初めてのお泊りですね!
東京ダンジョンに向かうミニバンの車内は、いつもと様子が違っていた。一言で表現すると「にぎやか」なのだ。ほんのりと甘い香りまでする。
というのも、里香を車に乗せた後に、七瀬の双子姉妹まで迎えに行く。いつもと違い、女性が三名もいる状態なのだ。
今までは助手席に座っていた里香は、三列目の後部座席に移動。姉妹の真ん中に座って楽しそうに話している。
その分、運転席はやや寂しい。二列目にはダンジョン探索で使う装備品や道具が置かれているので、世界が二つに分断されたようにも感じる。
だが正人は、悪い気はしていなかった。里香が楽しいのであれば、それは良いことだろうと思っている。双子がチラチラと運転席の方を見ているのが気になるが、いってしまえばその程度だ。
(もっと早く、誘っておけばよかった。あの事件がなければもっとスムーズに話が進んでいたかもしれないな。いや、もしなかったら、誠二と七瀬姉妹は同じパーティーのままだっただろう。すると、災い転じて福となすってことか。三人に、わだかまりがなくてよかった)
そんなことを正人が考えていると、東京ダンジョン付近にある駐車場に到着した。
車を止めて駐めて、いつも通りに装備を身に着けていく。
周りにも探索者がいて、同じように準備を進めていた。
「車って便利ですね。電車で移動していたときは、荷物が重くてダンジョンに入る前に疲れちゃうこともあって……」
「ねー。特にお姉ちゃんは体力が少ないから!」
「電車って、そんなに大変だったんだ! 正人さんに感謝だね!」
二人だったときは、ほとんど無言だった。今は三人で楽しそうに会話を続けている。正人は、もっと里香と話しておけばよかったと反省すると同時に、仲の良い同年代の同性が、パーティーに入ってくれたことに感謝する気持ちがわき上がっていた。
「これから、六階層ですよね。私とヒナタは初めて行く場所ですが、大丈夫ですか?」
事前に話は聞いているが、実際、ダンジョンに入ると不安になってしまう。
装備を着け終わった冷夏は、気持ちを止めることはできず、正人に聞いてしまった。
「六階層は私と里香だけでも余裕があるから、最初は見学してて大丈夫だよ」
正人は安心させるために笑顔で答えた。
冷夏とヒナタの肩を叩いてから先頭を歩く。その後ろに里香が続いた。
「あ、まってー! 姉さんも行くよ!」
「う、うん」
ヒナタが冷夏の手を取って追いかけていく。
◆◆◆
ダンジョンに入った四人は、何度かモンスターとの戦闘をする。
人数が二人も増えたが連携に不安はなかった。里香がモンスターを引き受け、冷夏とヒナタがサポート。正人は遊撃として各個撃破していくスタイルだ。
ゴブリンやグリーンウルフで苦戦するようなこともなく、一階層から順調に進んで行くと、トラブルもなく六階層に到着した。
「ここが六階層!!!!」
ヒナタが目をまん丸に開いて喜んでいた。新しい場所、新しい景色に、テンションが上がっているのだろう。
「さ、拠点を目指すよ」
正人が木道を歩くと残りの三人も後に続く。
しばらく進むと三人の探索者が現れた。フルフェイス型の兜をかぶっているため、人相は分からない。探索帰りのようで、大量の荷物を持っている。
探索スキルで来ることは分かっていたので、驚くようなことはない。
トラブルを避けるために、正人は道を譲ることにした。
「お先にどうぞ」
「ありがとう」
先頭を歩く男性が軽く頭を下げると、続く二人も同様の動作をした。
何日間かダンジョン内に籠っていたのだろう。体臭が強かったことが正人の印象に残った。
「……ふぅ。何もなくてよかった」
十分に離れたところで、正人はようやく緊張感から解放された。
女性が三人もいるパーティーなので、変な絡まれ方をしないか内心はドキドキしていたのだ。
