攻撃を叩き込め!
「私がいた異世界には蟻人族の数から逆算して、数十いると思われていました。でもその多くは人間に狩られて死んでしまい、異世界――地球に来たのは最後の一体だったはずです」
人間を見つけたというのにマザーは食事の手を止めない。それが生まれたときから義務づけられているからだ。
十分な栄養が得られれば数秒で卵を産み、一日で成体になって殻を割って出てくる。マザーは食事しながら見送るのが毎日のルーティーンだった。
だが今は邪魔者がいる。この場にいるのであれば、ロイヤルガードを倒すほどの実力者であるのは疑いの余地はなく、無視するには危険性が高い。マザーは面倒になりながらも、食事をしながら小うるさい娘――レイアに話しかけることにした。
『その声は鬼人族の娘か?』
『鬼人族の巫女レイアです。あなたは蟻人族のマザーと見受けられますか?』
『その通りじゃ。我は故郷で最後に残ったマザーであり、敗北者だ』
異世界で生き残れなかったことが強い後悔となっていて、マザーを苦しめていた。
『マザーは一体しか残ってなかったはずです。どうやって増やしたのですか?』
『寿命を削って産んだのじゃ』
通常の個体を産むだけなら問題ないのだが、強い個体、特にマザーとなれば自身の命を賭けて産み落とす必要がある。生き残れる確率は半々だ。出産直後に死ぬことも多いため、今までマザーを産むようなことはしてこなかった。
そのためマザーが増えることは非常に珍しいため、一般的にマザーは増えないと思われても不思議ではなかった。
『だから、体がボロボロなんですね』
『うむ。私はもうじき死ぬ。新しく生まれたマザーは見逃してくれないか?』
『人間を襲うのを止めれば可能性はあります』
『それはむりじゃ。我々は襲い続けなければ生きていけない』
マザーが卵を産んで種族の総数を増やしていく。それは遺伝子に刻み込まれた本能であり、食料と思える生物を見かけたら襲わずにはいられない。地球上の動物を食べ尽くすまでは止まらないだろう。
その迷惑な特性があるため異世界でも蟻人族は嫌われ者であり、駆除対象だった。
『この場にいる新しいマザーが殺されるかもしれないんですよ!?』
『脅しても無駄じゃ。我と同じ存在は他にもいる。種族が絶滅することはない』
『もしかして!! ……あなたは複数のマザーを生み出したんですね……』
地球上にマザーは2体以上いるのだ。今回の作戦を成功させても、蟻人族の撲滅は不可能だと確定してしまった。
正人がレイアとマザーの会話を翻訳しながら説明していたため、里香たちも動揺を隠せないでいる。
『そうじゃ。ここまで来られたことは褒めてやるが、無駄足だったな』
ギギギィと不快な笑い声がこだました。
壁や床に植え付けられた卵が一斉に動き出す。少ししたら新しい一般兵が誕生するだろう。
「交渉は決裂だな」
ユーリがレイアの肩に手を置いた。
「ま、まだ!」
「諦めろ。あちらさんは戦うつもりだ」
マザーは動けないが、戦う手段はある。
産卵を止めて腹部をレイアに向けた。
――自動浮遊盾。
ユーリがスキルを発動させて半透明の盾が間に入ると、液体を受け止める。触れれば肌から毒が侵入して苦しみ悶えて死んでいただろう。
「反撃をするぞ!」
「待ってください! まだ他のマザーの情報が手に入っていません!」
飛び出そうなユーリを正人が止めた。
まだ戦うのは早い。他マザーの情報を得る前に殺すべきではないと判断している。
「素直に話してくれるわけないだろ!」
「ですがヒントぐらいは……!」
「時間を稼がれたら一般兵がなだれ込んでくる! 今がチャンスなんだ!」
ユーリの言葉は最もだ。時間はマザーに味方する。
「正人さん! 行きましょう!」
里香が戦う意志を見せたことで、正人はユーリから手を離して冷夏、ヒナタを見る。
武器を構えながらうなずかれてしまった。
全員が戦う意志を見せている。
説得は諦めるしかないと正人が気持ちを切り替えようとしたところで、後方が騒がしくなった。一般兵が集まってきたのではと後ろにいる里香、冷夏、ヒナタが振り返って警戒をすると、他国の探索者がなだれ込んできた。
集まってきた一般兵を叩き潰してマザーの元へ来たのだ。
「マザーが二体?」
「気にするな! 攻撃を叩き込め!」
言語を取得して交渉できるレイアや正人が異常なだけで、多くの人たちは言葉が通じない。それどころか、「ギィ」と鳴いているだけに聞こえるので、交渉可能な相手とすら思っていなかった。
手に持った銃を向けると、数百をも超える銃弾がマザーに叩き込まれた。少し遅れて遠距離系のスキルも衝突すると、悲鳴を上げながらマザーの巨体が震える。
「事前の情報にもあったとおり動けないみたいだ! 叩き潰せっ!!」
銃弾とスキルによる攻撃は止まらない。十秒ほどで一体目のマザーが、三十秒もすれば二体目のマザーまでが全身に穴を開けて倒れてしまった。
生殖に全ての能力を振り切っていたので、防御力は一般兵より劣っており、全ての攻撃が通ってしまったのだ。
唯一の反撃手段である毒液の攻撃も範囲が狭いので、遠くからでは当たらない。
正人の葛藤を無視して、事態は強制的に進んでマザー討伐は完了してしまったのであった。
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小説とは違う面白さがあると思うので、こちらも読んでもらえるとうれしいです!
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