レイアも行こうー!
「数え切れないほどの蟻人族がいるんですよね!? どうやって倒すつもりなんですか!」
他国の探索者を助けると決めた正人に対して、レイアは非難するような声で言った。
無謀、無茶だと思っており賛同者を募るように周囲を見るが、里香を筆頭に誰も正人の方針には反対していない。自分だけが反対していると気づく。
「どうして、皆さんは何も言わないんですか?」
「正人さんは出来ないことを言う人ではありません。戦うと決めた以上、勝算はあるんですよ」
里香の言葉に絶大な信頼感が含まれていた。
その態度を見てレイアは少し冷静さを取り戻す。
一緒に行動してきた正人は、鬼人族たちのように無謀な戦いをする性格ではない。それだけは付き合いの浅いレイアにもわかる。
ため息を吐くと、レイアは邪魔をしないように黙ることにした。
静かになると正人は神経を集中させる。
――水弾。
水の弾を周囲にいくつも浮かべた。通路を埋めるほどあるが、これだけでは蟻人族に当たって破裂するだけだ。別のスキルを組み合わせることで威力は底上げされる。
――毒霧。
空中に浮かんでいる水が紫色に変わった。強い酸性を帯びており、触れるだけで即座に肉が溶けるほど強力である。これなら外殻を容易に貫けるため、複数体をまとめて倒せるだろう。
さらに球体から、らせん状の長く太い針のような形に変え、回転をしている。
これによって殺傷力、貫通力共に向上した。
最後に正人は脳内に浮かぶレーダーマップを確認すると、蟻人族に追われている青いマーカーが、マザーがいるであろう部屋に追い込まれている。通路には味方がいないので遠慮なくスキルを放てるだろう。
「スキルを使いながら前進します。付いてきてください」
ついに『水弾』と『毒霧』の合成スキルが発動した。ダンジョン内であれば『スキル昇華』が発動して新しいスキルを覚えただろうが、ここは蟻人族の巣であって効果は発動しない。
そのためスキルによるアシストを得られないのだが、正人は複数のスキルを同時に発動させることに慣れているため、発動時間さえ稼げれば大きな支障はなかった。
水針:強酸性ともいえる『水弾』が放たれた。
消費された分はすぐに補充されて残数は減らない。
蟻人族に当たると外殻を容易に貫通して数体まとめて貫く。頭部に当たった個体は即死、腕や足は吹き飛び、腹部に当たるとあまりの苦痛に耐えきれず膝をついてしまう。動きが止まっても次々と水弾が飛んでくるため、集まっていた蟻人族は絶命していく。
数で押しつぶそうとして密集していたことが徒になって、逃げ道がなく照準を定めなくても当たる。
正人は前進して蟻人族の死体を踏み越えて進んで行く。
「すごい……こんなスキル見たことない」
圧倒的な攻撃力を見せる正人に対して、レイアは味方なのに恐れすら感じていた。
一方の里香は自慢げな顔をしている。正人の強さを伝えられて満足しているのだ。誰よりも先に後を付いている。
冷夏やヒナタも似たようなもので、マザーとの決戦が近いのにテンションは高い。
「レイアも行こうー!」
ヒナタが腕を組んで、冷夏と一緒に連れて行ってしまった。
残ったのはユーリだけだ。
念のため背後と天井、床を見るが蟻人族の増援が来る気配はない。
「正人がはりきってるんだ。俺は楽をさせてもらうか」
人類の存亡などどうでもよく、復讐相手でもない蟻人族と積極的に戦う理由はない。
ユーリは短槍を肩に乗せて、死体で作られた道をのんびりと歩き出した。
◇ ◇ ◇
蟻人族は正人からの攻撃を認知できても、スキルや鹵獲した銃を使う前に殺されるため反撃すらできない。次々と倒れていく。
たまに死体に隠れて奇襲をする個体もいるが、『自動浮遊盾』によって防いでいるため、ダメージが入ることはなかった。
数々のスキルを覚え、レベルアップした魔力量は膨大で、底をつくことはない。
無事に青いマーカーが逃げ込んだマザーにつながる入り口まで到着した。
扉の隙間から中を覗いてみる。
他国の探索者がロイヤルガードと一般兵に囲まれながらも、危なげなく戦っていた。また背後には子供の姿も見える。
正人は理由がわからず驚いたが、すぐに今後の計画を組み立てて行く。
戦っている人たちの実力は本物で過剰な助力は必要ない。敵の主戦力を倒せさえすれば自力で切り抜けられるだろう。子供たちを守るのは他国の探索者の仕事だ。正人は別のことをするだけである。
ロイヤルガードの頭部を酸性の水弾で吹き飛ばした後、正人は声をかけずに部屋の奥へ向かって行く。
中に入るとロイヤルガードの倍以上ある巨大な蟻人族がいた。
腹部が脈動していて絶え間なく卵を産んでいる。近くには肉塊や果物が転がっていて、手で持ちながら食べている。
「あれがマザーです!」
後ろから来たレイアが叫んだ。
ついに敵のボスまでたどり着いたのだが、予想外なことが起こる。
なんとマザーは2体いたのだ。事前情報では一体であったはずなのに、増えていたことで一つの懸念が浮かぶ。
「マザーはオーストラリアに……いいや、違う。世界中に何体いるんだ?」
マザーを倒せば蟻人族の増加は止められる。これは間違いない。だがしかし、数が予想よりも多いことでオーストラリア大陸のマザーを倒しても、他にもいるんじゃないかという懸念が浮かんでしまった。






