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【改正版】正しい聖女さまのつくりかた  作者: みるくてぃー
スチュワート編(一年)
37/120

第37話 暴走、ココリナちゃん

「……ですから告白はされたんですがお断りしたんです。ぐすん」

 すっかり涙目のリリアナさんを囲み、アルベルトさんとの甘酸っぱい恋バナを聞き終えた一同。

 その話は何故か幼少の頃へと遡り、淡い恋心から今の状況まで事細かく聞き出してしまったココリナちゃん。話の途中で私たちもつい盛り上がってしまい、知らぬ間にココリナちゃんを後押ししてしまったが、一度話が終了してしまうと次第に次の標的が自分へと回って来るのを怯え、各々すぐさま防衛体制にはいる。

 因みに先ほどやって来られたティアお義姉様から、逃亡防止用に部屋に結界を張るよう脅され……コホン言われたので、現在私が精霊達にお願いし、内側からは出られないよう封術されている。

 若干抗議の意味も込めて、ミリィ達が『聖女の力を無駄遣いするな』と必死に訴えていたが、お義姉様の笑顔の下では誰一人逆らえなかったのは言うまでもあるまい。


「うんうん、身分違いの恋、燃えるよね。私リリアナさんの事を応援するからね!」

「い、いえ、ですのでこの話はきっぱりとお断りしたと……」

 弱々しく否定するリリアナさんを後目に、一人熱意に燃えるココリナちゃん。

 リリアナさんの話ではお仕事体験の初日に、公爵夫人(ウィステリア様)の口からアルベルトさんの恋心が暴露され、そのまま告白タイムへと進んだのだという。

 だけど近くにリリアナさんのお母さんも居たのと、本人も自分の立場を分かっているだけに直ぐその場でお断りしたらしいが、前々からリリアナさんの事を我が子のように可愛がっておられたウィステリア様が諦める訳もなく、切り札として幼少の頃から書き続けている本人秘密の日記を何故か持っておられ、全員の前で恥ずかしい内容を読み上げられたのだとか。

 お陰でアルベルトさんとの仲は急接近したものの、本人同士は顔を合わすごとに赤面し、周りは周りで勝手に盛り上がってしまい、知らぬ間に話が膨れ上がってしまっているんだという。

 ココリナちゃんが言っていた『学園を卒業と同時に花嫁修行が始まる』と言う話も今日初めて知ったんだとか。

 うん、流石にそれは恥ずかしいよね。その時のリリアナさんの姿が見れなかったのは残念だけど、お仕事体験初日から恥ずかしさの余り3日間も寝込んでしまったと言う事なので、その乙女心だけは察してあげたい。



「それじゃ次は最近気になる二人の関係。いつの間にそんなに仲良くなったのか!? ツンデレことイリアさんと実は一番ピュアな心の持ち主、リコリス様の馴れ初めの話〜。私的には女性同士の恋もバッチこいなので心配しないでください」

 一人やたらと盛り上がるココリナちゃん。

 リコちゃんの表面しか知らない者からすれば、なんて恐ろしい事を言っているのかと思うかもしれないが、ココリナちゃんの言う通りリコちゃんの分厚い仮面の下は、誰よりも優しく純粋な心の持ち主。それが侯爵令嬢という仮面のせいで、厳しく近寄りがたいリコちゃんが出来上がってしまっている。

 それにしても数回しか会っていないと言うのに、リコちゃんの仮面の下を見抜くとは、ある意味ココリナちゃんの観察眼は恐るべし。若干ミリィが狼狽えているが、今の私ではこの意味が分からないでいる。


「あ、貴女ね! 私はともかくリコリス様になんて口の利き方を。第一誰がツンデレですか」

「な、なんですかその女性同士の恋ってのは。って言うか、誰が一番ピュアな心の持ち主なんですか!」

 うん、二人とも明らかに動揺しちゃっているね。

「惚けても無駄です。イリアさんのツンデレは既に周知の事実。あのカトレアさんですらもはや怖れる存在でなく」

「い、いえ、十分怖いですが……」

「リコリス様の内面はミリィ様から面白可笑しく伺っておりますので」

 ブフッ、ミ、ミリィーー!!

 さっきの狼狽えた様子は、この事がバラされてしまう事からの震えだったのだろう。リコちゃんに睨まれながら、パフィオさんの後ろに素早く隠れてしまった。

 ごめんねパフィオさん、うちのミリィがお世話になって。リコちゃんに睨まれて震え上がる姿は見なかった事にしておくね。


「それじゃ話して頂きましょうか、二人の愛を!」

「あ、あいぃーー!?」

「ココリナさん、貴女何か勘違いしておりますわよ。私とリコリス様とはそんな関係ではありませんわ」

 リコちゃんには珍しく、今まで聞いた事がないような悲鳴が飛び出し、意外と冷静を保ったイリアさんがその後に続く。

「私はただお仕事体験の際にリコリス様に良くしていただいただけです。そこをどう考えれば愛などという言葉に繋がるんですの」

「ふふふ、墓穴を掘りましたね。百歩譲って恋愛関係は無かった事にしましょう」

「れ、れんあいぃー!?」

「しかーし、愛は愛でも友情の愛!」

 ピクッ

「あのイリアさんが他人を庇い、リコリス様が仮面を被るのを忘れて素に戻っているのが何よりの証拠!(ビシッ!)

