミゲルをお救い頂きありがとうございました」
「いえ、当然のことをしたまでです」
深々と頭を下げる村長に俺は手を振ってそう伝えるが、村長は頭を上げる様子はない。
(頼み事をしたいのはこっちだしな……)
だが、しばらくして頭を上げた村長はまるで矢のような言葉を放ってきた。
「それで、人間の冒険者様は私達に何をお求めですか? 例えば奴隷とか……」
読んで頂きありがとうございました!
次話は来週の昼12時に投稿します。
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