契約
時は少し遡ります……
*時間はレオ達が祭器の部屋に入った直後まで逆上ります。
(ザガリーギルド長視点)
俺達はくそ狭い通路に悪戦苦闘しながら進んだのだが……
(壁!? しまった!)
銀色の壁を見て、俺は自分が鍵を忘れてきたことを思い出した!
(金庫に閉まってあるんだが、慌てて逃げてきたから持ってくるのを忘れちまった!)
やばい、どうするか……
「行き止まり!?」
「ザガリーギルド長、どうしましょう?」
ええい、うるさい! 今考えてる!
(確か精霊の力で封じてあるから力づくでは開かないんだよな……)
勿論、精霊使いなら話は別だが。くそっ……マックスじゃ無理だろうな。
カチャ!
ん? 今の音は……
(あれ! 鍵が空いてる!)
少し押すと今にも壁が倒れそうだ! よし、これなら!
「……行くぞ」
俺は後ろのトーマス達にハンドシグナルを送り、静かに室内に侵入した。
(状況が分からないから静かに……って、うおっ!)
入ると同時に祭器から黒い何かが伸びていく。精霊守か? 何かしようとしてるっぽいな。
「やりあってるな……」
「祭器を取るチャンスがあれば……」
まさしくその通り。だが、祭器はやばすぎるオーラを出して──
カッ!
な、何だ、この光……
「うわっ」「くっ!」
急に発せられた強い光にトーマス達も悲鳴を上げる。が、光はすぐに収まって……
(……祭器の異常が止まった!?)
今まで見るからにヤバいオーラを発していた祭器が今は落ちついている。チャンスだ!
「……何かあったら援護してくれ」
俺は後ろのマックスにそう伝えると四つん這いになって進み始めた。調子が悪い祭器の調整のために色んな物資をほりこんでいたから隠れるものはいっぱいある。
(奴らにも動きがないな……)
精霊守の一行は様子見か……えらそうにレオがいるのは目障りだが、今はそれどころじゃない。
(状況がよく分からないが……祭器を取り戻すのは今しかない)
祭器……ギルド長の証たる意志を持つと言われる武具。俺がそれに選ばれてないのは知っている。だが、そんなことはどうでもいい。俺は上を目指したい! のし上がってやるんだ!
「ハッハッハ! 取り返したぞ、俺の祭器を!」
再び祭器を握りしめた時、俺は思わず歓声を上げてしまった。だが、問題ない。祭器は戻ってきたんだ!
「駄目だ! 今、祭器を動かしちゃ!」
その瞬間、意識が飛んだ。
※
(レオ視点)
ドッカーン!
視界が黒い何かに覆われたかと思うと、圧倒的な力で体はなすすべなく吹き飛ばされる。一体何が起こったんだ!?
“アイラ、レオ!”
”!!“
ハーディアとシオンの声……
フワッ……
二人の声が聞こえた瞬間、体が何か暖かな感触に包まれた。
“今下ろすから待ってて”
ハーディアの声がすると同時に視界が開ける。
(ここは冒険者ギルドの入り口か)
アイラが精霊魔法で魔物達を倒した辺りだな。
(それにしても一体何が……)
あまりに一瞬の出来事すぎて、ハーディアが助けてくれたことくらいしか分からないぞ。
”まあ、ちょっと奥の手をね。おかげで疲れちゃったけど“
奥の手……無理をさせたっぽいな。
「ハーディアが抑えていた祭器を動かしたせいで、暴走が再開してしまったんです。それで……」
アイラが指さした先には建物の屋根よりも高い位置にある魔物と思しき化け物の頭……
「祭器があの化け物になったってことか……」
“正確にはあの魔物の中心に祭器がある感じだね。魔物の体は祭器の力を吸った黒い石そのものだから”
なるほど……
「つまり、あの体をぶっ壊して祭器を取り出せば良いってことだよな」
”それはそうなんだけど……“
ん? ハーディアが言い淀むなんて珍しいな。
「レオ様、既に事態は国家レベルです。ハッキリ言って危険過ぎます。それにレオ様がそこまでの危険を侵す必要はないのでは?」
エリオットがハッキリとした口調でそう言ってくる。あれ、こんなタイプの性格だっけ?
(うーん、確かに理屈ではそうかもな)
俺が依頼を受けたのはアイラの護衛。それを考えれば、現時点でさえ正直やり過ぎてるくらいだ。
(あの化け物をどうこうするってのは明らかに受けた依頼の範囲を超えてるな)
ドライに聞こえるかも知れないが、依頼は仕事だ。契約したことはやらないのは駄目が、それ以上をするのも同じくらいマズい。
(だが、俺はあの化け物を放っとけない……!)
王宮に事態が伝われば、多分王国の騎士団や魔術ギルド、冒険者ギルド本部から相応の戦力が派遣されてくるだろう。だが……
(どんなに早くてもロザラムは壊滅するだろうな……)
俺はそれを止めたい。だが、その理由は……
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
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