さ、一緒に食事でもしよう!
「焼き肉食べに行くんですか?」
「明日の夜に、ユーリさんたちと一緒にね」
ダンジョン探索の帰り道。正人はミニバンを運転しながら今後の予定を伝える。
「ユーリさんから今後の活動についてアドバイスをもらおうと思っているんだ。男ばかりだし、嫌だったら来なくても良いけど、どうする?」
焼肉がメインとはいえ、アルコールが入ることは間違いない。そういった場所に、未成年のしかも女性を連れていくことに抵抗があった正人は、何度目になるか分からない確認をとる。
「もちろん行きます! 一応、興味はありますし」
対する里香の返事も変わらなかったが、今回は少しだけ違った。
「それにあの人たち、冷夏ちゃんやヒナタちゃんにも声をかけていたみたいで、二人からどんな人なのか教えてほしいって言われてるんです」
里香はオーガの特殊個体を倒した後、七瀬の双子姉妹と連絡先を交換していたのだ。
自分を攻撃した誠二は声すら聞きたくないが、二人は直接的な関係はない。一緒に戦った仲ではある。なにより同じ女性という部分も大きかった。
女性特有の悩みの相談は、正人にはできない。そういったことを話す相手を里香だけではなく、冷夏やヒナタも求めていたのだ。仕事の話が通じる貴重な同年代でもあるため、今では休日になると一緒に遊ぶ仲にまで進展していた。
「え、あの二人と連絡を取ってるの?」
「歳も一緒ですし、話しやすくて……ダメでした?」
「ううん。大丈夫だよ。ちょっと意外だっただけ」
「夜はグループチャットで女子会も開いているんです。今度、参加してみますか?」
里香は、いたずらっぽく笑った。
女子会に男が一人だけ参加するなんて、想像するだけでも恐ろしい。検討の余地すらない。正人は瞬時に断ると決断した。
「勘弁してよ。さすがに、その中には入れないよ」
「ふふふ、残念です」
年下にからかわれた正人は、顔が赤くなる。
だが悪い気分はしなかった。
◆◆◆
都内の焼き肉店に五人の探索者が座敷席にいた。
正人と里香の向かい側に、ユーリとその部下の宮内仁、古井和則が隣に座っている。
テーブルには高級牛肉やホルモンの盛り合わせ、キムチやキャベツといったサラダが山のように置かれている。男たちにの手元には、ジョッキに入ったビールがあるが、里香だけはノンアルコールのジュースだ。
「自己紹介はもう良いだろ。肉を目の前にして長々と話すのも無粋。さっさと食べようぜ……俺たちの出会いにカンパーイ!」
ユーリの乾杯の言葉で食事が始まった。
焼く場所は二つある。特に示し合わせたわけではないが、パーティーごとに使う場所が分かれており、正人はトングを使って二人分の肉を焼いていく。
牛タンを焼き網にのせた瞬間、ジューと肉が焼ける音が聞こえる。すぐに縮んでいき、片面がほどよい焼き色に変わると、ひっくり返す。
「里香さん、牛タン食べる?」
「はい。いただきます」
一言断ってから皿にのせた。
里香はレモンをかけると、金属製の箸を使って一口で食べる。
「う~ん。美味しい! お店の焼き肉ってこんなに美味しいんですね!!」
外食と、ほとんど縁のなかった里香にとって、焼き肉など数えられるほどしか食べたことがない。しかも家で焼くタイプだ。お店に入る贅沢など、経験したことがなかった。
感動して泣くのではないかと思ってしまうほど喜んでいる里香を見ると、もっと食べて大きくなるんだぞと言った謎の親心が芽生え、食べることを忘れてどんどん焼いていく。
「焼いてないで正人さんも食べてください。ほら!」
そんなことをしていたからだろうか。里香がトングを奪い取ると、焼く係が変わる。
慣れない手つきで肉をはさんで焼いていく。焼き加減が分からず、少し焦がしてしまった。
「あ、焦げちゃいました。これはワタシが食べますね」
「気にしなくて良いよ」
