来訪者
塩漬けクエストから戻り、ギルド長としての仕事が始まるレオでしたが……
「じゃあ、行ってきますね」
「ああ。よろしく頼むよ」
そう言って俺はルイーザと黄色い翼のメンバーを見送った。勿論、彼らには〈雑用〉の追加効果を付与している。
(俺はしばらく事務仕事かな……)
この前、ホムラを五日開けたせいで溜まった書類がまだまだ残ってる。残念ながら書類仕事に〈雑用〉は発動しないので、地味にやっていくしかないのだ。
(塩漬け依頼は……どれも遠いな)
執務室に戻ってメアリーさんから受けとったリストに目を通す。う〜ん、微妙なものばかりだな。
(ホムラを空ける時間が長くなるとマズイからな……)
ギルド長という立場に加え、俺がホムラにいないと皆に〈雑用〉の追加効果を付与出来ないため、気軽に遠出をする訳には行かない。
(もっと早く移動できれば……いや)
俺がやらなければ行けない事務仕事から目を背けてそんなことを考え始めた時だ。突然、大きな声がホムラに鳴り響いた。
「怪我人です! 誰か!」
これはエレインの声! 一体どうしたんだ!?
バタバタバタ……
急いで駆けつけた先にいたのは怪我をした獣人の子どもだった。
「とりあえず手当ては済みましたが……」
エレインは俺が来るまでの間に手持ちの包帯やらで手当てをしてくれたみたいだ。
「うっ……ここは」
薄汚れ、疲れ果てた獣人の子が頭を振りながら意識を取り戻す。
「あなたはロザラムの道端で倒れていたの。ここはロザラムの冒険者ギルド、ホムラです」
俺とほぼ同時に駆けつけたアイラが獣人の子どもにそう声をかける。
「ホムラ……そ、そうだ!」
ややぼんやりとしていた子どもの意識が急に覚醒し、彼はいきなり起き上がった!
「村が──痛ッ!」
「急に起き上がっちゃ駄目だ。怪我は深くないけど、体の衰弱が酷い」
ハーディアが姿を現して獣人の子にそう声をかける。すると、獣人の子は目を丸くして驚いた。
「と、土地神様!?」
土地神?
「良くわからないけど違うよ。とにかくじっとし──」
「土地神様! どうか村の皆をお助けください!」
獣人の子は“土地神様!”と言いながらハーディアにしがみつきながら懇願し始める。うーん、何がどうなってるのやら……
「魔物が急にたくさん湧いてきて、でもどのギルドもクエストを受けてくれなくて──」
獣人の子はこちらの言葉に耳を貸さずにあれこれと喋り始める。が……
バタ……
突然糸が切れた人形のように倒れてしまった。
「だから言ったのに……」
倒れる前にエレインに受け止められた獣人の子を見ながらハーディアが渋面を作る。
「とりあえず休ませないと。起きたらまた事情を聞きましょう」
エレインがそう言うと皆が頷く。とにかくこのまま放っておくわけにはいかないからな。
(何か事情はありそうだが……)
とにかくこの子が起きるまで待つしかないか。
*
獣人の子──名前をミゲルというらしい──が起きた後、なだめながら話を聞いたところによると要は……
「村の周りで魔物が何故か大量発生して困ってる……ってことか」
だが、近くの冒険者ギルドに依頼を持ち込んだが、相手をしてもらえなかったらしい。それで遠く離れたホムラまでやってきたらしい。
(しかし、”相手をしてもらえなかった“ってどういうことだ?)
依頼を受けてくれる冒険者がいない……とか言う話ならまだ分かる。だけど、冒険者ギルドが受付すらしてくれないっていうのは……
「あ〜、うん。多分、あの子が獣人だからだね」
俺の疑問を表情で察したのかハーディアが言いにくそうに説明してくれた。
「すっごく昔の話だけど……最初精霊守の一族と獣人は仲が悪くてね」
「そうなの?」
アイラが意外そうな声を上げる。どうも彼女も初めて聞いた話みたいだな。ちなみに、今エレインにはミゲルに付いてもらってるからここにいるのは俺とアイラ、ハーディアだけだ。
「まあね……精霊との対話を重視するエルフ達と自身の身体能力を頼りにする獣人じゃ方向性が違っからね。意見の相違ってやつさ」
魔法が得意なエルフと物理攻撃が得意な獣人……まあ、話が合わなくても仕方ないかな。
(けど、実戦ではどちらも大事だし……んなこと言ってられないよな)
魔法を使うにはどうしても精神集中のための時間がいるから、物理攻撃が得意な前衛のサポートは欠かせない。逆もまた然りだ。
「勿論、そんなのは最初だけさ。だって魔物と戦うにはどちらも重要だからね。だけど、一部のエルフはずっとそれにこだわっていて……そう言うエルフと結びつきが強い冒険者ギルドだと獣人はあんまり良い顔をされないんだ」
読んで頂きありがとうございました!
次話は来週月曜の昼12時に投稿します。
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