後悔
少し時間は遡り、あの人の話になります……
(ザガリーギルド長視点 : 時間的に少し前)
(蛍草……そう、蛍草だ。蛍草さえあれば)
Bランクダンジョン、『赤蛇の密林』。ここの採取ポイントで蛍草は採れる。まあまあなレア素材だが、何箇所か回れば……
「……あった!」
運良く魔物に出会わずに採取ポイントまでたどり着いた俺はトーマス達に周囲を警戒させ、早速採取を開始した。
(……くそっ、ないか)
まあ、レアリティを考えれば、いきなり見つかる訳がない。急いで次に……
「ザガリーギルド長、もう戻りましょう!」
次の採取ポイントに移動するように促すと、トーマスが血相を変えた。
「そうです! これ以上はもう!」
「ここにはアイツが出ます! 俺達だけじゃ──」
続けてヘンリーとマックスも騒ぎ出す。確かに今の俺達じゃ、この『赤蛇の密林』にはいるのはヤバい。いや、ホムラのエースであるオスカーでも危険すぎるダンジョンだ。
「んなことは分かってる! だが、魔導具に反応はない。まだ行ける!」
『赤蛇の密林』に出る最も危険な魔物、アカカガシは音もなく人に襲いかかる。そのため、奴の接近に反応して僅かな音をだす魔導具、赤鳴子が欠かせない。
「ですが……」
「だから、ちょっと採取するだけだ! 最初からそう言ってるだろ!」
無謀なのは分かってる。でも……
(だが、やるしかない……)
「……分かりました」
「……」
コイツらは元腕利きの冒険者。ここで言い争うことの危険性は十分に分かっている。だから、俺が引かない姿勢を見せると渋々従った。
(やっとここまで来たんだ! 諦めるわけには行かないだろ!)
俺は特別なんだ。冒険者としても実績を残した上に、ギルド職員になってからはすいすい出世! そして遂にギルド長にまで登り詰めたんだから!
(やれ、やり方が汚いだのと勿論陰口を叩く叩くやつはいるが、そいつらは分かっちゃいないんだ!)
“資格もないのにギルド長になった恥知らず”、“お飾りのギルド長”……数えればきりが無い。だが、それは全部やっかみ。出来ない奴らの僻みだ。
(言いたいやつには言わせておけばいい。とにかく実績。やり方の良し悪しなんて二の次三の次! 実績を上げれば、誰も何も言えなくなる)
だから、俺はギルド長になってからも手を抜かなかった。ギルドの収支改善に若手の育成……それを成すためにかなり強引な手を使ったこともあるが、とにかくホムラは見事Aランクにまで登りつめた!
(今はDランクへ降格したが、また上がればいい。それだけだ!)
そして、その復活の鍵が蛍草。なら、何としてでも──
「……間もなく採取ポイントです」
トーマスの声がする。よし、ささっと採取して……
カタカタカタカタ……
(ん……何だ、この音は)
この『赤蛇の密林』で一番重要なのは耳を澄ませること。何故なら、このダンジョンで最も危険な魔物の接近を魔導具が音で教えてくれるから。
「……魔導具が!」
「不味い、奴だ!」
何だと!? 採取ポイントはもう目の前だぞ。何でこんなタイミングで!
「先に戻れ! 俺は採取してから逃げる」
「駄目です! でる前に約束したじゃないですか!」
俺はトーマスの制止を振り切って走り出す。採取ポイントはすぐそば。そう、もうすぐそこなんだ!
※
「ザガリーギルド長、まだ痛みますか?」
痛い……だが、大分マシだ。俺は軽く首を振る。正直痛みよりも大きな問題がありすぎる。
(くそ……後一歩だったのに)
ギルド長室の天井をみながらそんなことを思う。が、今回ばかりは命があっただけマシだ。それでも……
「今後のことを考えないとな」
「「「今後……」」」
トーマス、ヘンリー、マックスの三人は何とも言えない顔をした。
「ギルド長、もう……」
「何だ?」
俺の言葉にトーマスが押し黙る。
(どうせ“あきらめろ”とか言うんだろ……)
だが、そういう訳にはいかない。せっかくここまで来たんだ。蛍草……蛍草さえあれば!
「……お困りのようですね」
不意に発せられた声。誰だ?
「誰だ!?」
「申し訳ありません。ノックはしたのですが」
気配など全くなかったはずだが……
「お力になれるかも知れないと思うのですが……」
何だって!?
「状況は概ね理解しています。要は祭器が正常化すればいいんでしょう?」
「祭器が正常化!? できるのか!」
俺は思わずその怪しい男の話に耳を傾けてしまった……
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
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