JKだからってなめんなよ!!
走ってくるヒナタに向かってビッグトードは、舌を鞭のように使って迎え撃つ。
上からたたきつける一撃をヒナタがギリギリのタイミングでかわすと、地面がえぐれて飛び散った土が彼女の顔に当たった。運悪く目にも入ってしまい、足が止まってしまう。その一瞬を狙って、地面についていた長い舌がヒナタの体に巻き付こうとする。
「それはさっき見たよ!!」
近づいてくる風の音から何をされたのか察したヒナタは、後ろに大きく飛んで攻撃を回避した。
目をこすって視界を取り戻す。ビッグトードが短い右手を前に出していた。
とっさにヒナタは魔力視を使う。考えてではなく本能に従っての行動だったが、何をされるのか理解できた。
――水弾。
ビッグトードの手のひらから、人の頭ほどある水の塊が連続して放たれた。
圧倒的な魔力量の差によって、経験したことのない弾幕の前にヒナタは前に出れない。横に、後ろにと回避するので限界だ。それも長くは持ちそうにない。
いっきに体力が削れてしまい、息が上がっている。少しずつだが動き出しのタイミングが遅れているのだ。ビッグトードからの集中攻撃によって行動範囲を狭められていた。ヒナタが仕留められるのも時間の問題であったが、この場には頼りになる姉がいる。
「ダァァァァ!!」
普段は静かな冷夏とは思えない激しい声を出して、横にふるった薙刀をビッグトードの腹に当てる。刃は表皮を切って、さらに筋肉を切り裂き、肉に食い込んでいく。だが、ゴムのように弾力性のある腹を両断するには至らなかった。刃が途中で止まってしまったのだ。
だがそれでも冷夏は諦めない。さらに力を込めて振りぬこうとする。ビッグトードも反撃しようと水弾を放とうと手を向けた。
「すぐに私のことを忘れる! おバカさんだね!!」
ヒナタが壁やビッグトードの体を使って高く飛び上がっていたのだ。レイピアが狙うのは右目。視界に突如として出現した脅威に、ビッグトードはとっさに『水弾』の標的を冷夏からヒナタに変える。
その瞬間、巨体がわずかに浮いた。
自らの意思に反して、足が地面から離れたことに驚愕したビッグトードは、目だけを動かして下を見る。
顔を真っ赤にして叫んでいる冷夏がいた。
「JKだからってなめんなよ!!」
声を出した本人は何を言ったのかすら覚えていない叫び声をあげると、途中で止まっていた薙刀を振り切ったのだ。
腹から血をばらまきながらビッグトードが吹き飛ばされて、ドンと地響きを立ててあおむけに倒れた。
「さすが姉さん! かっこいい!!!! 今の叫び声は、私も使わせてもらうから!!」
「バカなこと言ってないで行くよ!」
ビッグトードは知能は低く鈍感ではあるが、今、危険な状態だということは理解していた。
二人が近づけないようにと、周囲に『水壁』を断続的に出現させて身を守っているが、守りは完ぺきとは言えない。どうしてもスキルとスキルの発動の合間に隙が生まれてしまうのだ。
スキルの効果が切れる。次が出てくるまでの瞬間を狙って、冷夏とヒナタは『水壁』の内側に入り込んだ。
左右に分かれた二人は、両目をそれぞれの武器で突いて、潰す。ビッグトードが暴れだす前にヒナタが舌ごとレイピアを地面に突き刺して縫い付けると、冷夏が薙刀をギロチンのように振り下ろして両断した。粘液があるとはいえ、動きを固定されてしまえば刃は通るのだ。
「グェェェエエエエ!!!!」
今までにないほどの大きい鳴き声を出した。
腹から血はとめどなく流れ、目はつぶれて自慢の長い舌は切り落とされている。だが、ビッグトードへのトドメには至ってない。実体は保ったままだ。
あと数分もすれば消えてしまうような瀕死の状態ではあるが、モンスターとしての脅威は健在である。
ビッグトードは巨体を大胆にも回転させた。
巻き込まれないようにと攻撃を中断して二人は距離をとる。
ようやく立ち上がったビッグトードではあったが、両目が潰されているため、冷夏やヒナタがどこにいるのかすら分からない。しかし簡単に諦めるような存在ではなかった。
「グエッ! グエエエッ!!」
思うように動かない体には意味がないと言わんばかりに、自身を構成する魔力を使い、文字通り身を削って生み出された『水弾』が周囲にばらまかれた。距離、威力、そして数。そのすべてが今までの攻撃のどれよりもあり、戦いを見守っている正人や里香ですら避けなければならない。
当然、ヒナタや冷夏に向かってくる『水弾』はもっと多かった。
「姉さん! これやばい!!」
「しゃべる前に動きなさい! 当たったら終わりだよ!」
走り回って逃げるが、どうしても当たりそうになる『水弾』は武器で受け流して防ぐ。そのたびに、武器が悲鳴を上げていた。特に刀身が細いヒナタのレイピアの消耗は深刻だ。五度受け流したところで、刃はボロボロになっていた。
「ヒナタ! 私の後ろに!」
冷夏の声を聞いてすぐに行動して、指示されたとおりに真後ろにつく。
「私が守るから」
覚悟を決めて足を止める。無数の『水弾』が二人共ども貫こうと襲ってきた。
恐怖で体が固まりそうになるが、かわいい双子の妹が背にいると思えば簡単にねじ伏せることができる。
最初は右にはじき、次は上へと軌道をそらす。三発目の『水弾』は真っ二つに切り裂いて防いだ。
ビッグトードが放つ『水弾』は止まらない。無差別に放たれ続けている。もうどのぐらいの時間、防ぎ続けていたのか冷夏ですら分からない。だが、薙刀の柄が曲がり、刃は折れて自身の終わりが近づいてくることだけは嫌でも理解していた。
ビッグトードの体は半分以上の魔力を『水弾』に使われて、消えかけている。
どちらも限界が近いのだ。
命がけの我慢比べが続き負けたのは、冷夏だった。
パキンと乾いた音がして薙刀が柄から折れたのだ。今まで頼りにして使っていた武器が折れたことに驚き、意識に空白の時間ができる。その間に二つの『水弾』が目の前に迫っていた。
回避はできない。壊れた薙刀では受け流すのは不可能。普通なら絶望するところだが、冷夏は笑っていた。
「最後ぐらい、私が活躍するからッ!」
ヒナタが飛び出し二つの『水弾』をはじく、それと同時にレイピアの刀身が砕け散った。破片が光を反射してキラキラと舞っている。
その光景は美しく、二人はしばらく見とれていた。
ビッグトードの姿はない。すべてを水弾の魔力として使い切ってしまったのだ。
床には、一つの輝く魔石とカードが残っていた。






