バーカ、させるかよ
正人とユーリがレッサーデーモンと戦闘中、残された三人――里香、冷夏、ヒナタは見ることしかできなかった。理由は簡単。圧倒的に戦闘能力が足りないのだ。
死体操作によってレッサーデーモン本来の力を発揮できてないとはいえ、正人が戦えているのはスキルによって底上げされているからであり、里香が行ったところで足手まといになるのは間違いない。
だがそれは何もできないということではない。
探索者として、そしてパーティーメンバーとして協力するのであれば――。
「死体操作のスキルを中断させる」
里香の言葉に冷夏とヒナタはうなずいた。
勝機があるとしたら、レッサーデーモンではなく、それを操作している人物を狙うしかないのだ。
相手はレベル三であるため普通に考えれば無謀な考えではある。だが今は、魔力を使いすぎていて動きは鈍い。さらにスキルの使用に大半の力を使っているため、レッサーデーモンに挑むよりは勝率は高い。さらに三人で一斉に攻めればもっと高まる。
とはいえ、一歩間違えれば仁や和則のように、一瞬で殺されることもあり得る。慌てて飛び出すのではなく、じっくりと機会を待つ必要がある。空気のようになり存在を忘れられ、全員が戦闘に熱中している瞬間を狙うしかない。
正人がレッサーデーモンの頭を突き刺したときも、ユーリが短槍で殺されそうになったときも、じっと心を押し殺してじっと待っていた。
我慢できずに、ヒナタは飛び出しそうになっていたが、冷夏が手を握ることによって何とか留まる。そんなことを繰り返していた。
そしてついに機会が訪れた。ユーリが一人だけ飛び出し、戦況が大きく動いたのだ。
たった一人でレッサーデーモンの足を止めている。
正人は魔力の回復に専念していて動けず、襲撃犯はユーリを突破して短距離瞬間移動を使う正人を殺そうとして必死に操作していた。
戦闘は大詰めにはいり、もう誰も里香たちのことは意識していない。
「ワタシが先陣を切るから、フォローお願いしてもいい?」
状況の変化を察知すると双子の二人に声をかけた。
「任せて。私たちを誘ってよかったと思ってもらえるぐらいは活躍してみせるね」
里香のお願いに、真剣な表情をした冷夏が返事をする。
二人は黙ったままのヒナタを見た。
「姉さんと同じ気持ちだよ! 里香ちゃん一人にさせない」
好戦的な目をしたヒナタが口元に笑みを浮かべて、話を続ける。
「それにさ、無視されてムカつかない? 横っ面をブン殴って、一人前の探索者だって証明してやりたいと思わない?」
レベルやスキル差があるので足手まといになっているのは事実だ。襲撃犯には逃げてばかりで、戦うのは正人に任せっぱなし。仕方がないことでは済まされないほど、探索者としてのプライドは傷ついていた。
この場になってまで怖気づく三人ではない。むしろ逆だ。ようやく巡ってきたチャンスに戦意は高まっている。
「ふふ、そうだね」
頼もしい仲間がいることに嬉しくなり、里香は自然と笑っていた。
「ヒナタも、たまにはいいこと言うね」
「姉さん、いつもいいこと言ってるって!」
冷夏とヒナタも軽口を交わしあいながらも笑顔だ。
人間を殺す覚悟は正人より先にできている。
ここ一番の勝負を前にして力んでいない、実力以上の力が発揮できる良い状況である。
「いくね」
里香は一歩踏み出し、二歩目で加速する。三歩目には襲撃犯との距離は半分になっていた。その後を冷夏とヒナタが必死に追う。
襲撃犯が気づいたときには、里香がぶつかる勢いで片手剣を突き出していたところだった。
「小娘がッ!!」
不意を突かれたとはいえレベル差がある。
襲撃犯はとっさに左手を前に出すと、あえて手を貫かせて強引に片手剣の突きの軌道を変える。心臓を狙った一撃は、肩までも貫いたところで勢いが止まってしまった。
襲撃犯の槍が光る。スキルを使用したのだ。密着した状態だったが、槍を横に振るうだけの余裕はあった。
里香の胸にあたるとダンジョン鉄製の胸当てが大きく凹む。勢いを殺すこともできず、片手剣を持ったまま吹き飛ばされてしまった。
「任せたね!」
痛みに耐えながら入れ替わるように近づく双子の姉妹に後を託す。
「「任せて!」」
冷夏が薙刀を振り下ろして襲撃犯の左腕を切り飛ばすと、ヒナタはレイピアの連続突きで腹にいくつもの穴をあけた。
痛みによってスキルの使用が一時的に中断されて、レッサーデーモンの動きが止まる。里香たちの意地と根性、そしてプライドをかけた攻撃は成功した。
「ふざけるなぁぁ!!!!!」
血を吐き出しながら襲撃犯が叫んだ。
――回復。
完治とまではいかないが、襲撃犯から流れ出る血の勢いが弱まった。
「本当に回復スキルを持ってたんだ!」
「でも、連発はできない。もう魔力はほとんど残っていないはず。ヒナタ、後に続いて!」
治ってしまったのであれば、もう一度攻撃すればいい。
とっさに判断した冷夏が、薙刀を突き出そうとする。
だがその前に、レッサーデーモンが襲撃犯の前に立っていた。片腕は千切れて、顔は半壊している。ユーリたちの攻撃でボロボロにされてでも、守るために呼び戻されたのだ。
「危ない!」
体当たりで冷夏を吹き飛ばした里香が片手剣を構えると同時に、レッサーデーモンの腕が衝突した。
レッサーデーモンの一撃は、人間を容易につぶしてしまう威力を秘めていたはずだが、襲撃犯は十分にスキルを使うことはできず、本来の力は発揮できないでいた。
それでも盾代わりに使ったアダマンタイト製の片手剣は曲がり、里香は膝をついてしまう。
レッサーデーモンがトドメを刺すために、腕を振り上げた。
「バーカ、させるかよ」
――魔力暴発。
ユーリがスキルを使って短槍を投げた。
レッサーデーモンに当たると同時に、短槍に込められた魔力が爆発。腕は吹き飛び、硬かった肌は焼けただれていた。
「正人!」
「分かってますって! 彼女たちではなく、私がヤります!」
ここまで人間に刃物を向けることを避けていたが、里香たちが見せた覚悟と度胸、そして戦場の熱に浮かされた正人は覚悟を決めた。
――肉体強化。
――短剣術。
一気に駆け寄り、鎧の隙間を狙って、動けない襲撃犯の喉元を切り裂いた。
手に残るやわらかい肉の感触、噴水のように噴き出る血、力なく倒れる襲撃犯。そのすべてが不快だった。
スキルの効果が完全に消えたレッサーデーモンは、跡形もなく消え去る。
この場に生き残っているのは、正人たちのパーティーとユーリだけだった。






