クビ

(ザガリーギルド長視点)

　メアリーから語られた内容は耳を疑うようなものだった……というより、正直未だに信じられない。

(レオが精霊守と共に現れた、だと！？)

　しかも、精霊守はレオの実力を高く評価し、ロザラム滞在中の護衛にしたいと言ってるとか……

(よく分からないが……馬鹿な小娘だな)

　聞くところによると、まだ精霊守になったばかりと聞く。レオ以外の冒険者を知らないんだろう。

(大方、たまたまルイーザを救ったところを見て誤解したんだろう)

　まあ、直ぐに化けの皮が剥がれるさ。

「ギルド長、どうしますか？」

　ん？

「どうするというのは何だ？」

　出来るだけ優しく言ったつもりだったが、メアリーはますます困惑した表情になる。一体どうしたんだ？

「いえその、レオさんは当ギルドの職員ですから、幾ら精霊守と言えど勝手に護衛にされては不味いのでは……」

　ああ、そういうことが。確かに業務については直接俺が命令を下すといつも俺がうるさく言ってるもんな。

「心配するな。あいつは首にした」

「えっ！　く、クビですか！？」

　安心するかと思ったんだが……どうした？

「クビというのは……つまり解雇というわけですか？」

「そうだ」

　メアリーの表情がさらに固くなる。何故だ？　

(あいつは受付嬢からの評判も悪かったし、メアリーの評価も低いと思っていたが……)

　まあ、あいつを評価してる人間なんて、このギルドにはいな──

「……分かりました。なら、急いで人を雇いましょう。そうですね……二十人くらい雇えば穴は埋まると思います」

　は？

「あ、勿論正規雇用ですよ？　今までは騙し騙しやって来ましたが、もう無理です。このギルドはレオさんが一手に雑用を引き受けてくれていたから成り立っていたんですから」

　何だって！？

「おいおい。まさかレオが二十人分の仕事をしていたとでもいうのか！？　あいつは他の受付嬢からも悪い話しか聞いてないぞ！」

「それは若い子が雑用を軽く見ていて、荒くれ冒険者を黙らせるトーマスさん達をチヤホヤしているからです。実際、トーマスさん達は逆らう冒険者を怒鳴るだけでほとんど仕事はしていません。全てレオさんがやってくれていたんです」

　そんな馬鹿な……

「レオさんが膨大な雑用をこなしてくれるお陰でうちは人件費が抑えられ、収益があがっていたんです。レオさんのおかげでうちのギルドはAランクになれたと言っても過言じゃありません」

　いやいや、そんなはずは……

※

(レオ視点)

　ふぅ……参った。

(あのエレインとかいう娘、全く話を聞いてくれないんだもんな……)

　アイラは俺に対する態度に怒っていたが、俺はエレインに対して悪い感情はない。むしろアイラに対する高い忠誠心に感心さえしている。

(まあ、後は……ちょっと戸惑ってるかな)

　口を開けば“顔だけはいい”とか“見た目がいいからと言って騙せると思うな”とか褒めてるのか貶してるのかよく分からないことを言うのだ。

(しかし……からかってる訳じゃないんだよな、あれ)

　ギルドでは団子っ鼻で通っているんだが……

(とにかく宿を探すか)

　メアリーさんは申し訳なさそうな顔をしていたが、やはりクビはクビらしく、もう寮にはいられないのだ。

(まあ、別に困らないけどな)

　実は今までに狩ったアウルベア亜種やクロムレイヴンの素材の一部を売ったらかなりの金になったんだ。

(装備を新調するか……)

　今のところ出来そうにないが、アイラの護衛をするには最低でももう少しマシな防具が欲しいからな。

(先のことを考えて、少し良い物を買うか)

　実はぼんやりと冒険者への復帰も考えてる。勿論、アイラの護衛が終わったらの話だが……

(このLvならこの歳でも馬鹿にされることはないしな)

　少し強気になっているのには理由がある。実は得たばっかりのスキル、〈ステータス操作〉が予想以上のチートスキルだったのだ。

(まだ分からないこともいっぱいあるが……これはヤバい)

　ちなみにスキルの説明文はこれだ。

◆◆◆

〈ステータス操作(Lv1)〉

　SPを自由に振り直すことが出来る。尚、レベルに応じて操作出来る範囲が広がる。

◆◆◆

　分かるだろうか、このヤバさが。普通、SPは振ったら戻すことは出来ない。だから〈雑用〉のスキルLvを上げるために使ったSPは戻ることはない。だが、この〈ステータス操作〉があればそれが出来る。つまり……

(スキルを自由につけ外し出来るってことだ)

　流石の俺でも少し調子に乗ってしまうくらいにはヤバいスキルだということは分かってもらえただろうか。ちなみに俺はつけているスキルは……　

「あ！　レオさん！」

　アイラだ！