実はあるんだよ
沖縄ダンジョンが出現した鍾乳洞の入り口に、正人と川戸が立っていた。周囲には数台のパトカーが待機しており、警察官が立ち入り禁止の黄色いテープをまいている。
騒然とした状況の中、正人はスマホを取り出して里香と通話していた。
「――でね。警備が薄いことに疑問を持たず、沖縄ダンジョンに入っていったよ。ユーリさんの計画通りに進んでる」
「分かりました。そっちに向かっているので待機しててください。あ、ユーリさんからの伝言です。合流したらダンジョンに入る。今のうちに休んでおけ、とのことです」
「分かった。待ってるね」
短く返事をして終了ボタンをタップすると、正人は自動販売機で缶コーヒーを二つ買う。川戸の隣に立つと一つ差し出した。
「運転お疲れ様でした」
「助かる」
川戸は正人から受け取ると、プルトップを押し込む。口をつけてゴクゴクと勢いよく飲むと、砂糖で甘くなったコーヒーが口いっぱい広がった。
「美味い。疲れた体に染み渡る」
緊張していた脳と体が安らぐのと同時に、疲労が一気に襲いかかってくる。立っているのも辛くなり、川戸は地面に座ってしまった。
「お疲れ様でした」
「正人も疲れただろ。この後はダンジョン探索だ。休めるときに休んだ方がいい」
「そうします」
缶コーヒーを一口飲んでから、正人は川戸の隣に座る。
「まさか拳銃まで持っているとは思いませんでしたね」
追跡中、最初は運転手、次はバイクのタイヤ、最後は乱れ打ちといった流れで銃弾を叩き込まれた。レベルアップした肉体でも銃弾は致命傷になり得る。高速で移動しているバイクが転倒すれば、無事では済まない。
自動浮遊盾のスキルがなければ、バイクを大破させて死んだ上に、犯人を逃していただろう。
恐怖心を抱きながらも危険な仕事を乗り越えた二人は、戦友のような独特の連帯感や信頼感が生まれている。過去にユーリが語っていた言葉――危機を乗り越えた数が信頼関係の強化に繋がる、正しいと証明された瞬間であった。
「あれがロケットランチャーだったら、俺のスキルを突き抜けていたかもしれない」
「ああ、確かにそれは防ぎようがなさそうですね。そんな物騒なものを持ち込んでいたら、空港の保安検査はどうなってるんだって、クレームを入れないとですね」
「そうだな」
口数と表情の変化が少ない川戸が、薄く笑った。
すぐに会話は途切れて二人は無言でコーヒーを飲む。
星が浮かぶ夜空を見ながら、正人はユーリたちの到着を待っていた。
◇◇◇
周囲が騒がしくなったのは、コーヒーを飲み始めてから一時間経ってからだった。
警察に誘導されて、見慣れた車が近くに止まる。
「来たみたいですね」
「そうだな」
二人とも立ち上がると、車から降りてきた五人が近づいてきた。両手にはビニール袋がぶら下がっており、ペットボトル飲料やお菓子、おにぎりといった食べ物などが入っている。
「よう、待たせたな!」
集団の先頭を歩くユーリが軽く手をあげて声をかけると、川戸が返事をする。
「予想より早かったな。すぐに行くのか?」
「いや、少しやることがある。出発は三十分後だ。それまでに準備をしてくれ」
「わかった」
ユーリは必要なことを伝え終わると、ビニール袋を渡した。
受け取った川戸はバイクに戻ると、シートを外して収納スペースから折りたたんでいたリュックを取り出し、荷物を詰め込む。
その姿を見ていた正人に里香が近寄った。
「コンビニで二日分の食料を買ったので、受け取って下さい」
「ありがとう」
里香からビニール袋と探索で使っているリュックを受け取った正人は、川戸と同じように食料を詰め込んでいく。その姿を見ていたヒナタが、もう我慢できないといった様子で近づいた。
「真夜中の追走劇! 映画みたいですねッ!」
興奮した声に苦笑いをしながら、正人は顔を上げる。
「ずっと攻撃に耐えてただけだから、映画のように格好よくってわけにはいかなかったけどね」
返事をすると、今度はヒナタの隣にいた冷夏が話しかける。
「攻撃って、相手は銃まで使っていたんですよね? 大丈夫でしたか?」
「川戸さんのスキルのおかげでね。どんなスキルかは知ってる?」
「はい。ユーリさんに聞きました」
正人からの連絡で反撃されていると知り、ひどく動揺した冷夏や里香をなだめるために、ユーリが川戸の自動浮遊盾のスキルを教えていたのだ。
高性能の防御系ユニークスキルのおかげで、絶対に死なないと言い切ってもらえて、ようやく冷夏は安堵する。だが、やはり怪我をしていないか気にはなるので、直接確認したのだった。
そんな心配性の姉を押しのけると、再びヒナタが口を開く。
「映像は残ってないんですか!」
「あるわけないじゃない!」
すかさず冷夏が突っ込んだ。
緊張の続く追跡で、映像を撮る余裕などないと思い込んでいたからだが、実際は違った。
「実はあるんだよ」
逃げられてしまった場合のことを考えて、少しでも犯人の情報を残しておこうと、映像を残していたのだ。
荷物の詰め込み作業を終えると、正人はスマホを取り出して、バイクの後部シートから撮影した映像を見せる。
「うあー! すごい!」
「迫力がありますね」
双子の二人はコーナーを曲がり終わった直後に、銃で撃たれたシーンを見て、感嘆の声を上げていた。
特にヒナタは想像していた通りの映像だったので、テンションが急上昇している。何度も「すごい! すごい!」と繰り返し言っていた。
「本当に無事で良かったです」
里香だけは、ほっとしたような声を出して静かに映像を見ていた。
「どうした。何かあったのか?」
騒がしい声にひかれるようにしてユーリが近づいていくる。少し遅れて川戸、美都も集まり、三人も正人が撮影した動画を見ることになった。
運転するハリーの姿も映っており、ユーリや川戸も映像に釘付けとなる。見逃さないようにと凝視し、顔をしっかりと記憶した。
動画を最後まで再生すると、ユーリが軽く手を叩いて注目を集める。
「休憩はもうすぐ終わりだ。さっさと準備を終わらせろ!」
正人はスマホをしまい、探索用の装備を身につけて立ち上がる。
全員の準備が終わると犯人が逃げ込んだダンジョンに向かうのだった。