 この私の腐りきった脳細胞が分析するに、アリスちゃんがイリアさんをやたらと構うのに嫉妬してしまったリコリス様が、『ちょっと、私のアリスを取らないでよね!』と告げ、二人は対立状態に突入。やがて戦いの中で友情が芽生え出して、いつしか二人はお互いを認め合う仲に!」

 うん、さすが物語が大好きなココリナちゃん。

 本人が言っているように脳ミソが腐りきっているね。


「はぁ……あのねココリナ、リコは私が頼んでイリアを指名させたの。内面がピュアなのは今の様子を見て分かると思うけど、アリスがイリアを気にかけているからと言って嫉妬するとか、自分の感情に任せて他人と対立するとか、リコに限ってはまず有りえないわよ。

 貴方もおおよその見当はついているでしょうけど、この前のお仕事体験は目的は別にあったの。第一あのリコが戦いで友情を芽生えさせるとか、確証もないのに他人を認めるとか考えられないわよ」

 流石にココリナちゃんの暴走に責任を感じたのか、ミリィが途中で口を挟んで止めに入る。

 確かにミリィの言う通り、リコちゃんが感情で動いてしまうのは私たち4人に関してしか考えられない。それでもいつも冷静に一歩下がって私たちをフォローし、正しい方向へと導いてくれるのが私たちが知っているリコちゃんだ。

 少々ミリィから飛び出した言葉に気になる点はあるが、ここはミリィの言う通り感情に任せて他人を非難するとか、たった数日同じお屋敷にいたからと言って、あのリコちゃんが認める人物なんてそうそういない筈……。


「な、なな、なんでご存知なんですの!?」

「「「……はぁ?」」」

 リコちゃんから飛び出した言葉に、私とミリィとルテアちゃんの声が見事に重なる。

「ふふふ、ついにボロを出しましたねリコリス様。この私に隠そうとしても無駄な事です」

 クイっと、エアメガネの如く人差し指で目と目の間を持ち上げるココリナちゃん。

「あ、貴女一体何者なの!?」

「たった一つの真実見抜く、見た目は美少女、頭脳は残念、その名は……なりきり名探偵、ココリナ!」

 おーパチパチパチ

 決めゼリフと何だか分からないポーズに思わず自然と湧き上がる拍手の音。

 少々自分で美少女とか、頭脳が残念とか言っているのを突っ込みたい処ではあるが、せっかく盛り上がった雰囲気を壊すのも悪いかと思い押し留める。


「えーっと、念のために確認するけど、確かリコにお願いしたのはイリアにあの件を口止めする事だったわよね」

「はい……」

 すっかりその場で項垂れてしまったリコちゃんを、ミリィが頭を押さえながら声をかける。

「それがアリスの事でつい嫉妬してしまってイリアと対立……いえ、何かキツイ言葉を言ってしまったと」

 無言で小さく頷くリコちゃん。

「貴女の事だからすぐに良心の呵責かしゃくに追われ後悔したんでしょ? それをイリアが上手い具合に受け止めちゃってお互い仲良くなってしまったと」

 コクリ。


 一体ミリィが何をリコちゃんに頼んでいたかは知らないが、先ほどまでの威厳がすっかり消失してしまったリコちゃんを、頭を押さえたミリィが困った様に見守っている。

「リコリス様は何も悪くございませんわ、全ては私を思ってくださっての事。ミリアリア様が何の事をおっしゃっているのかも大体が想像出来ますので、誰にも他言しないとこの場で誓わせて頂きます。ですからどうかリコリス様だけはお許しください」

 リコちゃんを庇う様にイリアさんが真横に来て、ミリィに頭を下げながら必死に何かを謝罪する。

 恐らくミリィもまさかイリアさんがこの様な堅苦しい対応をしてくるとは思っていなかったのだろう、長年一緒にいる私やルテアちゃんしか分からないだろうが、明らかに戸惑い、次の対応に困った様子が見えてくる。


「えい!」どーん。

「きゃっ」

 突然とも言えるココリナちゃんの行動。背後からリコちゃんとイリアさんがいる方へとミリィを突き飛ばす。

 まぁ布団の上だから怪我をする事もないんだろうが、一国の王女様を背後から突き飛ばすとか、ココリナちゃんの暴走が止まらない。

「ちょっ、ココリナ。急に何をするのよ」

 リコちゃん達と重なり合うように倒れたミリィがココリナちゃんに抗議するも。

「こんな時は女の子同士、肌と肌を触れ合って友情を深めるのが一番なんです。それじゃアリスちゃんもどーん!」

「えっ? きゃっ」

「リリアナさんもどーん」

「えっ、私も!? きゃっ」

「カトレアさん、逃げても無駄です。ルテア様と一緒にどーん」

「待ってココリナさん、きゃっ」

「あ、カトレ……きゃっ」

 ココリナちゃんの魔の手が密集していた私たちを次々襲いかかり、リコちゃんとイリアさんを一番下に、重なり合うよう積み重なる。

 残る一人はパフィオさんだけなのだが中途半端な立場上、王女様や上級貴族であるリコちゃんやルテアちゃんの上に積み重なってしまうのに恐怖を感じたのか、うっすら涙を溜めてフルフルと首を左右に振っている。

 しかし、ココリナちゃんがそんな事を許すはずもなく結局パフィオさんを魔の手が襲う。


「うぅ、重いです」

「ちょっ、どこ触っているのよリコ」

「えっ? すみません。思うように体が……」

「きゃはは、ルテアちゃんそこダメ、あはは」

「カ、カトレアさん、胸を、胸を揉まないでください……あぅ」

「ご、ごめんなさい。そんなつもりは」

「パフィオさん、足が絡んで。そこは……動いちゃダメ」

「ご、ごめんなさいリリアナさん、今どきますので」

「逃がしませんよー」

「「「「「「「「きゃーーー」」」」」」」」


 その後、ますます暴走したココリナちゃんに全員が襲われた事は言うまでもあるまい。

 翌朝、ティアお義姉様が部屋を訪れた時には、パジャマがはだけた少女達が無残な姿で眠り続けていたという。

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