里香が動く前に正人は箸でつかんで、タレをつけてから口に入れる。
「お肉が柔らかくて美味しいね。里香さん、焼くの上手だよ」
お世辞だとは分かっても、褒められて悪い気はしない。いや、嬉しさがこみ上げてくる。里香はモジモジとしてうつむいてしまった。
「いやー。お二人は仲がいいねー。羨ましい」
隣に座る仁、和則はガツガツと肉を食べてばかりだったが、ユーリは箸を止めて正人たちを見ていた。
「俺らなんて男三人だ。しかも二人は肉にしか興味のない筋肉ダルマだしなぁ」
そういって二人の背中をバシバシと叩くが、無視をして肉を食べ続けている。
気づけば山盛りだった肉が、ほととんどない。食べ尽くす勢いだ。
「俺のおごりだからって、遠慮なく食べやがって……。今日の趣旨を忘れてやがる」
仕方がないなといった風に言っており、ほんのりと愛情がこもっているな態度だった。
男同士の友情を感じた正人は、羨ましく思うと同時に好意も抱いた。こういった友達が欲しかったのだ。
「いい食べっぷりですね。ダンジョン内でもこんな感じで?」
「いや、さすがにセーブはしている。特に泊まりがけの探索をする場合、荷物が多くなるから食料を余分に持っていく余裕はない」
補給が出来ないダンジョン内で食料と水は貴重だ。肉体を維持するために必要だからといって、無制限に食べることは許されない。
筋肉ダルマの二人――仁、和則も食事の量はセーブしていて、控えめな食事を心がけている。その分を取り戻すかのように、今は二、三人分は食べている。話している内容に興味はなく、会話に参加する様子はない。
「なるほど、やはり荷物は重要で?」
「そうだな。予定より一食か、二食は食料と水を余分に持っていく。他にも毛布や着替えも必要だ。他にも探索に必要なものをいれていくと、リュックなんてパンパンだな。余分な物は持って行けない。最大でも三日、最初は一泊二日で帰った方が良いだろう」
ダンジョン内での補給は難しい。常に悩まされる問題だ。
この解決をするために探索協会も補給所を作ってはいるが、九階層にある。正人たちが利用するのは大分先になるだろう。
「そこまで行くと、ポーターが欲しいですね」
「まぁな。だが効率を考えると十階層までは、ポーターを用意するのは難しいだろ。隼人がやっているような遠征じゃないと、そんな贅沢は出来ないな」
探索者にはポーターと呼ばれる荷物持ちをメインに活動している人もいるが、雇うのに一日で数万円が必要だ。
気軽に利用は出来ない。ユーリが指摘するとおり大人数でダンジョンの奥を探索する場合か、もしくは大物を倒すために利用する場合が多い。正人にとっては縁のない話だった。
話が一区切り付き、ユーリはビールを飲む。アルコールに強いようで、勢いよく減っていき空になった。
ドンと、音を立ててジョッキを置く。店員を呼ぶベルを押してから、何かを思いだしたかのように口を開いた。
「あぁ、そうだ。隼人といえば、あいつレベル五になったらしいぞ」
「え……すごい」
驚きの声を上げたのは、レベルアップで苦い思い出がある里香だった。
手を止めてユーリの話に聞き入っている。
「どうやら十五階層のボスを倒したときに上がったらしい。協会の要望をつっぱねて、公表は控えさせたらしいぞ。あそこまでいくと、コントロールも難しいようで要求をのんだらしい」
探索協会としては公表して宣伝に使いたかったのだが、隼人が真っ正面から反対したのでできなかったのだ。
注文をとりにきた店員にビールを頼むと、続きを話す。
「ま、俺らみたいな普通の探索者には関係ない。精々、目をつけられないように探索者協会の邪魔をしないで生きていかないとな」
新人の正人に言い聞かせているのか、それともベテランになっても隼人のステージに上がれない自らに言い聞かせているか、それは分からないが、諦めにも似た言葉は正人の心に強く残った。






