追憶
「そろそろでしょうか」
「多分。アメリアさんからの知らせがくるはず」
エレインの呟きにアイラがそう応える。とにかく場所が場所だから、否が応でも慎重にならざるを得ない。
(まさかまたここに来ることになるなんてな……)
“!!!”
俺が密かに心の中で呟くと、シオンも同意してくれた。
(シオンと出会った場所だと考えたら悪い場所じゃないはずなんだけど、な)
俺達は今、例の堕ちた大精霊の眠る谷へと来ている。目的はダグラス家に落とされた(?)橋の再建だが、実はもう一つある。
(通る時に見つけたローブの回収……もしかしたらアイラのご両親のものかも知れないんだよな)
いくらご両親の遺品と言えど、通常なら取りに行くなんて考えられないような場所だ。が、橋の修復に辺り、谷全体に精霊を眠らせる結界をかけることになったのだ。
(橋の再建もロザラムの復興支援のための物資を送るためらしいし……本当に感謝しかないよな)
ちなみに谷へ入ると、ハーディアはともかくシオンは眠ってしまう可能性が高いと言われた。まあ、元々谷で眠る大精霊の一部だからな……
「……! アメリアさんからの合図です。行きましょう」
精霊を通じてアイラからアメリアに合図があったらしい。俺達は頷くと、そっと谷へと降りる通路へ入っていった……
*
”……大丈夫。他の精霊の気配さえない。結界が効いてるみたいだ“
周りの気配をうかがいながらハーディアがそう言った。ふぅ……なら、この前みたいに下級精霊とのバトルもせずに済むか。
(危機感知も発動しているが、気は抜けないな)
とにかく場所が場所だ。用心してし過ぎると言うことはない。
“!”
あれ、シオン起きてるの?
”ムムム……この結界でも活動できるなんて、レオの精霊はかなり凄いね“
(そうなのか?)
“成長したってのもあるけど、かなり資質が高そうだ。育てば凄い精霊になるかも”
ハーディアが言うならそうなんだろうな。こりゃ、先が楽しみだ。
「私もシオン様からは高く質の高いマナを感じます。相当な潜在能力をお持ちだと思います」
そう言ってエレインもハーディアに賛成する。エレインは精霊使いという訳では無いが、種族の特徴としてマナに敏感らしい。
(そう言えば、エレインやアメリアさん、ルースリーの里の皆はエルフなんだったな)
耳の形が違うなとは思っていたんだが、俺とは違う種族だったらしい。というか、精霊守を出す部族の里は皆エルフの里だという話だった。
(そう言えば、精霊と人を繋ぐために神に創られた種族がエルフだとか書いてあった本もあったな)
確かホムラにあった古い本だ。神話をまとめた本らしいから、どのくらい信憑性があるのかは分からないけど。
「私にはマナは感じられませんが、シオンちゃんのことは好きですよ」
そんなアイラの言葉にシオンが喜ぶのを感じる。精霊守である彼女はいわば精霊のカリスマだらな。
(アイラは人間とエルフのハーフだからマナを感じられなかったり、耳の形が俺達に近いんだっけな)
アイラのお母さんはダクラス家に生まれた超優秀な精霊使い。だが、人間の男性に惹かれてアイラを授かった。そして……
(ここにいる堕ちた大精霊と戦い、命を落とした……)
ここはアイラにとってご両親が亡くなった場所。内心複雑だよな……
”みんな、そろそろだよ! 気を落ち着かせてね“
ハーディアがこう言うのは、俺達が強い感情を抱くと堕ちた精霊を起こしかねないからだ。まあ、今回は結界がある分、大分危険性が低いらしいけど。
*
それから気をつけながら進んだ俺達は目的ののローブを発見したのだが……
“違うね、これは”
このローブはアイラのご両親のものじゃないのか。
”これは大分古いものだ。今じゃ使われてない術式が付与されている“
今じゃ使われてない術式……だから古いものだってことか。
“だけどこれは……ムムム”
「どうしたんだ?」
”何でこれがここに……それにこの術式……ムムム“
どうしたんだ?
“……これは持って帰ろう。アメリアにも見てもらわないと”
なんか複雑そうだな……とりあえずそっとしておくか。
*
「お疲れ様でした、レオさん」
「お疲れ様、アイラ」
谷から戻った俺達はそのままルースリーの里へ戻った。谷はロザラムよりもルースリーの里の方が近いのだ。
(何かすっかり恒例行事になったな)
今はアイラと二人だけ。夕食後にこうして一日の振り返りをするのが、何か定着してしまったのだ。
「残念だったな。ご両親の遺品が見つからなくて」
「いえ……でも、両親のものでないと分かってほっとしました。胸のつかえがとれたというか」
アイラはそう言って微笑んだが、そんな単純な話でもないだろう。だが、今はそう自分に言い聞かせて気を落ち着かせようとしているんだろう。
「それに一度は行かなきゃと思っていた場所なので……この前みたいに取り乱さずに行けて良かったです」
そっか……まあ、行って良いこともあったなら良かった。
「そうだ。今日もレオさんの子どもの頃の話を聞かせて下さい!」
「あ……今日もか?」
良くわからないが、最近俺の子どもの頃の話を聞くのがアイラのマイブームらしいのだ。
(一体何が面白いんだが……)
だが、聞いているアイラが可愛くてついつい話してしまうんだな。だけど……
「じゃあ、アイラも後で話してくれよ」
「う……分かりました」
実はアイラは子どもの頃はかなり活発だったらしい。子どもの頃の話を聞くと、アイラの意外な一面が覗けるようで楽しい。
「じゃあ、今日は紫苑の話かな……」
「もしかしてレオさんの精霊の名前って……」
こうして俺達は一日の最後にゆっくりとした時間を過ごした。
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次話はエレイン&ルイーザのSS! 来週月曜の昼12時に投稿します!
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