かき氷が食べたいかな
チャットアプリのID交換が終わるとユーリは部屋から出ていき、入れ替わるように飯島と中田が戻って撮影が再開された。
沖縄行きが決まったこともあり、女性陣の三人は先ほどよりもモチベーションが上がり、要求された全てのポーズに応えていく。さらに調子に乗った飯島がやや過激なオーダーも出しながらも続き、予定を一時間オーバーして終了することとなった。
数日後、里香は冷夏・ヒナタの家でお泊まり会をしていた。翌日は沖縄に行くので、飛行機に乗り遅れないようにと一緒に過ごすことに決めたのだ。
「沖縄についたらしばらく遊んで良いんだっけ?」
旅行の荷物を詰め終わったヒナタが、漫画を読みながら質問をした。ベッドの上でうつ伏せになって足をバタバタと動かしていて、落ち着きがない。
「数日は遊んで欲しいって言われたらしいよ」
キャリーバッグの中を開けて、荷物を再整理していた里香が答えた。
たまたま旅行に来た探索者だと勘違いしてもらうためにも、遊ぶことも重要だと正人に説明されていたのだ。話を持ちかけたユーリは、犯人に感づかれないように数日遅れて沖縄入りすることが決まっている。他のメンバーも同様だ。
こうやって、慎重に物事を進めているのには理由がある。探索者協会からスキルを盗んだ強盗犯は単独ではなく、裏には海外の犯罪組織がからんでいるのだ。現在は海外に逃げ出さないようにと、沖縄で足止めをしている。
里香たちもそういった事情は共有されているので理解はしているが、沖縄を楽しむ心までは止められない。仕事ではなく何をして旅行を満喫するかと言った話が続く。
「しかも全部、探索協会がお金を払ってくれるみたい。ヒナタちゃんは何をしたい?」
「絶対に海に入る! 姉さんもだよね?」
「もちろん。沖縄といったら海だよね。シュノーケリングしてみたいな」
「いいねー! ヒナタもする!」
双子の姉妹が海の話題で盛り上がっているなか、里香はキャリーバッグに入っていた水着を見ていた。
少し前に正人に選んでもらった大切なもので、ビキニではあるが胸はタンクトップ風になっており、露出度は低い。腰の部分にはフリルがついているので、女性らしさと可愛らしさが両立したデザインだ。他にもサンダルや水着を入れるバッグ等、どれも正人との思い出が詰まっている。懐かしむように見ていると、冷夏から話題を振られた。
「里香ちゃんは沖縄で何を食べる?」
気づかないうちに海から食べ物に話題が変わっていた。
意識が追いつかない里香は、とっさに答える。
「え、ワタシ? かき氷が食べたいかな」
「それって、コンビニでも食べれるよ?」
「あ、そうだったね。じゃぁ、ブルーシールアイスがいいかな」
沖縄でアイスを食べようとすると真っ先に思いつくお店だ。シークヮーサーや紅イモ、サトウキビといった沖縄ならではのフレーバーなどもあるのが特徴で、三人の中では必ず寄るお店リストに入っていた。
「あれいいよねー! アメリカン! って、感じの店内もかっこいい!」
「写真を撮って皆に見せたいね」
「そうだね! 沖縄料理も写真を撮りたいー! ソーキそば、タコライス、ラフテー、いろんなのあるよね!」
食べ物で盛り上がる双子は、クラスメイトに自慢するために、どうやったら美味しそうに写真が盛れるか話し合う。
高校を中退してしまったうえに友人がほとんどいない里香は、会話には入れない。荷物をしまうと、キャリーバッグを部屋のはじに移動させた。座っていた場所に戻ると、今度は遊びの話題に移っていた。
「海以外にもアクティビティがいっぱいあるから迷っちゃうね!」
ヒナタは携帯電話を操作しながら楽しそうにしている。
沖縄といえば海だが、山や川もある。川を滑り落ちるキャニオニングやトレッキング、空中に浮かぶパラグライダー体験といった遊びも充実しているのだ。冷夏と一緒に画面を見ながら、妄想を膨らませていた。
「お仕事があるんだから、体力は残しておかないとダメだよ」
後方支援だとはいえ犯罪組織と戦うのだから、油断のし過ぎは危険だ。気を引き締めてもらうためにも、笑いながら里香は注意をした。
「も、もちろん! ちゃんと考えているから。ね、ヒナタ?」
「そうだよ! このぐらいなら大丈夫だって!」
慌てて携帯電話から目を離して里香を見る。二人とも気まずそうな顔をしていた。本人も浮かれすぎていたと思ったのだ。
里香は二人が視界に入るように座ると、正人からの伝言を伝えることにした。
「はいはい、そういうことにしておくから、装備は忘れずにね。今回はプライベートジェットに乗れるので武器の持ち込みもできるみたい」
当然のことながら警備上の観点から、機内に武器を持ち込むことは禁止されている。探索者は武器の所持が認められているとはいえ、特別扱いはされない。一般人と同様のルールが適応されるのだ。
そのため武器を持って国内を移動する際は車を使うのだが、そうすると時間がかかってしまう。そこで注目の新人探索者の見聞を広げるという理由で、探索協会が所有するプライベートジェット機を貸し出すことになったのだ。
そういった理由もあり、沖縄に発生したダンジョンの探索も予定の一つとして組み込まれていた。
「なんか偉い人になったみたい!」
「そうそう、クラスの友達も羨ましがっていたね」
ユーリの依頼は極秘だが、沖縄の探索はオープンにされている。ヒナタは友達に自慢し回って、その全員にうらやましがられた。その流れを受けて、一緒に行動している冷夏も同じようなことを言われており、二人ともちょっとした優越感のようなものを得ていた。
「旅行するだけでも夢みたいなのに、自分専用の飛行機が用意されるなんて贅沢……二度と経験できないかもね」
里香の場合は自分とは縁のない旅行の話が突然舞い込んできた幸運に戸惑っている。仕事だからと言い聞かせてはいるが、心の奥底では遠足を楽しみにしている子供のような気持ちだった。
「……墜落しないよね?」
幸運は続かない。必ず大きな反発がある。トータルで見ると不幸の方が大きい。少し前までの里香の価値観だった。最近はそういった考えも薄れてきたが、プライベートジェット機の話が出たところで、不安に襲われたのだ。その気持ちは冷夏に伝染する。
「ふ、不吉なことを言わないで! ちょっと怖くなってきた……」
顔色が少し悪くなり、声が震えていた。冷夏が持っていたガラスコップにヒビが入り、その音で短い悲鳴を上げる。涙目になってヒナタに抱きついてしまった。
「ごめんごめん! 冗談だって!」
「今日は、三人で手をつないで寝るからね!」
ベッドの上に移動すると、冷夏は二人を押し倒す。左にヒナタ、右に里香が並ぶ。非常に狭く窮屈だが、側に人がいる実感を得られて不安が薄れていく。
「姉さん、ちょっと狭いよ!」
「うるさい! 我慢しなさい!」
「明日は早いから、静かにしようよー」
こうして騒がしい夜は深夜まで続き、正人が迎えに来るまで仲良く寝てしまうこととなった。






