最後の扉
レオの言葉にアイラが出した答えは……
「今、準備が終わったところだ」
「じゃ、上に行こうか」
ハーディアが俺を背に乗せ、住民の避難所になっている倉庫の屋根へとジャンプする。
(まんべんなく〈糸弾〉を巻けたみたいだな)
かなりMPを消費したらしく、頭がクラクラする。念の為にMPを回復させるポーションをもう一本飲んでおくか。
「アイラはどんな感じだった?」
「集中してるよ。悪くない感じだ。ありがとう」
「いや、大したことは出来てないよ」
もしかしたらちょっと感情的になりすぎたかな? 年とってる癖に恥ずかしいぜ!
「今までにないくらい真剣だった。いや、あの娘はいつも真面目なんだけど……」
「いい意味で緊張していたって意味か。それなら良かった」
今のハーディアは大型犬くらいの大きさになっている。魔力は体の大きさに比例するらしいから、多分万が一の時はフォローするつもりなんだろう。
「……! 来たみたいだ」
ハーディアがそう言うと同時にアイラが姿を現した。
(頑張れ、アイラ!)
いや、既に頑張ってるんだけど。ただ何でもそうだが、最期の扉は自分で開けなければならないんだ。
(自分を信じるんだ。アイラに足りないのはきっとそれだけだ……!)
*
(アイラ視点)
見渡す限りの魔物にびっしりと巻きつけられた白い糸……多分レオさんだ。
(後でお礼を言わなきゃ……)
でも、今は魔法を使うことに集中しなきゃ。私は周りにいる精霊に意識を向けた。
(感じる……精霊達の動き)
皆、私の方を注目している。これだけの騒ぎの中、自分達に目を向ける存在がいたら当たり前かも知れないけど……
(でも、レオさんの言っていた通りだ)
疑うわけじゃないけど、レオさんが言ってくれた“精霊は皆君を気にかけている”って言葉、あの時は素直に信じることが出来なかった。けど、もしかして……
(……凄いな、レオさんは)
精霊使いになって間がないのに、こんなに精霊のことが分かってるなんて……
(それに比べて私は……)
私のお母さんは火と水の二種類の属性の精霊魔法を使う凄い精霊使いだった。
(ルースリー家とダグラス家の血を引いてるといっても滅多にあることじゃないってアメリアさんも言っていたな)
母さんは人間の父さんと結婚したことで周りからは非難されたけど、それも私が生まれてからは下火になった。皆の関心は私の力に移って行ったからだ。
(だけど、私は……っ)
昔は私にも精霊の声が聞こえていた。けど、ある時を境に聞こえなくなった。それは父さんと母さんが死んでしまった時……
(谷に封印されている狂った大精霊……あれが襲ってきた時、父さんと母さんは里の皆と全力で戦った……)
精霊使いの里全てが総力をつぎ込んで戦った大決戦。私達は大きな犠牲を払いながらも何とか勝利したんだけど……
(父さんと母さんは帰って来なかった……)
聞くところによると、父さんと母さんが大精霊に決死の攻撃を仕掛けて倒したらしい。私は当時住んでいたダグラスの里で、英雄の娘として褒め称えられた……最初のうちは。
(皆は私に嘘をついたんだ……)
精霊達が教えてくれた。父さんと母さんが大精霊に決死の攻撃を仕掛けて倒したというのは嘘だと。父さんと母さんは自らの死と引き換えに発動できる禁忌の精霊魔法で倒したのだ。
(私の父さんと母さんを殺したのは精霊達……)
いつも私に優しく囁いてくれる精霊達。父さんと母さんが死んでしまってからは今まで以上に構ってくれた。けど……
(なら、どうして私の大事な父さんと母さんを守ってくれなかったの!?)
理不尽なことを言っているのは分かってる。本当は精霊に怒ってるんじゃない。精霊を恨む自分が一番腹ただしいんだ。
(だけど、どうにもならなくて……ぐるぐるそんなことを考えてるうちに精霊魔法が使えなくなった……)
精霊魔法が使えなくなった私は、ただの混血児。里長からは人の血が混じった半端者は用済みと言われ、ダグラスの里から追い出された。
(そんな私を拾ってくれたのがアメリアさんやルースリーの里の皆……)
みんなは私が母さんにそっくりだといって可愛がってくれた。精霊魔法が使えない、役立たずの私なのに。
(でも、どこか怖かった……また見捨てられるんじゃないかと思って)
ルースリーの里の皆は本当に優しくしてくれた。そう感じたのは私のせい、私の問題……
(だから、精霊守に選ばれた時は嬉しかった。これで皆に恩が返せると思ったから)
ルースリーの里は精霊使いの里の中でも小さく、あまり栄えてはいない。でも、精霊守が出たら話は変わってくる。私は初めて皆の役に立てると思ったんだ。
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
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