窮地と覚悟
強敵に加え新手まで来る窮地……どうする、レオ!?
(アイラと一緒に新手の相手を頼めるか?)
“でも……分かった。無理はしないで”
一人で相手をするには危険だと言いたかったんだろう。確かにその通りだ。
「ルイーザ、離れててくれ」
そう言いながら、俺はヤツとの間合いをはかりながら反応を観察する。
(!……あれって)
観察を続けるうち、俺はヤツのことに気がついた。
(あの顔の傷跡、何処かで見たような)
確か……そうだ。俺がやられたアウルベアの顔にもあんな傷が
(ってことは、こいつは俺が冒険者をやめるきっかけになった……いや、待てよ)
亜種というのは突然変異。つまり、先天的に起こるものだ。原種が亜種になるなんて話は聞いたことがない。
(たまたま同じ傷があるだけか? いや……)
いや、考えても仕方がない! 今は戦闘に集中しないと!
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
アウルベア亜種は俺に向かって豪快に腕を振るう。一見ただのゴリ押しに見えるが、とんでもない。体格に勝るヤツから見れば、最も有効な戦術だ。
(しかも何て威力だ……危機感知が発動しっぱなじゃないか)
危機感知が毎回発動している。つまり、食らえば死ぬ攻撃が連発されているのだ。
(マズイ……決め手がないな)
唯一の希望が〈ブースト〉だ。スキをみて叩き込みたいのだが……
“レオ! 大丈夫?”
ハーディアか!
(……今のところは。そっちは? アイラは?)
“大丈夫。それよりルイーザから伝言が”
(ルイーザから?)
実はハーディアはアイラを異性として意識した相手の心を感知することができる。なので、何か伝えたい時には申し訳ないがそれを使う。といっても、“足細いな”とか“髪がサラサラで銀糸みたいだな”といったレベルだし、緊急時にしか使わない。
(要はハーディアが最初に声をかけてくれば、後は心の中で会話が出来るんだよな)
ちなみに相手の心に語りかけたり、相手が伝えたいと思っていることを読み取る力は精霊として当然の能力らしい。まあ、精霊には基本実体がないので、そんな力でもないと生物と会話出来ないよな。
“詳しい話は後! とにかく……”
ハーディアは早口で話し始めたが……オイオイ、それはルイーザが危ないだろ!
“……そろそろだ! 遅れないで!”
抗議する間もなく、ハーディアは会話を切る。クソッ……やるしかないか!
カッ!
俺の背後から突如強力な閃光が放たれる! その光量は圧倒的で背を向けているはずの俺でさえ、目を閉じたくなるほどだ。
「ッ!」
アウルベア亜種は目を閉じ、うっとおしそうに頭をふる。当てずっぽうに腕を振っているのは俺を警戒しているのだろう。
(けどっ……)
俺はそんなものに当たるような馬鹿じゃない! 後ろをとって……
「〈ブースト〉ッ!」
「!!!」
スキルを発動した瞬間、ヤツは俺の存在に気づき、体を捻る。だが、避けることは出来ず……
ズバンッ!
俺の剣がヤツの胴体に風穴を開けるが、急所は外れてる。クソッ! しくじったか。
(だが、かなりの深手だな……)
即座に反撃されるかと思ったのだが、アウルベア亜種は俺の方を睨むばかりで向かっては来ない。だが……
(動いたッ!)
ブンッ!
アウルベア亜種の動きには慣れてきたこともあって今度は完全に動きが先読み出来た。しかも……
ザクッ!
回避ついでに一撃加えることも出来た。そして、このやり取りで俺はあることを確信した。
(コイツ、かなり弱ってるな……)
〈ブースト〉で撃破することは出来なかったが、今のコイツは力、スピード共に俺といい勝負だろう。
(次で決まる……)
コイツも今のやり取りで自分がかなり弱体化していることは自覚したはず。さっき力、スピード共に俺といい勝負だとは言ったが、次は多少無理しても自分の全力に近い一撃を繰り出そうとするはずだ。
(窮鼠猫を噛む、か)
手負いの魔物ほど恐ろしいものはない。今逃げるのが賢い選択だろうな……
(何て今までなら考えてたかもな……)
コイツに深手を負わされ、自分の限界を悟ったその時、俺の心は折れた。馬鹿にされたり、笑われたりしても、決して疑わなかった自分の可能性を自ら捨てたんだ。
(でも、今は違う)
サポートしてくれたルイーザ、何やかんやで俺を構ってくれるハーディア、それに……
(アイラが失望する顔は見たくない……)
俺は弱い。けど、弱いからこそ、そんな俺を認めてくれる仲間がいなくなるのは嫌なんだ!
(仲間がいなくなる恐怖に比べれば、お前なんて!)
死ぬのは怖い。でも、孤独に戻るのは最も怖いんだ!
(だから、……俺は逃げない!)
読んで頂きありがとうございました!
次話は明日の昼12時に投稿します。
◆お願い◆
「面白い」「悪くないな」「まあ次話を読んでみるか」等などと思われた方、ブクマやポイントをポチッとして頂けれると筆者のモチベが爆上がりします。是非ご一考下さいませm(_ _)m




