みんな、どうする?
正人の課題だった魔力不足はスキルを覚えることで改善され、冷夏、ヒナタのレベルアップによってパーティ全体の戦力は底上げされた。東京ダンジョン探索も八層目まで進み、新人としてはハイペースで攻略している。順調に成長しているといっていいだろう。
ここまで進めば、金銭的な余裕も出てくる。
里香は新しい家に引っ越し、冷夏やヒナタは新しい武器を購入している。以前とは環境が大きく変わり、稼いでる探索者の仲間入りを果たしていた。
最近注目の新人、それが正人たちに対する周囲の評価である。もちろん、そういった集団を業界が放って置くわけがなかった。
「ワタシたちに写真撮影の依頼が来てるんですか?」
ファミレスで今月の活動予定を立てていた四人に、一つの案件が舞い込んだのだ。
依頼主は探索協会。男性向け雑誌の特集として、単発で掲載されることが予定されている。
「報酬は一人五万円だって。一応、パーティー全員が呼ばれているけど、メインは冷夏さんとヒナタさんの二人みたい」
美人で双子の現役女子高生、このワードだけで飛びつく人は多いだろう。若い探索者を増やしたい探索協会にとって「高校生でできるなら、俺でも!」と思わせられる二人の存在は都合が良い。広告塔として申し分ないのだ。
「みんな、どうする?」
探索協会からの依頼といっても、本業とは少しズレた内容のため、断っても問題はない。正人は他のメンバーの意見を求めることにした。
「ワタシは賛成です。お金がもらえるお仕事ならやります」
里香は現実的な判断で参加する意思を示した。
頼れる家族はおらず、高校も中退したためお金がないと不安なのだ。探索者になって自分一人なら不自由なく生活できる収入はあるが、どうしても余裕が欲しいと思ってしまうのだ。
「ヒナタも賛成ー! クラスのみんなに自慢するんだー!!」
「クラスはともかく、形に残るのは嬉しいですね」
お金よりも雑誌に掲載される嬉しさが勝っているようで、ヒナタや冷夏も理由は異なるが、それぞれ仕事については前向きに考えている。
三人が出たいというのであれば、正人も否とは言えない。携帯電話を取り出すと、谷口に出演すると返信するのであった。
◆◆◆
ファミレスで話し合ってから数日後、探索者協会の一室で撮影会が開催されていた。
部屋には大きい白い背景シートがあり、撮影用の武具が集められている。入室した正人たちを、首から一眼レフのカメラをぶらさげたカメラマンが歓迎した。
「よく来てくださいました! カメラマンの飯田です。本日はよろしくお願いします」
「初めまして。神宮正人です。こちらこそ、本日はよろしくお願いします」
代表同士の簡単な挨拶が終わると、正人はパーティーメンバーを、カメラマンの飯田はアシスタントの女性——中田を紹介すると、すぐに仕事の話に移った。
「本日の撮影内容は聞いていますか?」
「谷口さんから聞いています。協会が用意した武器を持って撮影されるんですよね?」
「ええ、そうです。何を持ってもらうかは、すでに決まっています。指示に従ってくれれば、すぐに終わりますよ。それでは私は準備をしているので、その間に着替えてください」
飯田が立ち去ると入れ替わるようにアシスタントの中田が近づき、更衣室まで案内する。
正人は一人、個室の更衣室に入ると、防刃性にすぐれた真っ黒な上下が一体化したアンダーウエア、その上に着用するプロテクターがぶら下がっていた。床には革製のブーツとダンジョン鉄製のガントレットが置かれている。
アダマンタイト製の鎧と比べて、防御力は劣るがファッション性は高いと低レベルの探索者に人気の装備一式だった。
「フィット感は悪くないね。通気性もよさそう」
アンダーウェアを着た正人の感想だ。これは装備に加えてもよいかもしれない。そんな感想をもらしながら、手早く着替えを終わらすと更衣室を出た。