「普通でしたね」
「うん。気を取り直して進もうか」
再び、拠点に向かって歩き出す。
死体を発見した場所は使いたくないため、前回とは違う場所だ。木道につながっている広場で、百メートル四方以上はある拠点。そこで一泊してから帰る予定だ。
今回はモンスターを倒すより、ダンジョン内での宿泊に慣れることを目的としていたが、道中、リザードマンやコボルト、フロッグマンと遭遇してしまい、何度も戦闘が発生してしまった。
そのたびに、里香が切り込んでいき正人がフォローする戦い方をしていた。スキルを使う必要すらない。あえて最後に残したリザードマンを冷夏とヒナタに任せたが、二対一であれば危なげなく戦えることが分かった。
「今回は大量ですねッ!」
里香が喜んで正人を見上げる。ほれぼれするような笑顔だ。それだけ、今回のドロップ品は多い。
魔石以外にもフロッグオイルが手に入り、ビンに入れて大切に保存している。これ一つで十万円の売上になるのだから、自然と笑顔がこぼれてしまう。もっと深い階層のドロップ品であれば百万円以上する物もあるが、そこまで行くのはまだ先だろう。
そんな貴重品をかかえたまま、ようやく拠点にたどり着いた。
木道とつながっているため、床は木製で広々としている。周囲に柵はない。外からモンスターが這い上がってくる場合もあるので、深夜の見張りは必要だ。
時間が早いこともあり周囲には誰もいない。正人たちが一番乗りで、お互いに声を掛け合いながら、食事の準備を始めた。
今晩の食事は、お湯だけでご飯が作れるパックやゼリー飲料、ドライフルーツなど持ち運びが楽で栄養価が高いものが選ばれている。水は各自、2Lのペットボトルを三本も持っているので、水分には余裕があった。
探索スキルを持っている正人が周囲を警戒して、他の三人がおしゃべりしながらも進めていく。ピクニックかキャンプに来たような雰囲気だ。景色も良く長閑だ。
危険な場所だということも忘れて、ウトウトとしてしまう。正人は眠気と長い戦いを繰り広げていた。
ダンジョンが創り出した人工の光がやや弱くなってきた頃に、食事の準備が終わって声をかけられる。
「正人さん。食事できました。食べませんか?」
「ありがとう」
あくびをしながら紙皿を受け取ると、正人も椅子に座った。
食べながらもお互いの視線は外を向く、周囲を警戒しながら食事が始まった。
「修学旅行みたいでドキドキするね!」
「ヒナタの意見っと一緒。里香さんも、同年代ですよね?」
「うん。二人と一緒で高校一年だったよ。懐かしいなぁー」
担任に退学届けを出したのが、ずいぶんと昔に感じるほど、探索者になってから一日の密度が濃い。懐かしいと感じる程度に、里香の高校時代の記憶は薄れていた。
「修学旅行だとすると、正人さんは引率の先生かな?」
「それって、おっさんっぽいってこと?」
「違いますよ。頼りになるって意味ですッ!」
正人が、あえて悪い意味として返すと里香は慌てて否定した。
そんな様子を見て冷夏が笑うと、ヒナタの方を向いて話しかける。
「二人ともいい雰囲気ですね。パーティーに誘ってもらえてよかったです。ね、ヒナタ?」
「うん! ゆっくりできるの久々だよね!!」
「そうそう、ちょっと前までは考えられなかった……」
うんざりとした感じで、冷夏が吐き出すように言った。
同じ女性として感じることがあるのだろう。里香は同情的な表情をしている。
「もう大じょ――」
慰めようとした里香だったが、言い終わる前に正人が止める。
「ストップ。大勢の人がこっちに向かってきている。方向的に七階層から戻ってきた探索者だと思う」
探索スキルに反応があり、ピクニック気分から探索者へと意識が切り替わる。
正人の脳内にあるレーダーには、青いマーカーが十数個浮かんでいた。






