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【改正版】正しい聖女さまのつくりかた  作者: みるくてぃー
スチュワート編(二年)
53/120

第53話 思い出作りの(恐怖?)旅行

「うみだぁー!」

 わーい。

 一人、別荘のテラスから見える大海原に気分がハイテンションになるが、なぜか隣で不安な表情を見せるココリナちゃん達。

 ミリィ達のように、普段から大声を出す事はダメだと教育されているならわかるが、ココリナちゃん達が一緒にノッてくれないのちょっと寂しい。


 夏休みに入り、思い出作りにと私とミリィが企画したその名も『すぺしゃる旅行』。

 ここ、エンジウム公爵領の南に位置するエンジウム家所有の別荘に、イリアさんを含めた仲良しスチュワート6人組と、ミリィ達ヴィクトリア3人組でやってきた。


「あの、私たちも本当にこちらに泊めて頂いても大丈夫なんでしょうか?」

 ココリナちゃん達を代表して、イリアさんが心配そうにルテアちゃんに尋ねる。

「えぇ、大丈夫ですよ。ここはミリィちゃんやアリスちゃんにとっても実家の持ち物のようなところですし、今回は皆さんに気を使わせないよう別荘には私たち()()しかおりませんから」

 前にも言ったかもしれないが、ミリィと私のお義母様は元エンジウム家のご令嬢。その関係で夏場や季節のいい時期には家族でここに遊びに来るのも珍しくない。

 ただ、今回違うのは別荘にいるのは私たち子供ばかりで、メイドさんを含め大人達は誰一人として来ていない。


「ですがその……私たちだけと言うのは聞いておりませんでしたので」

 イリアさんはあの事件以来クリスタータのお屋敷に一人戻る事になった。

 当初はお母さん側が男爵家の方に反抗していたようだが、結局イリアさんの学費を無断で使い込みした件や、お兄さんがリコちゃんに手を出した件を突き付けられ、『育児適正不足』と『貴族条例法』により親権がクリスタータ家へと渡る事になった。

 両親が再婚同士で子供との血のつながりがないとはいえ、3年以上共に暮らした経験がある場合、国が定めた法で親としての適正がないと認められれば、親権を義親や実家の親族へと強制的に移す事が出来るんだそうだ。

 あとは貴族間に定められた条例で、犯罪を犯した者はその一族も共に責任を負わなければならないという、非常に厳しいルールが定められており、今回イリアさんのお兄さんは物の見事にこの条例に当てはまってしまった。

 まぁ、一族全員で責任を取れとは言われているけど、実際はトカゲの尻尾切りで『罪犯した者は我が一族ではない!』と見捨てられるのが一般的。

 国側も犯罪を抑制するための条例なので、本気で一族を路頭に迷わそうという考えはなく、それぞれ一族の対応を黙って見守っている事が多いんだそうだ。


「それは私たちへの警備が心配って意味? それなら大丈夫よ。元々公爵家の別荘があるここへは誰も近寄ってはこないし、見えない場所で護衛の騎士達が見張っている。

 それにもし不審な人物が近づくような事があっても、この辺り一帯にはアリスが侵入者を感知する結界を張っている上、ここには剣を使える私とパフィオが居るんだから、そう簡単にはやられないわよ」

「はぁ、本来なら驚くような言葉がサラッと飛び出していましたが、とりあえず一旦スルーさせてもらい、一先ず安心させては頂きますが……」

 何だか歯切れの悪い言葉を残し、イリアさんが口ごもる。だけどミリィの回答に納得出来ていないのか、ココリナちゃんがイリアさんに変わって質問を投げかける。


「そうじゃなくてですね。私たちだけでどうやって3日間も過ごすというのですか? 勿論私たちがベットメイクやお支度のお手伝いはさせていただきますが、ミリアリア様や皆様が普段召し上がっておられるようなお食事だけは作れませんよ? 私が作れる料理といえばせいぜい一般の庶民が食するものなので、とても皆様が召し上がっておられるような豪華な食事は不可能です」

 まぁ、普通そう考えるよね。

 ココリナちゃんの言葉に賛同するように、リリアナさんとカトレアさんも同じように首を縦に振る。

 私たちがスチュワートで習っているのはあくまでも接客や掃除等の家事全般だが、その中には調理や庭師などの学科は含まれていない。

 さすがに食事に関しては専門知識がいるし、庭の手入れなどはどうしても力仕事が必要な為、スチュワートでは専門のクラスが用意されている。

 つまりココリナちゃん達に王族であるミリィ達に食事を作れというのは、かなりハードルが高いのだ。


「私は別にココリナ達が作る料理なら庶民的なものでも構わないけど、残念ながらそんな心配はいらないわ。

 一応今回は私とアリスが企画したすぺしゃるな旅行だから、客人である貴女達を調理場に立たすつもりもなければ、私たちのお世話をする必要もない」

「……そ、それじゃ誰が一体?」

 恐る恐るといった感じでイリアさんが尋ね返す。


「貴女達スチュワート組のお世話は私たちがするから安心しなさい」

 ブフッ

「わわわ、私()()!?」

 若干、いやかなり驚いた様子でイリアさんを含めるスチュワート組が慌て始める。

 実は今回皆んなには内緒にしていたのだけれど、カトレアさんのお世話をルテアちゃんが担当し、イリアさんをリコちゃんが、ココリナちゃんをミリィがし、そしてリリアナさんを私が担当することが既に決まっている。

