護衛
〈ザガリーギルド長視点〉
不味い
マズイマズいまずい
あのエレインとかいううるさい護衛を黙らせるために「精霊守を無事に保護した」と言ったら、今度は「早く精霊守と会わせろ」とうるさく言うようになったのだ。
(精霊守が見つかれば黙ると思ったのに……)
会わせればいい? 馬鹿言っちゃいけない。実はまだ見つかってはいないのだ。勿論、見つけるつもりだし、捜索隊も出している。祭器のメンテをしてもらわなきゃならないからな。
(だからとにかく黙っててくれよ……別に俺達が責任を持って探すと言っているんだから構わないだろ?)
仕事なんだから人に振れるならそれでいいじゃないか。それとも精霊守のことを個人的に大切にしてるとか言うのか?
(全く……俺は今手一杯なんだよ)
まだ日は高いが、俺の周りには酒瓶が転がっている。褒められたことではないが、呑まねばやっていけない……問題は精霊守の捜索だけではないのだ。
(状態異常にかかるようになったり、攻撃が通じなくなったり……一体何が起こってるんだ!?)
先日ホムラのエース、〈剣術〉持ちのオスカーを始めとした多くの冒険者が状態異常耐性の低下からクエストを失敗した次の日、今度は魔物の防御力が異常に上がってるという知らせが入ったのだ。
(一体何が!? いや、それよりも、このままではノルマを満たせない……)
冒険者ギルドはクエスト達成率や持っている戦力でランク分けがなされている。我がギルド、ホムラは現在Aランクだが、このままではランクダウン確実だ。
(何とか……何とかしないと)
俺は再び酒瓶をあおる……が、もう酒がない!
(くそっ! どいつもこいつも!)
何もかも上手くいかない……一体どうなってるんだ!
※
〈アイラ視点〉
「まあそんなこんなで非正規職員なのさ」
レオさんから語られた身の上話はとんでもないものだった。
(こんなに強くて優しいレオさんがそんな扱いを受けるなんておかしい!)
怒りを感じると共に尊敬の念もある。酷い環境でも自分のすべきことをきちんとやり遂げる……何て尊いことだろう。
「でも、これからは違うでしょ? これだけ強くなったら冒険者としてもやっていけるし」
「どうかな? もう四十前だしな」
四十前……十分若いんじゃ?
エルフだと百歳まではみんな若者で、なんなら子ども呼ばわりされることさえあるし。
(それに十分若々しいし……何より格好いい)
思わずこんなことを考えてしまう自分が恥ずかしい……駄目だ。私、なんか舞い上がってるよ。
「マナも良い感じで循環してるし、体調面は十分じゃないかな……」
ハーディアも同じ意見みたい。人間の年齢の基準はよく分からないけど……
「そうなのか? そのマナの循環ってのがよく分からないんだが」
マナの感知は精霊や純血のエルフの特権みたいなところがあるし、いくらレオさんでも難しいよね……純血のエルフではない私も苦手だ。
「ねぇ、レオ。もし暇ならギルドに着いたあとも護衛とかで手伝って貰えないかな」
「護衛……ロザラムに着いても心配ってことか?」
ハーディアの言葉にレオさんは不思議そうな顔を浮かべる。えっ、何でだろ……
(私達と一緒にいるのが嫌なのかな……確かに大して役には立ってないし)
違う違う! レオさんは何で護衛が必要なのかをハーディアに尋ねてるんだ! 私の話はしていない!
“その通りだよ、アイラ。普通、ロザラムに着いたら大丈夫ってみんな思うんだ。だって、ダグラス家とのことはレオは知らないんだから”
っ!
(そうか。でも、レオさんには嫌われたくないし、あまり詳しくは知られたくないな……)
“まあ、それでレオがアイラに対する態度を変えるとは思えないけど……まあ、任せといて”
(ハーディア、ありがとう)
良かった……とりあえずハーディアに任せよう。
「行きに襲ってきたのは対立するダグラス家。奴らは流石にロザラムにいるうちは襲って来ないかもしれないけど、帰りにはほぼ確実に来る。で、急に帰るって事態もありうるから……」
「なるほど。ロザラムの中でも警戒はいるし、すぐに動けるようにもしておく必要もあるんだな」
す、凄い。ハーディアの意図を一瞬で理解するなんて……
“そうだね。レオは話が早くて助かるよ”
本当は全てを話して協力してもらった方がいいのかも知れないな……




