敗北
入口の魔物を片付け、いよいよギルドに入るレオ達。その頃、あの人達は……
(ザガリーギルド長視点)
(な、何だよ、この威力は)
ギルドの入り口にたむろする魔物を一掃した魔法……これは精霊魔法か?
(まさかあの小娘……精霊魔法が使えないはずじゃなかったのか!)
俺はある筋から──正体は分からないが、十中八九ダグラス家だ──今の精霊守は実は精霊魔法が使えないと聞いてたのだが……
(まあ、どちらにしても俺には関係ないが……チャンスだな!)
俺は近くの林に入ると、目印の石碑を探し始めた。
(今なら非常用の通路が使える!)
一番ギルドから遠い非常用通路だが、これを使えば祭器のある部屋の近くまでいける。そうすれば、精霊守があれこれやっている内に祭器を取り返すことも出来るかも知れない!
(非常用通路の近くに避難できたのは運が良かった!)
思えばここに避難した時からついていた。最初は何で小汚い場所にと思ったが……
ガコン!
決められた通りに操作すると、非常用通路が現れた。よしよし、これで──
「流石ギルド長! やっぱり切り札があったんですね」
突然かけられた声に振り向くと、そこにはトーマス達が! こいつらどうして……
「水臭いじゃないですか! 突入するならどうして声をかけてくれないんですか!」
は? トーマス、お前何言ってるんだ?
「そうですよ! ミズクサイジャナイデスカ!」
ヘンリー、なぜ片言なんだ?
「だってギルドが潰れたら行くとこが──ムグ!」
トーマスが慌ててマックスの口を塞ぐ。ああ、そう言うことか。
(だがまあ、手が多い方が良い)
こいつらは事務作業などのギルド業務はいまいちだし、気もきかないから普段はイライラしていたが、腕っぷしは確かだからな。
(使えるもんは使わせて貰うか)
しかし、三人とも意外と根性あるじゃないか。見直したぜ。
「じゃあ、行くぞ!」
上手く行ったらボーナスくらい出してやるか。
*
(レオ視点)
(せ、狭い……)
通路は非常用ということもあって、大の大人がギリギリ通れるレベル。鎧をつけているオレだと本当に通れるか通れないかというレベルだ。
「大丈夫ですか、レオさん」
心配したアイラがそう聞いてくれるが、こればっかりは仕方ないよな。
「ありがとう。まあ、長くはないだろうし、大丈夫さ」
エリオットの説明ではこの非常用通路は地下にあるため、目的地まで最短経路になっているという話だ。多分二〜三十分くらいでつくだろうから……
(ん、これは何だ?)
目の前に銀色の扉が。終点かな?
(押戸か?)
ノフがないから押すのかと思ったが、そうでもない。うーむ、これは……
「どうかしましたか?」
足を止めたからだろう。アイラが声をかけてきた。
「実は……」
目の前の状況を説明すると、アイラは勢いよく頷いた。
「封印ですね! 外部から侵入者が入れないようになってるんですよ。大丈夫です! 開けられます!」
そうか……助かった。
「じゃあ、前行きますね」
そう言ってアイラは身を乗り出……ってオイオイ!
(っ!!!)
狭い通路のせいでアイラの体が嫌というほどオレに密着する。しかも、彼女はそこら辺に無自覚らしく、壁に背を向けて通ろうとするのだ!
(………)
鎧をつけているので潰れそうなくらいに押しつけられる胸の感触はない……意識しないことはないが。だが……
「……本当に狭いですね」
必死で前へ行こうとしているアイラの側でこんな馬鹿なことを考えてる自分を情けなく思わないでもないが……無理もないよな?
「うっ………んッ!」
少し息を弾ませるアイラの顔がすぐ近くにあるのも精神衛生上よろしくない……
「やった、片足が!」
アイラの左足がオレの左足を越えた。簡単に言えば、彼女の細い足をオレが両足で挟み込んでいることになる……
「あとちょっと……レオさん、窮屈な思いをさせてごめんなさい」
いや、謝るのはオレの方だよ……
「あッ! ……何か引っかかって」
………
「え……あ、ごめんなひゃい!」
……………
「えっと、さっさと通ってしまうので!」
アイラは焦って……いや、急いで通り抜けようとするが、急に通路が広くなるわけでもない。
ガサガサ、ガサガサ……
結果として、単にオレにアイラの体がより押しつけられるだけとなる。そうすると、その生理反応として……
「ひゃん! ……ご、ごめんなさい! 変な声だして!」
もはや何も考えられない。考えたら負けだ。
(どこかに当た──)
止めろ! 考えるな!
「やっ……アッ……っっ!」
身動きする度にアイラの口から声が漏れる。アイラの防具は薄絹のような素材で出来てるからこれだけ密着すると感触が直に伝わってしまうんだろう……
(……ハーディアに殺される)
とにかく何があっても今だけはあの過保護精霊に心を読まれてはいけない!
「ふぅ……やっと抜けました」
それからたっぷり五分間くらい格闘し、アイラは何とか俺の前へ出た。
(ふぅ……何か気力を全部持っていかれた気がするな)
持っていかれたのは気力じゃないだろって? 余計なお世話だ!
ガタン!
壁から何かが外れる音がした。開いたみたいだな。
「……じゃあ、私後ろに戻りますね」
何!
「……私、気にしませんから」
アイラはそう言うと俺に背を向けて後ろに戻り始めた。
(何を気にしないんだ……?)
そんな余裕があったのは最初の数秒だけ。背を向けるということはつまり、今度は俺にアイラのお尻が押しつけられるということだ。俺は再び敗北の味を噛みしめることとなった……
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
◆お願い◆
「面白い」「悪くないな」「まあ次話を読んでみるか」等などと思われた方、ブクマやポイントをポチッとして頂けれると筆者のモチベが爆上がりします。是非ご一考下さいませm(_ _)m