 事前に知らせなかったのはミリィ曰く、『その方が面白そうだから』だそうだ。


「ななな、何をおっしゃっているんですか!? 私がお世話をするならいざ知らず、リコリスさま……いえ、リコが私のお世話をするなんて有りえませんわ。

 それに食事はどうなさるんですか、皆様を調理場に立たしたとあれば私たちが叱られてしまいます」

「だから口うるさいメイド達がいないんでしょ? 第一アリスが言い出したことを今更覆せるとでも思う?」

「うっ、それは不可能な気がしますが……」

 いやいやいや、なんでそこに私が出てくるかをミリィに問いただしたい気もするが、イリアさんも何故そこで納得するかも問い詰めたい。


「皆さん諦めてください、全部アリスちゃんとミリィちゃんが計画した事ですから。それに私も一度メイド服を着てみたかったんですよ? これを着て旅行中はカトレアさんのお世話をしちゃいますね♪」

 ルテアちゃんがそう言いながら鞄から自分専用のメイド服を取り出し、ニコニコの笑顔でそう告げる。

 ルテアちゃんは前々から私の制服を着てみたいとか言ってたもんね。スチュワートの制服は、エプロンとカチューシャを付ければメイド服に様変わりする便利な機能付き。実はご令嬢の中でも密かに一度はメイド服を着てみたい、という人は多いんだ。


「パフィオには申し訳ないけど今回は私たちの方に入ってもらうわ。スチュワートに通って貰っているとはいえ、子爵家のご令嬢って事で我慢して」

「は、はい。私は別に接客側でも構いませんし、むしろその方が精神的に助かります。ですが、私は一体何をお手伝いすればよろしいので?」

「基本は私とアリスの手伝いをお願いするわ。ホントはずっと二人に付き添えればいいのだけれど、私たちは皆んなの食事も作らなければならないから、一時的に離れないといけないのよ」

「ミリアリア様が食事を!? ……ですか?」

 話を聞き終えたココリナちゃん達が驚きの表情を表し、代表でイリアさんが声を上げる。


「一応今回の料理長はアリスよ。勿論私も手伝うけど期待していなさい」

 この時、誰にも気づかれないようそっと胸をなでおろすルテアちゃんとリコちゃんの姿が目の端に映る。

 二人はミリィの料理の酷さを身を持って体験しているからね。


 あの事件が起こったのは昨年の夏休みだっただろうか。

 一度私のおかし作りを手伝ってもらった事があったのだが、それ以来なにかと理由をつけては私を手伝うようになり、ある日ルテアちゃん達がお泊りに来た日に手料理を振る舞った事があった。

 最初は私の作った料理を美味しい美味しいと食べてくれたのだが、ミリィが作った謎の物体を口にした瞬間、二人はそのまま気を失った。

 幸いルテアちゃんの回復は早かったのだけれど、リコちゃんはそのあと三日間もルテアちゃんの癒しの奇跡にお世話になったというのだから、その破壊力はある程度想像つくだろう。

 私に助けを求めなかったのはミリィの事を気遣っての事らしい。


「だ、大丈夫なんですか? そ、その……よりにも寄ってミリアリア王女とアリスさんにお任せするなんて……」

「心配しなくても、アリスちゃんが作るお料理は美味しいですよ。アリスちゃんの()()は、ですけど」

「えぇ、アリスの料理()()は私も保証しますわ。それによく効く胃薬も用意しておりますから、安心して気を失ってください」

「い、いぐすりぃー!?」

「気を失うってなんですか!?」

 二人の話を聞き、イリアさんとココリナさんが恐怖に顔を引きつらせながら同時に声を上げる。


「大丈夫だよ、命さえ落とさなければ私が癒しの奇跡で治してあげるから」

「「「「「……」」」」」 


「さっきから気を失うとか癒しの奇跡で治すとか、なに三人でおかしな事を言ってるのよ」

 ミリィは自分が狂気的な料理を作っている自覚がないからね。私たちが何を言っているのか分かっていないんだろう。

 うん、とにかくここは私が頑張らないとだね。


「とりあえず私、みんなのお腹を守れるように頑張るからね」

「アリスちゃん頑張ってね。私応援してるから!」

「お、お願いしますわアリスさん。皆様の前で気を失うなどといった醜態を晒すわけにはまいりませんから」

「わ、私も応援しますので頑張って下さいね」

「こ、これってまるで罰ゲーム……あ、いえ、なんでもありませんわ」

 それぞれ多少顔が引きつりながらも、心の奥から必死に応援されるのであった。

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