アクシデント
一行はミゲルの村へ向かいますが……
ガタッ!
順調に進んでいた馬車が急に止まる。一体どうしたんだ?
「俺が見てくる。ハーディア、頼む」
俺がそう言うが早いか、ハーディアが姿を現す。かなり省略されたやり取りだが、このくらいのことなら俺とハーディアの間ではこれで大丈夫なのだ。
「どうしたんだ?」
俺はそう声をかけると同時に視界に入ってきた光景にあ然とした。
(か、川!?)
眼の前には凄い勢いで流れる川があったのだ。
「何で!? まだ雨季じゃないのに!」
「時期によっては通れなくなるルートだったのか?」
「うん。でも、まだそんな時期じゃないとはずなのに何で……」
ミゲルは茫然と眼の前の川を見つめる。多分、彼にとっては有り得ない光景なんだろう。
「他にミゲルの村へ行くルートはないのか?」
「あるけど時間がすっごくかかる。そんなことしてたら皆が魔物にやられちゃうよ!」
ミゲルはそう半ベソで訴える。
(かなり差し迫った状況みたいだな)
ミゲルから聞いただけだと詳しい状況は分からなかったが、やはり時間はかけていられないようだ。
(まあ、それくらいの危機でないと子ども一人で人間の町まで下りてきたりしないよな)
着いたはいいが、村が滅んでたとなると意味はないし、何より気の毒だ。
(何とか渡る方法を考えないと……)
俺は馬車の中へ戻ってアイラとハーディアに状況を説明した。
「なるほど。見てみよう、アイラ」
「うん」
アイラとハーディアと共に外へ出て改めて川を見るが……凄いな、これ。
(これじゃ橋を渡しても直ぐに流されるな)
俺は祭器の力で橋を渡せば……と思ったが、いくら何でも流れが速すぎる。
「この流れの速さ……橋を渡しても直ぐに流されますね」
「うん。他の獣人の村にも繋がる道だけど、雨季にはこんなふうだから何処にも行けなくなるんだ」
やっぱり橋は駄目そうだな……
「レオ、祭器の力で橋はかけられる?」
ハーディア、何を言ってるんだ?
「出来るが、この流れの速さじゃ……」
俺がそう言い淀むとハーディアは(何故か)自慢気に胸を張った。
「まあ、見ててよ。アイラ!」
「うん。レオさん、見てて下さいね!」
ハーディアに応えながらアイラは俺の方を見て得意げに微笑む。
(可愛っ……いや、何をする気だ?)
アイラが目を瞑って精神を集中させると……
ゴゴゴ……ゴウゴウ
ん? 川の流れが……
(……!!!)
何とあれだけ激しかった川の流れがどんどん穏やかになり、遂には歩いて渡れるくらいになってしまった!
「ふぅ……このくらいでどうでしょう?」
「十分だよ。凄いな、アイラ」
それにしても一体何をしたんた?
”!“
シオンが反応してる……ってことは精霊絡みか?
「アイラは川の精霊に呼びかけて怒りを鎮めたんだ。今のアイラはどんな精霊とも仲良く出来るからね」
「レオさんのおかげです!」
胸を張るハーディアの横でアイラが最高に可愛く微笑む。思わずニヤけそうになる……耐えろ、俺!
「で、どうだった?」
「うん、やっぱり精霊が怒ってた。理由は分からないけど、何か落ち着かないというか……」
ふぅ……話題が変わって助か──じゃない!
(精霊が怒ったせいで川があんなに荒れてたのか……)
精霊は万物の営みに関わる存在。それが怒れば当選何某かの異常事態が起こるのは当然だが……
「進めば何か分かるかもね。嫌な予感がするけど。レオ、橋を頼める?」
「あ、ああ」
珍しく真面目な顔をするハーディアに注目していた俺は少し遅れた返事をしながら作業にかかった。川は大分大人しくなったが、馬車が渡るには橋が必要だ。
「私、材料を集めてきます!」
「あ、俺も!」
すっかり姉弟のようになったエレインとミゲルが駆けていく。よし、俺も取り掛かるか!
(行けるか、シオン?)
俺は祭器を手に取ると、シオンに呼びかけた。
“!”
おっ、やる気だな。頼むぞ!
(伸びろ!)
俺がそう念じるか早いか、祭器の先端から縄が二本飛び、対岸に生えていた木に巻き付く。そして、それは俺がイメージした通りに橋の形になっていく!
「凄い……こんな一瞬で!」
出来た橋を見てアイラが驚いた声を出す。
(いやいや。川を大人しくさせたアイラの方が凄いだろ)
まあ、悪い気はしないけどね。祭器やシオンを褒められると嬉しいのは間違いない。
「橋まで作れるなんてレオの祭器は本っ当に面白いよね」
そう言うハーディアの声にも感心した響きが混じる。やったな、シオン!
読んで頂きありがとうございました!
次話は来週の昼12時に投稿します。
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