孤児院
無事クルモ村を立ったレオ達を待つのは……
馬車を停め、俺とハーディアで近づいた先には何とも不可解な光景が広がっていた。
(道の真ん中で白旗を掲げて土下座をしている二人組……一体何者だ?)
いや、それより何でこんな訳の分からないことをしているのかを聞くほうが先なのかもしれないけど。
(子ども……か?)
背丈だけでは判断できないが、子どもだろう。十代前半といったところだろうか。線も細い。
「一体何のようかな? 急いでいるから道を開けてほしいんだけど」
具現化したハーディアは低い声で威圧するようにそういうと、二人は体をびくりと振るわせた。
「も、申し訳ありません」
「ぶしつけで申し訳ありませんが、どうかおご助力頂けないかと……」
声を震わせながらそう話す二人を見ていると、何だかこちらが悪者みたいになってくれな……
(とりあえず話だけでも聞いてみるか?)
”仕方ないね……でも、魔法で拘束する準備だけはしておいて“
いつも以上にハーディアは容赦ないな……
(気が立っているからかな)
まあ、見るからに怪しいし、こんなところで時間を食ってる訳にも行かないもんな。
「とりあえず顔を上げて。話だけなら聞くから」
「「ありがとうございます」」
そう言って顔を上げた二人は瓜二つ。双子かな? 整った顔立ちは中性的で性別はちょっと分からない。
「私達はダグラス家のものです」
なっ!
「ですが、精霊守のご一行のお邪魔をするつもりはありません」
ん?
(あ、もしかしてそれで白旗なのか?)
まあ、それが本心からなのかは分からないけど……
「えっと……邪魔しないから助けてほしいってこと?」
「随分虫のいい話だけど……ボクを舐めてるのかな、君達は」
ハーディアから放たれていたプレッシャーにハッキリと怒気が混ざる。その影響はもはや精神的なものには留まらず、万物の命を止める凍気となり、二人の周りの土を、空気を凍らせていく……
「……お怒りはごもっともです。私達二人は皆様からいかなる仕打ちでも受ける覚悟です」
「で? だから、水に流せと? 君達の命とアイラの命がまさか等価だとかと思ってるんじゃないだろうな!」
ハーディアの怒りが膨らむたびに周囲の気温が下がる。地面を覆う霜ももはや二人の指先にまで届きつつある。
「ま、待ってくれよ、ハーディア。気持ちは分かるが少し落ち着いてくれ」
無理なことをいってるとは思う。だが……
「アイラはこんなこと望まない。それはハーディアが一番良く知ってるはずだ」
「………」
凍結が止まり、周りに温度が戻っていく。ふぅぅ……少し落ち着いてくれたか。
「……本来なら氷漬けにして放置するところだけど、アイラに免じて見逃してやる」
「「………」」
二人はただただ頭を下げている。何を言ったら分からないというより、何も言えないという方が正しいだろうな。
「だが、アイラに何かしようとしたらその時は殺す」
「構わない。その時は俺も一緒にやるよ」
俺の答えに満足したのか、ハーディアは体を横たえる。多分、俺に話をしろってことだろう。
「で、君達は何に困ってるのかな?」
※
「なるほど……君達はクルモ村を見張っていたのか」
夜、ブルーボアがクルモ村に押し寄せた時にいた二人はこと一部始終を見ていたらしい。
(で、ブルーボアの大群を寄せ付けなかったのは精霊守がいたからって思った訳だ)
まあ、妥当な判断だろう。こんな冴えないおっさんのスキルだとは思わないよな。
(この子らの話を聞く限り、やっぱりブルーボアはあの木の柵に頭をぶつけて死んだんだ)
村を取り囲んだブルーボアは柵を破ろうとひたすら突進。死ぬまで突進し続けるってのは少し気の毒だが、呆れる点でもある。まあ、小細工なしの突進こそが奴らの長所でもあるんだが。
(それにしても孤児院か……)
二人はロザラム近郊にある孤児院の出身。しかし、この孤児院が何とダクラス家のものらしいのだ。
(要は情報収集等々をするときの拠点であり、工作員の養成所でもあるってとこか)
二人の認識としては孤児院を出るときにダグラス家での仕事を紹介されたという程度のものだが、恐らくこの子達以外にも声はかかっているのだろう。
「幸い私達の任務がグラス孤児院及びロザラムの現状確認なので様子を見にいけるのですが、小さな子達の保護は任務に入っていないんです……」
「……勿論、任務に入っていたとしても私達では何ともしようがないですけど」
つまり、クルモ村みたいに自分達が生まれ育ったグラス孤児院を守って欲しいってことか。
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
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