あとちょっとです!
「やったぞーーーーっ!」
他国のリーダーは困難な任務をやり遂げて、叫び声を上げた。他の探索者も後に続き、勝利に浮かれている。
今回活躍したのは日本チームではなく、多くの犠牲を出しながらもマザーにたどり着いた他国の探索者だ。勝利の余韻を味わう権利は十分持っているだろう。このままお互いに苦労をねぎらい、語り合うのも悪くはないのだが、事態は急変している。
マザーの死体からは強烈な臭いが発生していた。
人間が嗅ぎ取れるほどで、正人たちは危機感が高まる。
「仲間を呼んでいるかもしれねぇ。逃げるぞ」
他国のリーダーの判断は速かった。大量の蟻人族に襲われた経験もあるため、即座に撤退の命令を下すと、探索者たちは一斉にマザーの部屋から出て行った。
残っている正人に声をかける人もいたが、動かないことを察すると置いて行ってしまう。
「どうするんですか?」
里香が正人に聞いた。
マザーの部屋は広く、調査には時間がかかる。
残りのマザーが何体いるのかヒントがないか調べたかったが、それすら叶わない。
正人は軽く舌打ちをしてしまう。
「落ち着いてください。残ったマザーはまた見つけましょう」
「……そう、だね……」
里香の言葉で気持ちを切り替えた正人は、『索敵』スキルで周囲の状況を確認する。
他国の探索者たち――青いマーカーはスキルの範囲外まで出て行き、入れ違うようにして赤いマーカーが殺到している。蟻人族が集まってきているのだ。
数は優に千を越える。万に届くかもしれないほどで、水弾と毒霧を組み合わせたスキルでも倒しきれないだろう。
さらに移動のスピードも速い。調査する時間なんてなく、即時撤退を余儀なくされる。
「みんな! 手をつないで!」
輪になるようにつながると、正人は全員に魔力を行き渡せる。
その間にも蟻人族は近づいてきて、マザーの部屋に入ってきた。
全員の目は、怒りに燃えているように真っ赤だ。人間の姿を見ると、一斉に『ギィ!』と悲痛に似た鳴き声を上げる。
――土弾。
スキルを覚えている多数の蟻人族がスキルを使った。空中に土の塊が浮かび上がる。
さらに指揮官がスキルを発動させる。
――連結。
土の塊が集結し、圧縮されていく。拳ほどの大きさしかないが、膨大な質量を持っている。当たれば『障壁』ですら容易に砕き、貫くだろう。
「まだか!」
「あとちょっとです!」
正人の回答で間に合わないと察したユーリは『自動浮遊盾』を発動させた。盾を斜めにして受け流すようにしている。限界まで魔力を注いでいるので現状では最大級の防御力を誇るが、『連結』スキルによって強化された『土弾』を防ぎきることはできなかった。
パリンとガラスが割れるような音がして重ねられた半透明の盾が砕け散るが、軌道は変えられたので土弾は天井にぶつかって突き抜けていった。
「二度目は無理だぞ!」
魔力を使い過ぎて青白い顔になったユーリが叫んだ。
蟻人族はもう二射目の体勢に入っている。数秒後には先ほどと同じ攻撃が来るだろう。
『無駄な戦いは止めてください! 話し合いましょう!』
対話での解決を望んでいるレイアの言葉に、蟻人族は耳を貸さない。マザーを殺された時点で平和的な解決は不可能となってしまったのだ。
――土弾。
――連結。
二射目の攻撃が来た。
転移の準備を中断して、正人は『自動浮遊盾』を並べて受け流すことに成功したが、逃げ出す時間は稼げていない。
続けて三射目、四射目まで来てしまい、正人が防いでいる。
「このままじゃダメです! 隊長級を狙い撃ちしましょう」
「私がやってみる!」
冷夏は頭上に火球を浮かべた。一撃で殺せるようにと魔力をたっぷりと込めて放つ。
狙い通りに隊長級に向かって進むが、数体の一般兵が飛び出て盾になってしまう。攻撃は失敗に終わってしまった。
『進軍しろ!』
遠距離の攻撃を続けながら、一般兵の一部が走ってきた。
遠距離攻撃が止まったので正人は中断していた魔力の浸透を再開させる。
里香と冷夏が遠距離スキルで足止めをしているが、個体としての死を恐れない蟻人族には効果が薄い。怯えることもなく進んでくる。
距離が一メートルを切ったあたりで、ユーリは最後の魔力を振り絞って『アラクネの糸』を発動させた。
地面に張り付いて踏み込んできた蟻人族の足に絡みつく。
ユーリは意識を失って倒れそうになったが、手をつないでいたレイアとヒナタが支えることによって、転倒を逃れる。
糸に絡まって動けない個体を乗り越えて、蟻人族が目の前にまで来た。あと少しで触れる。ギリギリの瞬間に、正人の魔力が全員に行き渡った。
――転移・改。
視界が一転して誠二たちが隠れている場所へ移動した。
津波のように押しかけてくる蟻人族の姿はない。
「あーーー、怖かったー!」
緊張から解放されたヒナタは仰向けに倒れる。レイアはユーリを大切に抱えながら座り込み、冷夏と里香は周囲を警戒している。
「正人の兄貴! どうだったんだ!?」
「作戦は成功したけど失敗した」
「なんだそりゃ……?」
意味がわからないという顔をした烈火に、正人は二体のマザー討伐と他にもいる可能性があることを伝える。
かみ砕いて話したことで、誰もが蟻人族の根絶が達成困難だというのが伝わったのだった。
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小説とは違う面白さがあると思うので、こちらも読んでもらえるとうれしいです!
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