ありがとう
アイラと少し歩くことになったレオでしたが……
「この辺りも少し分かるようになってきましたね」
「ああ」
皆のところに戻る前に俺達は二人で散歩することになった。
(村から近いし、大丈夫か)
あの黒い炎を纏った奴を倒してから、森はすっかり静かになっている。ハーディアも“少なくとも辺りには魔物の気配もないね”と言ってたくらいだしな。
(綺麗な森だな……)
月明かりに照られた森は幻想的な雰囲気がある。きっと長い間、エントに見守られながら育って来たんだろうな。
(けどやっぱり……)
どんなに美しい景色でも、そこにアイラがいればもう主役ではいられない。背景になってしまう。
(”美人は三日で飽きる“とか言うけれど……あれは嘘だな)
いや、もしかしたらアイラが綺麗過ぎるのかも知れない。アイラは普通の“美人”の範疇を超えてるもんな。
「どうかしたしたか、レオさん?」
「あっ……いや」
変なことを考えていたせいだろうか。アイラが不思議そうな顔をした。
「綺麗だな……って」
「確かに。綺麗な森ですよね」
アイラは俺の言葉に頷いてくれたが、はっきり言えばそれは誤解だ。だが、俺はそれを訂正することなくアイラの言葉に頷いた。
「アイツから森を何とか守れたのかな……」
アイツとは勿論、黒い炎を纏った謎の存在だ。正体は不明だが、アイツがいたら遠からずこの森は無くなっていただろう。
「大丈夫ですよ。レオさんとハーディアが結界で閉じ込めた上にエントが見張ってくれているんですから」
正直俺はアイツに対する不安が拭いきれない。が、アイラがそう言ってくれるとそんな気がしてくる。それは多分、彼女が精霊守だとかいうこととは関係ない……
「レオさんは凄いですよね……スタンピードを止めたり、獣人達と仲良くなったり。それにこの森だって守って……」
「みんなの力だよ。俺がしたのはそんなに大したことじゃないさ」
これは本心だ。俺一人の力じゃない──というか、みんなが力を貸してくれなかったら何も出来ていないのだ。
(大体俺の〈雑用〉ってそう言うスキルだしな)
誰かにスキルや力を付与するということは一緒にやってくれる人がいないと意味がないと言うことだ。そう言う意味では俺じゃなくて力を貸してくれたみんなこそが讃えられるべきだと思う。
が……
「レオさん、でもその”みんなの力“を集めたのもレオさんなんですよ?」
「……?」
「レオさんが言うからみんなスタンピードを何とかしようと思ったんですし……獣人達が信じてみようと思ってくれたのもレオさんだからです」
……
「確かにやったのはみんなかも知れません。でもそれはレオさんがいたから。レオさんがいなかったら皆が集まることも協力することもなかったんですよ」
いくら何でもそんなこと………とは言えなかった。何故なら俺に訴えるアイラの眼差しがあまりに真剣で、必死だったからだ。
(俺がいたから……)
そう……なのか? だけど、ついて来てくれた皆への感謝は本物だ。
(でも、別にみんなへの感謝と“俺がいたから出来た”ってのは矛盾しないんじゃないか)
俺がいたから皆が集まったのだとしても、協力してくれたことに感謝するのは自然で当たり前のこと。別にどちらかしか成り立たないものじゃないんだ。
(俺がいたから……か)
そう考えるとの皆への感謝が薄れるような気がしていたが、良く考えたらそれは勘違い。そんな勘違いのせいで俺は自分の成したことから目を背けていた……のか?
(……まだ良くわからないな)
自分がやったとか自分だからやれたとか考えたことが久しくなかったから良くわからない。けど、分かっていることが一つある。それは……
「ありがとう、アイラ」
俺のことをそこまで真剣に考えてくれていることに、そしてそれを全力で伝えてくれたことに。そして何より……
「今まで俺を見ていてくれて」
アイラはずっと俺を見ていてくれた。出会った時からずっと。そのことは他の何より明らかだ。
「これからも見てますよ。ずっと。ずっと……」
アイラの顔が近づいてくる。それが何を意味するのかは分からないけど、分かってる。目を閉じた彼女の細い指先が俺の指と絡まって……
ギンッ!
その時、唐突に何かの視線を感じた。
読んで頂きありがとうございました!
次話は来週の昼12時に投稿します。
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