折衝
待ち受けていたのは白旗を上げたダグラス家の工作員。想定外の事態にレオは……
ダクラス家は敵だが、子どもを見捨てるわけにもいかない。行く方向も同じなんだったらついでに助けても良い気がするが……
「………」
ハーディアの表情は微妙だ。ただ、アイラは“絶対助けたい”って言うだろうから、二人をアイラのところへ連れていけば話は早い。が……
(ハーディアが納得しないよな)
俺としてはハーディアの気持ちは結構分かるからあんまり無下にはしたくないな。
(……二人の願いを聞くことでアイラにプラスがあると分かれば、ハーディアも納得しやすいかな)
何やかんやでハーディアの行動の理由はアイラだ。彼女のためになると思えば少しは気持ちが変わるだろう。
「……ところで君達はロザラムまでどうやって行くつもりなんだ? 途中で魔物の大群に襲われる可能性もあるんじゃないか?」
「私達だけが使っている隠し通路があります」
双子の片割れが鞄から地図を取り出し、ここからさほど離れていない場所を指さした。
「絶対に安全だとまでは言えませんが、魔物に見つかりにくいルートです」
「そんなものがあるのか?」
俺が首を傾げたのは魔物に見つかりにくいルートの存在じゃない。そもそもいわゆる道というものは魔物の生息域等を加味してつくられた、いわゆる魔物に見つかりにくいルートなのだ。
(けど、そんな都合の良いものがゴロゴロ転がってる訳はないからな……何処へ行くにも安全な道があるわけじゃない)
皆が血眼になって探しても中々見つからない、それが安全なルートと言うものだ。なのにそれを秘密裏に持っている組織があるなんて……
「詳しくは分かりませんが、精霊の力を借りて道を水脈から遠ざけることで魔物を遠ざけているとか……」
さっき地図を出したのとは違う方の子がそう説明してくれた。肩にかかるかかからないかまで髪を伸ばした二人は服装も似ているため、パッと見は見分けがつかないが……
(あ、髪飾りの色が違う)
いかん、いかん。話に集中しよう。
「水脈を操作……そんなことが?」
「……精霊使いが得意な属性は一族毎に大体決まってる。ダグラス家は水属性だから不可能じゃない。勿論簡単じゃないけど」
俺の疑問にハーディアがそう答えてくれた。ううむ、ということは安全性には期待出来るのだろうか。
(あれ……そう言えば、今“精霊使いが得意な属性は一族毎に大体決まってる”って言ったよな)
エレインの得意な属性は火、アイラは水。何で違うんだ?
「ここからなら私達のルートを使えば三〜四日程度で着けると思います」
だが、俺の小さな引っかかりを吹き飛ばすような発言が双子から飛び出した!
「さ、三〜四日!?」
五日はかかると思ってたんだけど……
(時間のかかる難所を避けられるのか……なるほど)
これならハーディアが納得することも可能かも知れない。ロザラムに早くに着けることはアイラにとって大事だし、道中安全なことはもっと重要だからな。
「……アイラやエレインにも聞いてみようか」
様子を見ながらそう言うと、ハーディアも渋々といった感じで頷いた。
「まあ、この子達はダグラス家の使いであって血族ではないし、危険性は低いかな。でも、今の話に嘘があればやっぱり殺す。いいね?」
「……勿論です」
二人が生唾を飲む声が聞こえた気がした。
※
アイラとエレインのところにエリオットとエルシィ──例の双子の名前だ──を連れて行った後、結局皆で二人の言うルートを進むことになった。
(しかし、アイラはともかくエレインまで大賛成とはな……)
アイラが行方不明な時にザガリーギルド長に食ってかかったくらいだから、こんな話に乗ってこないと思ったのだが……
“えらいっ! 是非協力してあげましょうよ! だって、この子達可愛いし!”
てな感じで、疑うどころか端から協力する気満々だったのだ。
(エレインって美人だし、剣技もスキルも凄いからデキる女って感じがしてたんだが……結構残念な部分も多いな)
それはともかく、結局二人に先導されるままにロザラム近郊のグラス孤児院に向かうことになったのだ。
(まあ、今のところ特に問題はないか)
二人が教えてくれたルートはギリギリ馬車が通れるくらいの広いとは言えない道だったが、魔物の気配はなく、順調に進むことが出来た。
カンカン!
時折道の端に設置されているランプが馬車に当たって乾いた音を立てる。エレインは上手く馬車を操っているが、とにかく道幅がぎりぎりなのだ。
「水脈を操作する魔法を維持するための魔導具です。僕も詳しいことは分かりませんが」
何も聞いてないのに、エリオットがそう教えてくれた。えらく気を張ってるな……
“……低級の精霊を呼び寄せる力があるみたいだね。まあ、水属性の子にしか効果はないみたいだけど”
アイラの傍にいるハーディアはエリオットから目を離さない。気を張ってるのはそのせいかもな……
「これだけ数があると整備だけでも時間がかかりそうだな」
「孤児院の子の仕事になってます。他にも色々……」
なるほど。孤児院の子達は労働力になってる訳だ。
(子どもの数は分からないが、この数の魔導具の整備は大変だろうな)
働かざる者食うべからずとは言うものの、年端も行かない子どもがやるには大変そうだな……
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
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