ルーズなヤツだな
ユーリと沖縄で再会した日の夜、探索に使っている武器を車に乗せると、正人たちはホテルから出てフェリー乗り場の駐車場まで移動した。
明かりは数個の街灯ぐらいしかなく、いくつかは寿命が切れかけ点滅している状態だ。周囲は薄暗い。開けた場所だというのに、数メートル先は暗闇に包まれていて見えない。もし近くに敵対する探索者が潜んでいたとしても、目視では見つけられないだろう。
「この後どうしますか?」
「待ち合わせ場所に移動する。こっちだ」
案内するためにユーリが先頭になって歩き、駐車場を出て歩道を進む。
深夜ということもあり周囲に人はいない。車も来ないので真っ暗闇の中、靴音と呼吸音だけが聞こえる。静かな空間だ。
これから犯罪者と戦うという緊張感から、誰も話そうとしない。時間にして十分程度歩いただけだが、正人の体感ではそれ以上の時間が経過したように感じられた。
「左に曲がるぞ」
曲がるといっても、そこに道はない。進行方向は草むらだ。後ろを歩いていた正人たちは不安を抱きながらも、道なき道をひたすら歩くユーリの後を黙ってついていくしかない。
街灯も少なくなり周囲がさらに暗くなると、怖くなった里香が正人の手をそっと握った。少し離れた場所では双子の姉妹が抱きつき合いながら器用に歩いている。
ダンジョン探索に慣れていても、暗闇という原始的な恐怖は克服できていないのだ。
「どこまで行くんですか?」
三人を代表して正人が質問をした。ユーリが襲ってくるとは思っていないが、何も知らされずに明かりもなく人気のない場所を進んでいることに、我慢できなくなったのだ。
「もう少し……いや、ここだ。着いたぞ」
ユーリが急に立ち止まると、軽く手を上げた。
正人の前方から人が近づく音が聞こえる。しばらく待つと、暗闇から見知った顔が浮かび上がった。
「遅かったな」
声を出したのは、先に沖縄に入って犯人を調査していた川戸だ。対人戦のスペシャリストで、ユニークスキルも所持している強力な助っ人である。
見知った人が出てきたことによって、正人はほっと安堵のため息をついた。
「悪い。予定より時間がかかっちまった。お前しかないのか?」
「あの女はもう少し遅れるようだ」
「ちっ、ルーズなヤツだな」
自分が遅刻したこと忘れて、ユーリは舌打ちをした。
「川戸さん、お久しぶりです」
会話に置いてかれていた正人が挨拶をすると、ようやく川戸がユーリ以外の存在に気づく。
「久しぶりだな。後ろの三人は正人の仲間か?」
「はい。左から、立花里香、七瀬冷夏、七瀬ヒナタで、一緒にパーティーを組んで活動しています」
正人に紹介してもらった三人は、軽く頭を下げて挨拶をした。
簡単な自己紹介ではあるが、今はこれで十分だ。お互いを知るために会話をしたいのであれば、仕事を終えた後でいい。
「他にも仲間がいるようですし、まだ、ここで待機ですよね?」
会話の流れからして、まだ誰かが来ると察した正人がユーリに質問した。
「ああ、そうだ。もう一人参加する予定なんだが、アイツは気まぐれだから、遅刻するだろうな。もうしばらく待つぞ」
「え、そんな事、許されるんですか?」
今回の依頼は探索協会の威信がかかっている重要なものだ。それを気分だけで遅刻する探索者が存在するだなんて、正人は思いもしなかった。
反抗的な探索者が、探索協会からどういった扱いを受けるか知っていることもあり、見知らぬ探索者を心配してしまうほどである。
「許されるんだよ。アイツが覚えているユニークスキルは、それほどのものだ」
探索協会といえども全ての探索者に対して、絶対的強者ではいられない。道明寺隼人のような実力者には下手に出る。
この場にいない最後の一人も、同じように替えが効かない能力を持っているからこそ、自由奔放な言動が許されているのだ。
「とはいえ、仕事をさぼれるほど自由はない。必ず来る」
ユーリが最後の一人について説明していると、暗闇の中から間延びした声が聞こえる。
「あらー。待たせてたみたい~?」
大きめなピンクのTシャツに白いタイトなパンツと同色のサンダルを履いた女性が、正人たちの輪に入った。
昼であれば、これからショッピングに出かけるであろう格好をしているこの女性が、川戸やユーリが待っていた最後のメンバーだ。
「意外に早かったな」
「今回はユーリのお願いだったからね~。注目の新人君もいるし、頑張って早く来たんだ~」
近づいたことで女性の顔がハッキリと分かる。正人たちが竹富島に行く途中、フェリーで話した美都だった。あの時と同じように、ノンビリとした雰囲気をまとったまま正人の前に立つ。
「また会ったね」
「お久しぶりです」
「で、ボクを仲間にするか考えてくれた?」
楽をして稼ぎたいからと、フェリーでお願いした話の続きだ。まさかまた言われるとは思っていなかった正人は、驚いてしまい言葉につまる。
このままだと仕事の話が進まないと気づいたユーリが、美都の肩に手を置いて強引に引き離す。
「冗談はその程度にしておけ。そろそろ仕事に取りかかるぞ」
「え~。結構、本気なんだよ?」
「だったらなおさら、仕事が終わった後にじっくり話すべきだろ」
「ユーリの石頭~!」
「うっさい。お前の頭がユルいだけだっ!」
「誰の股が――」
「それ以上は言わせねーよ!」
珍しく、いや初めてユーリが振り回されている姿を見て、正人たちは驚いていた。
死体操作のスキルを覚えていた探索者と戦った時の勇猛で頼りになる姿はなく、たった一人の若い女性と会話するのに苦労している。
口では勝てないと悟ったユーリは美都の口を手でふさぐと、この場にいる全員に向かって予定を伝えることにした。
美都が抗議のために口をモゴモゴと動かしているが、無視だ。
「この先に根城に使われている閉店したバーがある。一階は店で二階は居住区になる。そこに突入するぞ」
「特攻役は任せろ」
「おう。任せた」
敵の攻撃を自動で防ぐ『自動浮遊盾』のスキルを持っている川戸は、盾役として優秀だ。さらに物怖じしない性格でもあるため、適切な人選と言えるだろう。
「正人たちは、裏口を見ててくれ。もし逃げてくるようなら足止めを頼む。捕まえようとしなくていい。無理はするなよ」
「はい」
力強くうなずいた正人を見た後、口から手を離したユーリが、嫌そうな顔をしながら美都に話しかける。
「お前は俺が呼ぶまで、近くで待機だ」
「美都って呼んでよ~」
「うっさい! お前で十分だ!」
「え~」
抱きつこうとしてきた美都を、ユーリは頭を抑えて防ぐ。
最後は緊張感のないやりとりになってしまったが、これから探索協会に忍び込み、スキルカードを盗んだ犯罪者と戦うことになる。油断すれば簡単に負けてしまう相手だ。
逃げ出したときの邪魔をする役ではあるが、危険があるのは変わりない。今回も無事に生き残れるよう、正人は気を引き締め直すのだった。






