祭器とアイラ
ロザラムに入ってレオ達が見たものは……
それから俺達は孤児院の守りをエレインとザガリーギルド長に任せてロザラムに入り、情報収集を始めた。当初は苦労すると思ったのだが、魔物の気配はほとんどない。が……
(こ、これは一体……)
気配はないが、目の前には見動き一つしない魔物が……これは一体何なんだ?
「生気がない……これって……」
「動かない……生きてるんでしょうか?」
アイラやルイーザも困惑してるな。無理もないが。
“よく分からないけど、今がチャンスだ! 早く行こう!”
……確かにそうだな。
「行こう、二人共」
「行きましょう!」「はい!」
俺達はいつ動くとも知れない魔物達の間を警戒しながら進むと……
「皆さんが避難してるのは、あそこです」
ルイーザが指したのは商人ギルドの倉庫だ。なるほど。大人数が隠れるにはもってこいだな。
(確かこんな感じで住民が避難している何箇所かあるんだったな)
皆無事だといいが……
ビィィン!
な、何だ、この音!?
「……うっ!」
急によろめき、倒れ込みそうになったアイラを抱き止める。一体どうしたんだ!?
”こ……これは祭……器が“
ハーディアまで!
「レオさん、魔物が!」
ルイーザが指さした魔物の指が痙攣するように震えている。しかも、そいつだけじゃなく、他にの魔物達も同じように動き始めている!
「あんたら! 早く避難しな! 奴らが動き出す時間だ!」
避難所の家根から男性が鳴り物を鳴らしながらそう叫ぶ。
(時間? 動き出す? 何の事だ?)
だが、そんなことを考えている場合じゃない。俺はアイラを抱えたまま、避難所へと走った。
「ギャギャ!」
「ギィギィ!」
動き出した魔物──見た目はゴブリンに近いが、肌の色が違うし、額にも角がある──が騒ぎ出す。ヤバい、囲まれる!
「〈フラッシュ〉!」
その瞬間、ルイーザの妨害系のスキルが発動! 動き始めた魔物は彼女が発した閃光に目をやられてのたうち回る!
「ナイスだ、助かった!」
「レオさんのくれた先制(妨害スキル使用時)のおかげですよ。それより早くいきましょう!」
確かに! 奴らの強さは分からないが、数が違いすぎる。俺達は苦しむ魔物を尻目に急いで避難所へ向かった。
*
バタン!
俺達が入ると、避難所のドアが勢いよく閉められた。ふぅぅ、何とか間に合った。
「あんたら、外から来た人か?」
「助けがくる?」
中にいた人達が集まってくる。皆不安と希望が入り混じった顔をして、口々に思い思いの言葉を発してくるのだが……
(先ずはアイラをどこかで休ませないと……)
アイラはまだ一人で立つことすら覚束ない。原因は分からないけど、とにかく……
「済まないが、まずは仲間を休ませたい。どこか場所を借りれないだろうか」
周りを見回しながらそう言うと、先程屋根の上にいた男が手を挙げた。よく見れば、それなりに年を取り、落ち着いた印象の男性だ。
「なら、こっちへ」
「ありがとう」
案内されたのは医務室ってぽい部屋だ。他にも人の気配がする。
(ルイーザにはアイラについていてもらおうかな)
アイラを寝かせた後、俺は屋根の上にいた男から情報交換を持ちかけられた。
(この人は商人ギルド長。で、今はここを仕切ってるのか)
道理で……
また、外の魔物についても情報があった。
(魔物は普段身動き一つしないが、さっきみたいに一定時間ごとに動き出す。だから、ここから身動き出来ないのか)
だが、魔物の数が多すぎる上に、魔物が動き出す間隔は段々短くなってきているらしく、手が出せない状態だったらしい。
(俺達の情報は出しても構わないかな)
ここにいる人達は幸い物資は豊富にあるが、閉塞感と不安に押し潰されそうになっているらしい。
「せ、精霊守の一行! ありがとうございます」
「先遣隊だから数は少ないが」
過度な期待は持たないように釘を指したあと、俺はアイラの様子を見に行った。情報交換にはそれなりに時間を使ったため、もう昼を少し過ぎている。
「すみません、レオさん」
アイラはベッドから起き上がっていたが、顔色は良くない。
「気にするな。それよりもう少し休んだ方が良いんじゃないか」
“そうだよ。事情はボクが説明しておくから”
「でも……!」
アイラは首を振るが、ハーディアは譲らない。
”鍵はアイラだ。だから、今のコンディションじゃだめなことは分かってるでしょ“
鍵?
“とにかく休んで。ボクがレオと作戦を練っておくから。ルイーザ、アイラをお願い”
「分かった」
「分かりました、ハーディア様!」
二人がそう答えると、ハーディアは具現化した。確かアイラから離れるときは具現化しなきゃいけないんだったな。
「行こう、レオ。話したいことがあるんだ」
話したいこと……さっき言っていた「鍵」と関係があるんだろうか。
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
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