里香たちが入った更衣室のドアは閉まったまま。しばらく時間を持て余していると、ガチャとドアノブが回る音が聞こえて女性陣が全員出てきた。
基本装備は正人と同じく、プロテクターを着用しているが男性とは少しデザインが異なっていた。具体的には、体の密着度が上がっているのだ。普段は隠れている一人、一人のスタイルが浮き彫りになり、異性の視線を自然と集めてしまう。
結果、正人の視線は自然と彼女たちの胸に吸い寄せられていくこととなった。
里香は標準的だが、ヒナタはやや胸が小さく、冷夏は逆に大きめと、男性の本能に従って正人の思考が自然と誘導されたところで、里香の顔が赤みがかっていることに気づいた。
「そんなに見られると、その、嫌ではないんですが、少しだけ恥ずかしいです」
「私もちょっとだけ、恥ずかしいですね……」
里香と冷夏の二人は、腕で体を隠すようにして正人を見上げる。
首から下の肌は一切露出されていないのに、正人は妙な色気を感じてしまう。目線はすぐに外すものの、何と言ってフォローすればよいか分からず、悩んでいる。気まずいというより、甘酸っぱい。そういった空間を三人で作り出していた。
「二人とも気にすることないよ―! 減るものじゃないしー!」
そんな空気を壊したのはヒナタだ。
他人の視線は気にならず、腰に手を当てながら胸を張っている。それだけではなく、正人に近づいていく。密着といってもよいほどの距離になると、無邪気な笑顔を浮かべた。
「ねー。どう? ヒナタも魅力的かな?」
「いや、その、まぁ、ねぇ?」
ストレートに似合っていますよと言うことはできず、伝える言葉も選べなかった。
それを面白がったヒナタはさらに距離を詰めようとしたところで、肩に手を置かれた。いや、肩を握りつぶす勢いでつかまれたと表現する方が正確だろう。
痛みよりも、恐怖を感じたヒナタがゆっくりとを後ろを向く。
「ちょっと、近すぎじゃないですか?」
言葉は丁寧だが、目が笑っていない。
里香の頬は引きつっていて、怒りを無理やり押し込めているように見える。
選択肢を一つでも間違えたらBADENDコースに直行するような危うさがあった。
「そ、そうだね! ちょっと近かったかな?」
「そうですよ。わけもなく異性に近づいたらダメですよ。ヒナタちゃんは、無防備すぎるです」
「気を付けるねッ!!」
肩にのった手を外して慌てて正人から離れるが、ここで押されっぱなしなのは嫌だという子供っぽい思考が働き、ヒナタは里香の背中を押した。
「キャッ!」
かわいらしい声とともに里香が思わず目の前に近くにあったものに抱き着いた。見上げると、顔を赤くした正人がいた。
プロテクターの上からとはいえ、女性と密着して照れているのだ。
二十も過ぎて初心すぎる。普通であればもっと女性に慣れているだろうが、小さいころから男に囲まれて育ち、探索者になるまで女性と縁がなかったので免疫がなかったのだ。
「だ、大丈夫?」
「はい……ワタシ、汗臭くないですか?」
「え? いい匂いしてますよ」
「ありがとうございます?」
かみ合っていない会話を続けていた二人だったが、お互いに微笑み、雰囲気は良い。
だが、それを壊す足音が聞こえてきた。
「皆さんお似合いですね」
中田の声で正気に戻る。それと同時に、里香が正人を思いっきり突き飛ばした。
初々しい姿を目撃した中田は内心で喜んでいるだけで、正人が倒れていることには一切触れない。大人の対応として無視することを選んだのだ。
恥ずかしくて触れてほしくない里香にとってはありがたいことだったので、何事もなかったかのように話が進む。
「準備は終わりましたか?」
「大丈夫です! もう撮影ですか?」
「はい。こちらに来てください。飯島がお待ちしています」
中田の案内で、正人一行は撮影室に戻ることになった。






