ユニークスキルについて説明してもらおうじゃないか
発見したスキルカードをバッグにしまうと、ユーリの表情は元に戻っていた。普段とは変わらない本音を隠した笑みを浮かべている。
「せっかくここまで来たんだ。奥に行かないか?」
先ほどのモンスターは巨大なスケルトンのようなユニークモンスターと同等の強さを持っていた。
強力なモンスターが守る通路。その先には貴重な鉱石やスキルカード、または武具が落ちている場合が多い。探索協会からの依頼を達成したからといってすぐに戻ってしまうのは、もったいないとユーリは感じていた。
「ワタシはどちらでも良いです」
モンスターを倒した今、危険はほとんどない。話を聞いた里香は判断を正人に委ねた。
「反対かなぁ~。早く戻らない? お家に帰って寝たいなぁ~」
いつもは意見を言わない美都が反対する意志を表明した。
警戒するように目を細めてユーリを見ている。
「賛成と反対にそれぞれ一票入ったな。正人はどうする?」
「ダンジョンで手に入れたアイテムは協会に没収されますか?」
「いや。依頼内容には含まれていない。こいった場合は、発見した探索者の好きにしていい」
「では、奥に行くのに賛成します」
先ほどの暗い笑みは気になるが、少しでもお金を稼いでおきたい正人は奥に行く決断した。稼げるときに稼ぐ。弟の生活を支えているからこそチャンスは逃すつもりはないのだ。
「よし、行こう! 先頭は任せたぞ」
こっそりと逃げだそうとした美都の腕を掴んだユーリが号令を出した。彼女が逃げだそうとした理由が知りたかったが、奥に眠っているであろう貴重なアイテムが気になり正人は指摘しなかった。
「わかりました」
返事をすると正人は探索と罠感知のスキルを使いながら歩き出す。
「お嬢ちゃんは行かないのか?」
「後ろを警戒します」
「……わかった。後ろは頼んだ」
ユーリは嫌がる美都を引っ張って歩き始める。
その後ろ姿を眺めながら里香も後を追うのだった。
◇◇◇
ダンジョンのトラップやモンスターは出現しなかった。すぐに通路を抜けると広場に着く。正人のスキルに反応はない。中心にはフラスコ瓶が一つあった。中には赤い液体が入っている。
「いかにも罠がありそうな配置だが……」
「大丈夫です。スキルに反応はありません」
警戒しているユーリに正人が答えると安全だと証明するために一人で奥に進む。
地面に置かれたフラスコ瓶を手に取った。
「これ、何の液体なんでしょうか……ね」
「わからんな。回復ポーションでもなさそうだ」
美都を連れて正人の隣に立ったユーリが答えた。
過去に傷を治す回復ポーションと呼ばれる薬品は見つかったことがあるが、液体は青色だったので違う。他に似たような薬品が見つかったという報告はなく今回始めて発見された物だ。
「一旦、俺が預かって調べる。それでもいいか?」
「ええ。それでもいいのですが分配金はどうします?」
「もし売れる物だったら正人のパーティに金額の半分渡そう。それでいいか?」
「問題ありません。それでお願いします」
赤い液体の調査をする手間を考えるのであれば、売上の半分をもらえれば十分だ。いくらになるかわからないが正人は分配について不満はなかった。
「他にはなさそうですし、そろそろ戻りましょうか」
フラスコ瓶を手渡すと正人はユーリに背を向けて里香の方に向かっていく。
「待て」
肩に手を乗せられて止められてしまった。
「なんでしょうか?」
不穏な気配を察した正人は肩に乗せられた手を振り払ってから振り返る。いつでもナイフが抜けるように、腰に手を回した。
反抗的な態度を取られたことに対してユーリは不快感は示さず、むしろ楽しそうにしている。
「ここに邪魔者はいない。正人が覚えているユニークスキルについて説明してもらおうじゃないか」
「人前で話すことではないです」
「そんなこと言うなよ。川戸のスキルは教えてやっただろ。いいじゃないか」
あれは取引でしたよね。と、突っ込もうとした正人だったが言葉を飲み込んだ。「能力を盗んでよいとまでは許可してない」などと反論されるのがわかりきっているからだ。
「気軽に言わないでください。ユーリさんだって隠し事の一つや二つありますよね? それを今この場で言えますか?」
「言える……が、お前を巻き込みたくないので教えない」
「…………」
後ろ暗いことを考えている。ユーリの警告に含まれた意味を感じ取った正人は黙ってしまった。弟に里香、さらに冷夏やヒナタ。守るべき者が多く、だからこそ危険には敏感にならなければいけない。
モンスターとの戦いで命を落としてしまうのであれば、まだ納得は出来る。だがユーリの計画は、その範囲に収まらない。正人にはそんな予感があった。
「それにお前が言わなくても予想は付いている。超レアな瞬間移動に他人と同じユニークスキルが使えるとなれば、一度見たスキルをコピーする能力。もしくは、それに近しいものだろ? まあ細かいことはどうでもいい。重要なのはスキルカードを使わずにスキルを覚えられる、その一点だ」
「…………」
川戸のスキルを使った言い訳が出来ず、再び無言になる正人。その姿を見たユーリは自信の考えが当たっていると確認する。
「その無言が肯定していると受け取っておこう」
口元を上げてニヤリと笑い、ユーリは話を続ける。
「それと、俺はクソッたれなヤツらとは違う。誰にも言わないから安心してくれ。嘘だと思ったらこの場で俺を殺していいぞ」
「……誰かに言ってしまうメリットはありません。信じますよ」
「ありがとよ」
答え合わせが終わったユーリは正人の肩から手を離すと部屋から出ていく。片手剣を抜こうとしていた里香にウィンクをするだけで通り過ぎ、巻き込まれないように通路から様子をうかがっていた美都に近づく。
「自由は欲しくないか? 俺を手伝えば望みは叶えてやれるぞ」
「……あんた、何考えているの?」
いつものノンビリとした口調ではない。緊張感が含まれた声だった。
美都の耳にユーリの口が近づく。
「俺たちを使い潰すのを当然の権利だと勘違いしているヤツらに復讐したいと思わないか?」
「ッ!!!!」
詳しいことはわからないが、ユーリが探索協会を破壊しようと企んでいることに気づいてしまった。
「そんな無謀なことを……」
「協力するよな?」
お互いに見つめ合い、沈黙が流れる。しばらくして美都が口を開いた。
「勝算はあるの?」
「入念な準備さえ出来れば。そのためには美都の力が必要だ」
「自由になる。その約束は守れる?」
「もちろんだ。俺は、あのジジィどもとは違う」
「…………その話にのるわ~。自由を手に入れるもよし、逆に破滅するのも楽しそうよね~」
覚悟を決めた美都は普段の口調に戻ると、ユーリの首に腕を回して抱きしめる。
「でもね、裏切ったら殺すから」
「好きにしろ」
外から見れば仲の良い恋人に見える二人だが、お互いに物騒な約束をするのだった。






